最近、中国の人件費上昇と租税規制の強化に伴い、韓国企業の生産拠点が東南アジア地域へ移動している。特に、ベトナムは中国の半分程度の人件費と社会間接資本の拡充により、生産拡大地域として高い関心を集めている。
そこで、ベトナムに進出していたり進出予定の企業は、ベトナムで特許権を確保するのが重要となる。以下、ベトナム特許出願手続上の主要内容と知識財産権の侵害時の救済方案を考察する。
1.特許庁
ベトナムは、パリ条約(Paris convention)、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)、世界知識財産権機構(World Intellectual Property Organization)の加入国である。ベトナムの産業財産権担当機構は、ベトナム特許庁(NOIP:National Office of Intellectual Property)であり、ハノイに所在している。
2.出願書類
ベトナム出願時には、出願人(発明者)の氏名、住所および国籍を記載し、ベトナム語で作成された明細書(発明の名称、詳細な説明、請求項、要約書、図面など)2部を提出する。代理人がある場合には委任状を提出し、優先権主張出願の場合には先出願の出願国、出願番号および出願日を記載し、証明書類を提出する。委任状と優先権証明書類を提出できない場合には出願日から3ヶ月内に追って提出することができる。また、2004年5月4日付施行の改正法により、PCT国内段階移行時にも、英語でなく、ベトナム語で作成された翻訳文を提出しなければならない。
3.特許を受けることができない対象
ベトナムでは、単なる発見であって創作でないもの、科学的理論、数学上の公式、人間の精神活動(ゲーム、ビジネス)に対する計画または規則、コンピュータプログラムそのもの、単純な情報の提示、美的創造物、変種の動植物、微生物学的な工程以外に根本的に生物学的特性に基づく動植物を生成するための工程、人間または動物の診断、疾病予防、治療に関する方法は、特許を受けることができない対象として規定している。
4.Grace Period
自己の発明を公開または販売した日から6ヶ月以内にベトナムに出願した場合、自己公知により特許性を喪失しなかったものとすることができる。
5.出願手続
イ.方式審査
特許出願されると自動的に方式審査を受けることとなる。方式審査を通じて出願書類および出願人資格が適法か否かを審査する。
ロ.実質審査
- 審査請求:特許出願後に登録を受けるためには審査請求を要請してベトナム特許庁(NOIP)の実体審査を受けなければならない。審査請求は出願日(または優先日)から42ヶ月内になされなければならない。
- 審査期間:特許出願に対する審査請求時、ベトナム特許庁(NOIP)は審査請求の受付日または出願公開日(いずれかの遅い日)から12ヶ月内に審査結果(拒絶理由通知書または許与通知書)を通知する。
- 他国の審査資料の活用:米国、欧州、日本、ロシアなどで発行された対応出願の審査結果、特許を受けた場合には特許登録証写しを提出すればベトナムにおける審査過程を短縮させることができる。
- 拒絶理由通知の対応:ベトナム特許庁の審査結果、当該出願が記載不備または特許要件の欠如(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)に該当する場合、審査官は拒絶理由を通知し、拒絶理由通知は書面にて行われる。この時、出願人は、上記拒絶理由通知書の受付日から2ヶ月内に補正書および意見書を提出することができ、ベトナム特許庁の期限日は1回に限り2ヶ月の期間延長が可能である。
- 変更出願:審査結果、拒絶決定書が発送された場合、拒絶決定通知日から3ヶ月内に当該特許出願を実用新案に変更して出願することができる。
ハ.公開
すべての特許出願は出願日(または優先日)から19ヶ月経過時に異議申立を目的として公開される。PCT国内段階移行の出願件の場合、方式審査の完了後2ヶ月内に公開される。早期公開申請が行われた場合、申請日から1ヶ月内に早期に公開される。
ニ.異議申立
出願が産業財産権公報にて公表された日から特許権の許与が決定される日の前まで、第三者は出願と関連した特許権の許与または拒絶に関して産業財産権の国家監督機関に意見を提供することができる。異議申立書が受付けられると、ベトナム特許庁(NOIP)は方式審査を行い、提示された理由が妥当であると判断されれば出願人に異議申立受付通知書を送付して意見書または補正書を提出する2ヶ月の期間を与え、異議申立が理由なしと判断されれば異議申立を却下する。
6.出願から登録までの平均期間
出願と同時に審査請求書を提出した場合、出願から登録まで平均約24~36ヶ月を要す。
7.登録/消滅
ベトナムでも出願発明が登録されると出願日から20年間保護を受けることができ、特許期間の延長は不可能であり、消滅した特許は回復させることができない。
8.知識財産権の侵害時の救済方案
ベトナムで知識財産権の侵害を受けている者が選択可能な救済方案は、侵害状況により行政救済、民事訴訟、刑事処罰、輸出入統制など大きく4種類に分類することができる。
- 行政救済は、ベトナム特許庁(NOIP)またはベトナム著作権事務所から侵害事実に対する公式意見書を取得した後、侵害者に対する書面警告状または是正要求書を送付して利用することができる。このような行政救済は、他の救済方案より迅速に侵害行為を中断させることができ、侵害を事前に予防することができるという長所がある。
- 民事訴訟は、法院または仲裁法院に侵害行為の中断命令、侵害による損害賠償請求などを申請して利用することができる。
- 刑事処罰は、すべての知識財産権の侵害に対して申請可能なわけでなく、侵害者が1000万ベトナムドン以上の利益を享有した場合、産業財産権保有者に5000万ベトナムドンを超える損害が発生した場合、侵害財産権の価値が5000万ベトナムドンを超える場合に利用することができる(10,000ベトナムドン= USD 0.45)。
- 輸出入統制は、特定の商品が知識財産権を侵害するものと疑われる場合、その特定の商品の通関を臨時停止し調査することによって侵害から救済を受けることができる方法である。この時、知識財産権の保有者は、対象商品の20%に該当する価額を供託したり、価値判断が難しい場合、最小2000万ベトナムドンを供託しなければならず、知識財産権の権利証明資料、税関の統制を要請する申請書、統制対象商品の明細書、侵害予想者の情報、提出可能なその他情報(入手した写真、侵害予想者の事業計画書など)などを提出しなければならない。
9.その他
その他、ベトナムでは薬学データに対する特別法を施行しており、並行輸入を適法なものと認めている。
|