1. 序説
世界最大の市場の一つである米国では多数の特許侵害訴訟が行われている。米国で特許侵害訴訟が提起される場合、その訴訟の裁判地(venue)に関しては28 USC §1391、28 USC §1400(b)規定の適用を受ける。しかし、今まで米国裁判所は、特許侵害訴訟の裁判地に関して厳格に解釈、適用していなかった。
特許権者は、事実上、大部分の連邦地裁に訴えを提起することができ、必要に応じて自分に有利な特定の裁判所を選択して訴訟を進行するフォーラムショッピング(forum shopping)を行うことができた。そのため、特許権者、特にパテントトロール(Patent troll)は、特許権者の訴訟勝率が相対的に高く、訴訟進行が速いため、被告に相対的により大きな負担となるテキサス州東部地区連邦地裁(Eastern District of Texas)を選択して訴訟を進行する傾向が強かった。
しかし、最近、特許権者のフォーラムショッピングにブレーキをかけることができる趣旨の米国最高裁判所の判決(乃至決定)が言渡されて注目を集めている。
2. TC HEARTLAND LLC v. KRAFT FOODS GROUP BRANDS LLC (2017. 5. 22)
イ.事実関係
本件は、KRAFT社(原告)がTC HEARTLAND社(被告)を相手取ってデラウェア州連邦地裁に特許侵害訴訟を提起した事件である。
TC HEARTLAND社は、自社が設立され、主な事業場が位置するインディアナ州連邦地裁へ事件を移送するために裁判所に移送申請をしたが、一審であるデラウェア州連邦地裁は、このようなTC HEARTLAND社の移送申請を拒否した。
TC HEARTLAND社は、これに対して控訴(乃至抗告)したが、二審である連邦巡回抗訴裁判所(以下、「CAFC」という。)でも上記のようなTC HEARTLAND社の移送申請を拒否した。
TC HEARTLAND社は、米国最高裁判所に上告(乃至再抗告)し、米国最高裁判所はCAFCの判決(乃至決定)を覆し、TC HEARTLAND社の移送申請を認める趣旨の判決(乃至決定)を下した。
ロ.本事件に関する米国最高裁判所の判決(乃至決定)の理由
本事件で裁判地に関する解釈上問題となった規定は、28 USC §1400(b)であり、具体的には「where the defendant resides」の意味の解釈が問題となった。
** 28 USC §1400(b): Any civil action for patent infringement may be brought in the judicial district where the defendant resides, or where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business.
CAFCは、28 USC §1400(b)規定が28 USC §1391(c)規定により補充されると判断し、TC HEARTLAND社の移送申請を拒否した。
** 28 USC §1391(c): Residency. - For all venue purposes -
- a natural person, including an alien lawfully admitted for permanent residence in the United States, shall be deemed to reside in the judicial district in which that person is domiciled;
- an entity with the capacity to sue and be sued in its common name under applicable law, whether or not incorporated, shall be deemed to reside, if a defendant, in any judicial district in which such defendant is subject to the court’s personal jurisdiction with respect to the civil action in question and, if a plaintiff, only in the judicial district in which it maintains its principal place of business; and
- a defendant not resident in the United States may be sued in any judicial district, and the joinder of such a defendant shall be disregarded in determining where the action may be brought with respect to other defendants.
米国最高裁判所は、Fourco Glass Co. v. Transmirra Products Corp., 353 US 222 (1957)事件を引用しながら、特許侵害訴訟において28 USC §1400(b)が裁判地に関する唯一かつ排他的な規定であり、それは28 USC §1391(c)により補充されないと判示して、CAFCの本事件特許侵害訴訟における裁判地に関する判断を覆した。
しかし、米国最高裁判所は、本事件判決(乃至決定)が外国会社を相手取った特許侵害訴訟(つまり、外国会社を被告にした特許侵害訴訟)の裁判地に関して影響を与えることに対しては明示的に否認した。
** The parties dispute the implications of petitioner’s argument for foreign corporations. We do not here address that question, nor do we express any opinion on this Court’s holding in Brunette Machine Works, Ltd. v. Kockum Industries, Inc., 406 U. S. 706 (1972) (determining proper venue for foreign corporation under then existing statutory regime).
3. 今後米国の特許侵害訴訟における管轄法院選択の予想および示唆点
イ.米国最高裁判所の本事件判決(乃至決定)は、特許権者、特にパテントトロールが好むテキサス州東部地区連邦地裁(Eastern District of Texas)が直接的に関連した判決(乃至決定)ではない。しかし、米国最高裁判所の本事件判決(乃至決定)によると、被告がテキサス州東部地区連邦地裁の管轄区域内に居住(resides)していない場合、28 USC §1400(b)の第1の規定(in the judicial district where the defendant resides)を適用してテキサス州東部地区連邦地裁に特許侵害訴訟を提起することは難しいと思われる。つまり、特許権者、特にパテントトロールのフォーラムショッピングを一定部分制限することができると思われる。
被告がテキサス州東部地区連邦地裁の管轄区域内に居住(resides)していない場合、特許権者は今後、
1) 28 USC §1400(b)の第1の規定の適用を主張しながら、テキサス州東部地区連邦地裁の次に好み、多数の会社が設立されたデラウェア州連邦地裁に特許侵害訴訟を提起したり、多数の技術会社が所在するカリフォルニア州北部地区連邦地裁に特許侵害訴訟を提起すると予想され、
2) 28 USC §1400(b)の第2の規定(in the judicial district where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business)の適用を受けるために、テキサス州東部地区連邦地裁に裁判地の認定を受けることができる被告を選択してテキサス州東部地区連邦地裁に特許侵害訴訟を提起すると予想される。
韓国会社が特許権者(原告)として米国で特許侵害訴訟を提起する場合にも、上記のような特許侵害訴訟の裁判地に関する米国最高裁判所の本事件判決(乃至決定)を参照する必要がある。
ロ.一方、米国最高裁判所は、本事件判決(乃至決定)で外国会社が特許侵害訴訟の被告である場合の裁判地に関しては判断していない。したがって、外国会社が特許侵害訴訟の被告である場合には、依然としてBrunette Machine Works, Ltd. v. Kockum Industries, Inc., 406 U. S. 706 (1972)事件でのように、裁判地に制限を置かない改正された28 USC §1391(c)(3)規定(改定前28 USC §1391(d)規定と類似)が適用される素地が大きい。
** 28 USC §1391(c)(3): a defendant not resident in the United States may be sued in any judicial district, and the joinder of such a defendant shall be disregarded in determining where the action may be brought with respect to other defendants.
したがって、米国最高裁判所の本事件判決(乃至決定)にも拘わらず、韓国会社が米国に居住していない場合(例えば、米国法人を設立していない場合)、韓国会社が依然としてパテントトロールのフォーラムショッピングの相手になる可能性があるという点について注意する必要がある。
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