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【事件の概要】
本事件は、韓国法人であるS社(原告)が米国法人であるA社の米国に登録された特許権(以下、「国内未登録特許権」)に対する2014事業年度分使用料(以下、「本事件使用料」)に対して納付した源泉徴収分の法人税の還付を求める、更訂請求に対する京畿道の利川税務署長(被告)の拒否処分に対して、その取消を求めた事件である。原告は、特許権の属地主義の原則上、「国内未登録特許権」に対する「本事件使用料」は、源泉徴収分の法人税の対象である国内源泉所得ではないと主張したとみられる。これに対して原審法院(水原高等法院)は原告の請求を認容したが、大法院は原審判決を破棄し、事件を原審法院(水原高等法院)に差し戻す判決を下した。
【韓国法人が外国法人に支給する国内未登録特許権に対する使用料が国内源泉所得に該当するか否か】
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韓国と米国間の所得に関する租税の二重課税回避と脱税防止および国際貿易と投資の増進のための協約(略称「韓米租税協約」)
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第14条
使用料
(4) 本条で使用される「使用料」とは、次のものを意味する。
(a) 文学・芸術・科学作品の著作権または映画フィルム・ラジオまたはテレビ放送用フィルムまたはテープの著作権、特許、意匠、新案、図面、秘密工程または秘密公式、商標またはその他これと類似する財産または権利、知識、経験、機能(技術)、船舶または航空機(賃貸人が船舶または航空機の国際運輸上の運行に従事しない者である場合に限る)の使用または使用権に対する代価として受ける全ての種類の支給金
第6条
所得の源泉
この協約の目的上、所得の源泉は次のとおり扱われる。
(3) 第14条(使用料) (4)項に規定された財産(船舶または航空機に関して本条(5)項に規定されたもの以外の財産)の使用または使用する権利に対して同条項に規定された使用料は、ある締約国内の同財産の使用または使用する権利に対して支給される場合にのみ同締約国内に源泉を置いた所得として扱われる。
第2条
一般的定義
(2) この協約で使用されるがこの協約で定義されていないその他の用語は、異って文脈に従わない限り、その租税が決定される締約国の法により内包する意味を有する。上記規定にもかかわらず、一方の締約国の法に従うそのような用語の意味が他方の締約国の法に従う用語の意味と異なるか、またはそのような用語の意味がどちらか一つの締約国の法に従って容易に決定されることができない場合、両締約国の権限ある当局は二重課税を防止するかまたはこの協約のその他の目的を促進するために、この協約の目的上、同用語の共通的意味を確定することができる。
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旧法人税法(2015.12.15.法律第13555号で改正される前のものをいい、以下同一。)
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第93条(国内源泉所得)
外国法人の国内源泉所得は次の各号のとおり区分する。
8. 次の各目のいずれか一つに該当する権利・資産または情報(以下、本号で「権利など」という)を国内で使用するか、その代価を国内で支給する場合、その代価およびその権利などを譲渡することによって発生する所得。ただし、所得に関する二重課税防止協約で使用地を基準としてその所得の国内源泉所得の該当の有無を規定している場合には、国外で使用された権利などに対する代価は国内支給の有無にもかかわらず、国内源泉所得と見なさない。この場合、特許権、実用新案権、商標権、デザイン権など権利の行使に登録が必要な権利(以下、本号で「特許権など」という)は、当該特許権などが国外で登録されており、国内で製造・販売などに使用された場合には、国内登録の有無に関係なく、国内で使用されたものと見なす。
イ.学術または芸術上の著作物(映画フィルムを含む)の著作権、特許権、商標権、デザイン、模型、図面、秘密の公式または工程、ラジオ・テレビ放送用フィルムおよびテープ、その他にこれと類似する資産や権利
ロ.産業上・商業上・科学上の知識・経験に関する情報またはノウハウ
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【事実関係の整理および法理の適用】
1. 事実関係
