商標法が全部改正されて2016年9月1日から施行されている。旧法上の特許法などを準用していた規定と商標法体系を整理しつつ、拒絶理由における判断時点、不使用取消審判制度の整備、権利範囲確認審判の対象範囲などに変化があった。出願人の利益と審査/審判制度の迅速を期するきっかけとなった2016年9月1日から施行された改正商標法の主要内容は以下のとおりである。
- 商標の定義規定の改正による標章の拡大(改正商標法第2条)
- 商標の定義規定を明文規定により「自己の商品と他人の商品を識別するために使用する標章であって、これはその構成や表現方式に関係なく商品の出処を示すために使用するすべての表示」と定義し、立体的形状、ホログラム、音、匂い商標などの既存の非典型商標を含み、その認定範囲を構成方式に制限がないと拡大して認めることによって出願人の利益を一層保護しようとするものである。
- 商号としての使用に対する商標権の効力制限規定の変化(改正商標法第90条第1項第1号)
- 旧法第51条第1項第1号の「自己の商号などを普通に使用する方法で使用する商標」に対して商標権の効力が及ばないという規定を「商取引慣行により使用」に拡大して、既存の判例の態度を反映すると同時に、権利範囲確認審判の活用を活性化させるきっかけとなった。ただし、商取引慣行の解釈が如何なる範囲であるのか明確でない面があり、後に判例の態度と傾向を注目すべきであると思われる。
- 不登録事由の判断時点の変更(改正商標法第34条第2項)
- 旧法第7条第1項第6号乃至第9号の拒絶理由に該当するか否かに対する判断時点を出願時から登録可否決定時に基準を変更した。
- 特に旧法第7条第1項第7号の判断時点が登録可否決定時に変更され、出願当時には有効であったが、登録可否決定時には存続期間満了、登録無効(後発的事由を含む)などにより引用商標が失効となった場合には登録が可能であり、類否の判断時点も登録可否決定時となり、出願人の利益を保護できるようにした。
- 商標権消滅後1年以内の出願制限規定の削除(旧商標法第7条第1項第8号の削除)
- 他人の先登録商標消滅後1年以内に同一または類似する商標の出願に対して登録を許与しない旧商標法第7条第1項第8号の規定を削除し、商標選択の機会拡大と不必要な再出願の強制を解消するきっかけとした。
- 付則規定により2016年9月1日以降の登録可否決定時の出願に適用するようにして、2016年9月1日以前の出願でも旧法第7条第1項第8号に該当する商標の拒絶理由が解消されるようにした。
- 条約当事国の先行商標模倣出願防止規定(改正商標法第34条第1項第21号)
- 主体的範囲を「代理人、代表者または出願日以前1年以内に代理人または代表者の関係にあった者」から「同業・雇用など契約関係や業務上取引関係またはその他の関係にある、もしくはあった者」に拡大した。
- 「異議申立」または「情報提供」があった場合に限っていたものを拡大して、職権による拒絶決定を下すことができるようにした。
- 取消審判の対象であったものを無効審判の対象として、5年の除斥期間がなくなる。
- 不使用取消審判規定の整備(改正商標法第119条第1項第3号)
- 利害関係に対する審理による審理遅延を解消するために、不使用取消審判において利害関係を要求しないようにした。
- 取消審決が確定する場合、不使用取消対象商標による権利行使の不合理を解消するために、その効力発生時点を「審判請求時」に遡及するようにした。
- 指定商品別の権利範囲確認審判請求制度の導入(改正商標法第121条)
- 多類が指定された登録商標に対する権利範囲確認審判請求時、全体のみに対して可能であったものを指定商品の一部のみに対して可能にし、過度な審判料の負担を緩和した。
- その他改正事項
- 審査官職権補正対象の拡大-「出願書記載事項」に対しても可能なものと変更。
- 手続無効処分の取消に関連した期間の拡大。
- 登録料の納付または補填による商標出願回復の拡大。
- 異議申立に対する判断主体および異議申立人が主張していない拒絶理由も審査が可能に明文化した。
- 審判請求後1ヶ月以内の取下時に手数料を返還、拒絶決定不服審判において出願段階で出願人の帰責事由なしに拒絶決定が取消された場合に返還するようにした。
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