英国最高裁判所は、2017年7月13日付でアクタビス(Actavis)社とイーライリリー(Eli Lilly)社の特許紛争でリリー社を支持し、今般の判決は、特許侵害判断において請求項の解釈に重要な影響を与えるとみられる。
1. 紛争対象特許および事件の経緯
紛争の対象となったイーライリリー社の特許は、ペメトレキセド(pemetrexed)のジナトリウムおよびビタミンB12を併用投与して癌を治療する用途に関するものであって、いわゆるスイスタイプ(Swiss type)医薬用途請求項(Swiss-type medical use)に関するものである。ペメトレキセド物質自体に関する特許権は、2015年12月に満了したが、ビタミンB12との併用投与に関する本件特許権は、2021年6月に満了する。本件併用投与法は、従来知られたペメトレキセドの毒性を減らし、癌細胞の再生産能力を妨害することができるため、抗癌剤としての医薬用途を有することを特徴とする。
本件特許の出願時の請求項は「葉酸拮抗剤(antifolate)およびメチルマロン酸低下剤(methylmalonic acid lowering agent)」の併用投与を請求し、明細書にはペメトレキセドとしてジナトリウム塩形態のみを開示しており、以降の審査進行過程で記載不備の拒絶理由(lack of support and added matter)を解消するために「ペメトレキセドジナトリウムおよびビタミンB12」を併用投与することに限定して登録された。
一方、アクタビス社は、ペメトレキセドの他の塩形態、つまり、ペメトレキセド酸(pemetrexed diacid)、ペメトレキセドジトロメタミン(pemetrexed ditromethamine)またはペメトレキセドジカリウム(pemetrexed dipotassium)とビタミンB12の併用投与がイーライリリー社の特許を侵害しないことを確認することを要請する訴え(declaration of non-infringement)を提起した。
英国の一審裁判所(the High Court)ではアクタビス社の製品がイーライリリー社の特許を侵害しないとの判決を下し、抗訴裁判所(the Court of Appeal)はアクタビス社製品の間接侵害を認めた。
2. 侵害判断におけるImprover Questionの再設定
英国最高裁判所は、以前の抗訴裁判所の判決とは異なり、請求項の非文献的解釈(non-literal interpretation of the claim)に基づいた均等論(the doctrine of equivalents)の拡大適用によりアクタビス社製品のイーライリリー社特許に対する直接侵害を認めた。英国最高裁判所は、均等範囲と関連した以前の判決、Catnic、ImproverおよびKirin-Amgenに体系的に接近してImproverテストを本事件に適用した。
具体的に、英国最高裁判所によると、特許権の直接侵害判断において、当業者を基準に下記の2つの質問を考慮して少なくとも1つの質問にYESであれば侵害であり、そうではない場合は非侵害である。
(1)変種(variant)が通常の解釈によるとき、請求発明を侵害するのか、侵害でなければ(Does the item infringe any of the claims as a matter of normal interpretation; and if not,)
(2)そうであるにも拘わらず、上記変種が発明と異なる方式に変わったり重要でない方式に変わるため侵害するのか(Although the item may be characterized as a variant、does it nonetheless infringe because it varies from the invention in a way which is immaterial?)
上記質問(2)の均等論適用のために、下記の3つの質問(Improver Question)を考慮すべきであり、質問(2-1)および(2-2)がYESであり、(2-3)がNOであれば、上記質問(2)による直接侵害と判断されることを明確にした。
(2-1) Notwithstanding that it is not within the literal meaning of the relevant claim(s) of the patent, does the variant achieve substantially the same result in substantially the same way as the invention, i.e. the inventive concept revealed by the patent?
(2-2) Would it be obvious to the person skilled in the art, reading the patent at the priority date, but knowing that the variant achieves substantially the same result as the invention, that it does so in substantially the same way as the invention?
(2-3) Would such a reader of the patent have concluded that the patentee nonetheless intended strict compliance with the literal meaning of the relevant claim(s) of the patent was an essential requirement of the invention?
上記Improver Questionの再設定と関連して、侵害か否かを判断するときに考慮すべき部分は、当業者が優先日当時、かかる変種(variant)が作動(work)するということを知り、特許発明と実質的に同一の方法で実質的に同一の結果を達成できるという点が自明であるか、つまり、変種が請求発明の技術的特徴を使用することが自明であるかを判断することである。
今般の最高裁判所判決で再設定された質問(2-2)によると、特定の変種が最初の請求項に含まれる内容であったが、support issueなどの拒絶理由により請求の範囲から排除された場合にも、均等論の侵害判断時に権利範囲に含まれ得ることを判示した。これによって、出願人は技術的に含まれる余地はあるが、サポートが足りない請求項の範囲に対する価値の再考が必要である。また明細書の作成時、狭い範囲の実施例範囲で登録を受けようとする場合にも、優先日当時に知られた内容に基づいて、できる限り広い権利範囲を有する請求項を作成することが有利であるとみられる。
3. 英国特許法における包袋禁反言の法則
英国最高裁判所は、本事件では出願経過(file history)を考慮していないが、(a)特許明細書の記載に限定して請求項の解釈を行うことが論点を不明確にする場合、または(b)出願経過を考慮せずに請求項の解釈を行うことが公共の利益に反する場合には、出願経過が適法に適用されなければならないと述べた。したがって、特許権者は過去の決定、主張および補正事項が請求項の解釈に影響を与えることがあることを留意すべきであると思われる。
|