韓国法人であるS社(原告)が米国法人であるA社と米国法人であるA社の「国内未登録特許権」に関して全世界使用ライセンスを締結して「本事件使用料」を支給し、京畿道の利川税務署長(被告)にそれに伴う源泉徴収分の法人税を納付した。その後、韓国法人であるS社(原告)は、利川税務署長(被告)に源泉徴収分の法人税の還付を求める更訂請求を行ったが、利川税務署長(被告)は上記更訂請求を拒否し、韓国法人であるS社(原告)が上記更訂請求の拒否処分に対して取消を求める本事件訴訟を提起した。
韓国法人であるS社(原告)は、利川税務署長(被告)を相手取って、特許権属地主義に基づき、韓米租税協約第6条第3項、第14条第4項第 a号の特許の「使用」は、特許権が登録された国内においてのみ特許発明を実施する形態を意味するため、「国内未登録特許権」に対する「本事件使用料」は源泉徴収の対象となる国内源泉所得ではないと主張した。
利川税務署長(被告)は、「使用」の意味は、特許権自体を使用するのではなく、その特許権の対象となる製造方法・技術・情報など(以下、「特許技術」)を使用するという意味であり、これにより旧法人税法第93条第8号但書後文が韓米租税協約の文脈に反するものではないため、米国法人であるA社の「国内未登録特許権」に対する「本事件使用料」は、旧法人税法第93条第8号但書後文に基づいて国内源泉所得に該当するため、源泉徴収分の法人税は還付の対象ではないと反論した。
つまり、韓米租税協約第6条第3項、第14条第4項第a号の中の「特許の使用」と関連して、いわゆる「国内未登録特許権」の「使用」を、当該技術を製造・販売に活用する「事実上使用」と見なすべきか、あるいは「特許権登録国における輸入・販売など特許発明の実施」と見なすべきかが争点となった。
2. 法理の適用
大法院は、
i) 韓米租税協約は「使用」の意味を別途定義していない、ii) 韓米租税協約第6条第3項、第14条第4項第a号の特許「使用」の意味を特許権が登録された国内においてのみ特許発明を実施する形態に解釈するに値する韓米租税協約の文脈を探し難い、iii) そのために、旧法人税法第93条第8号但書後文は韓米租税協約の文脈に反するとみることができない、iv) したがって、韓米租税協約第2条第2項前文に基づいて「使用」の意味は、租税が決定される締約国である韓国の法に基づいて解釈するべきであるが、v) これと関連して旧法人税法第93条第8号但書後文は、「国内未登録特許権」が国内で製造・販売などに使用された場合には国内登録の有無に関係なく国内で使用されたと見なすと規定する、vi) ここで「使用」は、独占的効力を有する特許権自体を使用するのではなく、その特許権の対象となる製造方法・技術・情報など(以下、「特許技術」)を使用するという意味と見なされなければならない、vii) したがって、「国内未登録特許権」の特許技術が国内で使用されたとすれば、その代価である使用料所得は、国内源泉所得に該当すると見なさなければならないと判断した。
大法院は、上記のような判断と共に、特許権属地主義に基づいて韓米租税協約第6条第3項、第14条第4項の特許の「使用」の意味を「特許権の効力が及ぶ国内における実施」と解釈し、「国内未登録特許権」の国内使用を観念することができないとみた大法院91ヌ6887判決(1992.5.12.言渡)、大法院2005ドゥ8641判決(2007.9.7.言渡)、大法院2012ドゥ18356判決(2014.11.27.言渡)、大法院2013ドゥ9670判決(2014.12.11.言渡)、大法院2016ドゥ42883判決(2018.12.27.言渡)、大法院2018ドゥ36592判決(2022.2.10.言渡)、大法院2019ドゥ50946判決(2022.2.10.言渡)、大法院2019ドゥ47100判決(2022.2.24.言渡)などを本判決の見解に背馳する範囲内で全て変更した。
3. 小結
したがって、大法院は、「本事件使用料」が「国内未登録特許権」に関するものであるという理由のみで、その特許技術が国内における製造・販売などに事実上使用されたか否かを考察しないまま、直ちに国内源泉所得に該当しないと判断した原審の判断には、韓米租税協約上「国内未登録特許権」に対する使用料の国内源泉所得該当の有無に関する法理を誤解した結果、必要な審理を尽くさず、判決に影響を与えた誤りあると判断したうえで、原審判決を破棄し、事件を原審法院(水原高等法院)に差し戻す判決を下した。
【判決の意義】
本判決は、これに背馳される既存の大法院判決を全て変更し、韓米租税協約第6条第3項、第14条第4項第a号の中の「特許の使用」と関連して、いわゆる「国内未登録特許権」の「使用」を当該技術を製造・販売に活用する「事実上使用」と解釈することによって、韓国法人が外国法人に支給する「国内未登録特許権」に関する使用料に対する韓国国税庁の課税処分に正当性を付与したという点から意味がある。今後、これと関連して韓国国税庁に相当な税収効果が発生することが期待される。
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