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2025年施行の改正特許法の整理
弁理士 都智研

2024年12月27に「特許法」一部法律改正案(以下、「特許法」改正案)が国会本会議を通過して2025年7月22日から施行される。今回の一部改正案では「医薬品」に関する特許権存続期間延長制度を中心に改正されており、今回改正された特許法の主な事項は以下のとおりである。

1. 主な改正事項

第一に、医薬品の特許権存続期間の延長時に医薬品許可などから14年を超えないように上限が規定された(第89条参照)。

第二に、一つの許可などに対して延長可能な特許権の個数を1個に制限し、これを超える場合は拒絶されるように規定された(第90条および第91条参照)。

2. 示唆点

既存の特許法は、医薬品の特許権存続期間延長の上限がなく、一つの許可に延長可能な特許権の個数に対する制限がなかった。これとは異なり、米国と中国は特許権存続期間が14年、欧州は15年と上限が定められている。また、米国、中国、欧州は一つの許可に延長可能な特許権の個数も1個に制限している。

その結果、一部の医薬品の場合、主要国よりも国内特許権存続期間が相対的に長く延長されることによって、ジェネリック(複製薬)の発売が遅延されるという問題があった。

これにより、今回の改正特許法を通じて、医薬品の存続期間延長制度を米国および欧州の制度に合致させることによって過度な存続期間延長を防止することができ、国民の医薬品選択権の拡大および健康保険の財政節減に寄与することができるとみられる。

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特許法条項

特許法内容

解説

適用時点
(経過規定)

1

第89条(許可などによる特許権の存続期間の延長)

①特許発明を実施するために他の法令により許可を受けるか登録などをしなければならず、その許可または登録など(以下、「許可など」という。)のために必要な有効性・安全性などの試験により長期間がかかる大統領令で定める発明である場合には、第88条第1項にもかかわらず、その実施することができなかった期間に対して5年の期間までその特許権の存続期間(第92条の5第2項により特許権の存続期間の延長が登録された場合にはその延長された日までをいう。)を一度だけ延長することができる。ただし、許可などを受けた日から14年を超えて延長することはできない。
②(現行と同様)

- 特許権の存続期間に登録遅延による延長期間を含めて許可などによる特許権存続期間の起算点を明確にする。
- 許可などによる延長された特許権の存続期間を許可を受けた日から14年を超えることができないように根拠を設け、違反時に拒絶決定および無効審判を請求することができるようにする。

施行日(2025.7.22)以降、許可などを受けた特許発明の許可などによる特許権存続期間の延長登録出願から適用する。

2

第90条(許可などによる特許権の存続期間の延長登録出願)

①~⑥(現行と同様)
⑦一つの許可などに対して二つ以上の特許権がある場合には延長登録出願人はそのうちの一つの特許権に対してのみ存続期間の延長登録出願をしなければならず、一つの許可などに対して二つ以上の特許権に対する存続期間の延長登録出願がある場合には、いずれの特許権の存続期間も延長することができない。
⑧特許権の存続期間の延長登録出願が次の各号のいずれか一つに該当する場合、その出願は第7項を適用する時は最初からなかったものとみる。
1. 放棄、無効、または取下となった場合
2. 拒絶決定や拒絶するという旨の審決が確定した場合

一つの許可などに対して延長可能な特許権の個数を単数で規定し、一つの許可などに対して二つ以上の特許権がある場合には、延長登録出願人はそのうちの一つの特許権に対してのみ存続期間の延長登録出願をしなければならない。

施行日(2025.7.22)以降、許可などを受けた特許発明の許可などによる特許権存続期間の延長登録出願から適用する。

3

第91条(許可などによる特許権の存続期間の延長登録拒絶決定)

審査官は第90条による特許権の存続期間の延長登録出願が次の各号のいずれか一つに該当する場合には、その出願に対して延長登録拒絶決定をしなければならない。
1~2. (現行と同様)
3. 延長申請の期間が第89条により認められる延長の期間を超える場合
4~5. (現行と同様)
6. 第90条第7項を違反して一つの許可などに対して二つ以上の特許権に対する存続期間の延長登録出願をした場合 

特許権の存続期間の延長登録出願が放棄・無効・取下となるか、拒絶決定または拒絶するという旨の審決が確定した場合には、特許権の存続期間の延長登録出願は最初からなかったものとみる。

施行日(2025.7.22)以降、許可などを受けた特許発明の許可などによる特許権存続期間の延長登録出願から適用する。

4

第93条(準用規定)

特許権の存続期間の延長登録出願の審査に関しては、第57条第1項、第63条、第67条、第78条第1項・第3項、第148条第1号から第5号まで、および第7号を準用する。この場合、第78条第1項中「特許取消申請に対する決定」は「第92条の4および第92条の5による延長登録拒絶決定または延長登録決定」であり、「その審査手続」は「許可などによる延長登録出願審査手続」とみる。

第89条および第90条改正による条文修正

施行日(2025.7.22)以降、許可などを受けた特許発明の許可などによる特許権存続期間の延長登録出願から適用する。

5

第134条(特許権存続期間の延長登録の無効審判)

①利害関係人または審査官の第92条による特許権の存続期間の延長登録が次の各号のいずれか一つに該当する場合には、無効審判を請求することができる。
1~2. (現行と同様)
3. 延長登録により延長された期間が第89条により認められる延長の期間を超える場合
4~5. (現行と同様)
6. 第90条第7項を違反して一つの許可などに対して二つ以上の特許権の存続期間が延長登録された場合
②~③(現行と同様)
④延長登録を無効とするという審決が確定した場合には、その延長登録による存続期間の延長は最初からなかったものとみる。ただし、延長登録が次の各号のいずれか一つに該当する場合には、当該期間に対してのみ延長がなかったものとみる。
1. 延長登録が第1項第3号に該当して無効となった場合:第89条により認められる延長の期間を超えて延長された期間
2. (現行と同様)
⑤延長登録が第1項第6号に該当して無効とするという審決が確定した場合には、その特許権の存続期間の延長登録出願は最初からなかったものとみる。

第89条および第90条改正による条文修正 

施行日(2025.7.22)以降、許可などを受けた特許発明の許可などによる特許権存続期間の延長登録出願から適用する。

*参考資料:特許庁報道資料[改正特許法全文]