1. はじめに
最近、 Elekta Ltd. v. ZAP Surgical Systems, Inc., No. 21-1985 (Fed. Cir. 2023) 事件で、連邦巡回区控訴裁判所の判決は極めて異例的であった。本判決は、たとえ先行文献が互いに異なる技術分野に関連したものであるとしても、特許審査過程で生成された包袋履歴を利用して上記文献を組み合わせる動機を見つけることができると判示している。本事件で特許権者Elektaは、放射線治療に関する発明であるが、審査過程でIDS資料としてイメージング装置に関する資料を提出した。しかし、このようなIDS提出により、裁判所は一般的な技術者が放射線治療とイメージング技術、この両分野にわたっている技術を組み合わせる動機を有するという推論に至った。
本事例は、特許審査過程において包袋履歴が如何に重要な役割を果たし得るのかを示しており、出願人にはIDS資料提出を慎重に管理する必要性について強調する。出願人は、IDSとして提出する文献を慎重に選択し、審査過程で如何なる文献が如何に解釈され得るのかについて明確に理解していなければならない。
2. 事件の背景
Elektaの特許(US 7,295,648特許)は、同心円環に装着された放射線源を使用してイオン化放射線で患者を治療する装置に関するものである。当事者系レビュー(inter parte review)において米国特許審判院(Patent Trial and Appeal Board、以下、「PTAB」)は、二つの先行文献GradyおよびRuchalaを組み合わせて進歩性がないと判断した。
Gradyは、回転する支持リングに連結されたスライディングアームにX線チューブを装着したX線映像装置に関するものであり、これは主に映像機器として使用される。一方、Ruchalaは、線形加速器(linac)を放射線源として使用し、この線形加速器が患者周辺を回転しながら放射線量を伝達する放射線治療器に関する技術であり、これは治療装置として使用される。
控訴審においてElektaは、当該分野の一般的な当業者であれば、Gradyの映像装置とRuchalaの治療装置とを組み合わせる動機がないと主張した。しかし、連邦巡回区控訴裁判所は、包袋履歴を含む多様な証拠を検討した後、PTABの組み合わせの動機を裏付けることができる実質的な証拠を見つけ出し、結局、PTABの判断を支持した。
3. 包袋履歴を根拠として先行文献の組み合わせの動機を見つけることができるか否か
Elektaの主な争点は、当業者が映像および治療のような異なる技術分野の先行文献を組み合わせる動機があるか否かである。Elektaは、映像技術が治療分野には組み合わせられないと主張し、特に治療に使用される線形加速器の重量が重いため、映像撮影用として設計された支持システムでは効果的に作動しないと反論した。
しかし、PTABは、このような特許権者の主張に同意せず、映像と関連した先行文献と治療と関連した先行文献とを組み合わせる動機があると判断した。判断の決定的な要素の一つは、特許権者がIDSとして映像関連の先行文献を提出したという事実である。
本事件の記録をみると、特許権者がIDS提出時にイメージング装置を引用し、審査官は拒絶理由(Office Action)で当該文献を引用した。特許権者は上記文献を特定の装着構成を基に差別化を試みたが、この文献が治療システムでなく映像システムであるという点については書面で異議を提起しなかった。その後、審査官は、登録通知書で放射線源装着のための最新技術として異なるイメージングシステムを言及し、特許権者はこれに対し、治療システムへの適用の可能性について如何なる明示的な異議も提起しなかった。
控訴過程において連邦巡回区控訴裁判所は、PTABがIDS記録に基づいて当業者が組み合わせる動機を推論することは適切であると判断した。また特許権者が審査過程で映像装置と関連した先行技術は関連技術(relevant art)でないと反論しなかった点も裁判所の決定に重要な要素となった。
裁判所は、上記審査履歴が映像および治療の先行資料の全てが本発明と関連があることを裏付けており、したがって、この先行資料を組み合わせようとする暗黙的な動機を形成したと判断した。追加的に、審査過程で引用された映像の先行文献はIPRで引用した先行文献とは異なる。それにも拘らず、このような映像の先行文献の引用は、当業者が異なる映像の先行文献を組み合わせようとする動機を有するようになると判断した。
4. むすび
本事例は、出願人がIDS文献の提出時、拒絶理由の対応時、また登録通知書の検討時において、非常に慎重かつ戦略的になる必要があることを示す。出願人の審査履歴を通じて互いに異なる技術分野の先行文献を組み合わせることができる動機を見つける可能性があるため、次のような注意事項を考慮する必要がある。
(1) IDSで先行文献を引用する時、引用された文献が当該発明と直接的に関連した領域から出たことを明確にし、異なる分野から引用されたと誤解釈されないように慎重に陳述を作成しなければならない。
(2) 審査官が拒絶理由として異なる技術分野の先行文献を引用する場合、当該技術分野は適用が不可能であるか、または組み合わせることができないことを必ず明確に主張しておかなければならない。
(3) 他の理由で拒絶が克服されても、当該異なる技術の適用の可能性に関する如何なる認定も記録しないことが重要である。
(4) 告知(disclaimer)を通じて出願人が明示的に反論しなくても、異なる技術分野の先行文献が適用可能であることを認めるわけではないと記載しなければならない。
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