1. 先後願の関係の新規性の判断
請求項に記載された発明と引用発明がそれぞれ上・下位概念で表現された場合には次のとおり取り扱う[2004ホ6507、2001フ2740]。
請求項
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引用発明
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新規性
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上位概念
ex) 金属
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下位概念
ex) 銅(Cu)
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新規性の否定が可能
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下位概念
ex) 電力輸送用超伝導ケーブル材料として銀が記載
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上位概念
ex) 金属材質の超伝導ケーブルが公知となっている場合、電力輸送分野で超伝導現象を利用するためにケーブルの材質として銀を使用することが周知慣用の技術に該当すれば、金属材質の超伝導ケーブルから銀からなる超伝導ケーブルは自明に導出可能であるため、新規性の否定が可能
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出願時の技術常識を参酌して判断した結果、上位概念として表現された引用発明から下位概念として表現された発明を自明に導出可能な場合には、下位概念として表現された発明を引用発明と特定して請求項発明の新規性の否定が可能(ただし、単に概念上、下位概念が上位概念に含まれたり、または上位概念の用語から下位概念の要素を列挙できるという事実のみでは下位概念として表現された発明が自明に導出可能であるといえない)
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2. 分割出願などで分離時に抵触するか否か
分割出願があった場合、その分割出願は原出願したときに出願したものと見なすため、分割出願の請求の範囲に記載された発明が原出願の請求の範囲に記載された発明と同一であれば、同一の発明に対して同日に2以上の出願が存在するという問題が発生する。
この場合、分割出願の客体的要件は満たされるため、分割出願を認め、特許法第36条第2項(先出願主義)を適用して審査しなければならない。分割出願当時には請求の範囲に記載された発明が同一でなかったが、原出願または分割出願が補正されて請求の範囲に記載された両方の発明が同一になったときも同様である。
(1) 同一の発明に対して分割出願などで分離された場合の取り扱い
① 競合する出願の有効確認-競合する出願(以下、競合出願)が無効・取下・放棄されたり、特許法第36条第2項または第3項でない拒絶理由により拒絶決定が確定した場合、または無権利者の出願に該当する場合には、当該競合出願の先出願の地位が排除されるため、当該出願に対して競合出願が最初からなかったと見なして審査手続を進行する[特許法第36条第4項および第5項]。
(参考) 審査実務において競合出願の発生するケースは、出願人や発明者が異なることは少なく、主に出願人が分割出願する際に原出願の請求の範囲を誤って補正した場合が殆どである。また、分割出願において原出願の請求項と同一の請求項を記載する場合がある。
② ⅰ) 競合出願が特許決定されたり特許法第36条第2項または第3項の拒絶理由により拒絶決定された場合には、審査官は特許法第36条第2項または第3項の拒絶理由(他の拒絶理由がある場合にはその拒絶理由を含む。)を通知する。ⅱ) 競合出願が特許決定前であれば、審査官は特許法第36条第2項または第3項の拒絶理由を問わず、他の拒絶理由を通知する。出願人が補正した後に通知された他の拒絶理由が解消されなかった場合には拒絶決定する。一方、既通知された拒絶理由が全て解消された場合、審査官が再び審査する際に競合出願の特許成否が決定しておらず、第36条第2項または第3項の拒絶理由を除いた拒絶理由を発見できない場合には登録決定する。しかし、審査官が再び審査する際に競合出願が特許決定されて第36条第2項または第3項の拒絶理由が存在すれば、当該出願に対して第36条第2項または第3項の拒絶理由を通知する。このとき、競合出願の請求の範囲が最後補正された日より後に当該出願の請求の範囲が補正された場合(他の拒絶理由があるとすれば、全て最後拒絶理由である場合)であれば、最後拒絶理由を通知し、そうでなければ最初拒絶理由を通知する。ただし、競合出願が特許決定前でも、当該出願の特許成否を決定する際に競合出願が特許決定されて、第36条第2項または第3項の拒絶理由を通知するべきと予想される場合には、特許法第36条第2項または第3項の拒絶理由を他の拒絶理由と共に通知することができる。このとき、審査官は協議要求を同時に行う。
(2) 競合出願と分割出願で上位概念/下位概念出願の相互関係
競合している両出願の請求項にそれぞれ上位概念および下位概念が含まれている場合、両方が同一であることを理由としていずれか一つの出願は拒絶されない。これは分割出願における原出願とその子出願(分割出願)に上位概念と下位概念がそれぞれ含まれている(その逆も該当)場合にも同様である。審査指針書p.3510によると、上記のような関係にある出願の発明相互間に必要充分条件の成立、すなわち、2つの出願のうち第1出願の発明が第2出願の発明と互いに同一な場合にのみ拒絶される。したがって、上位概念と下位概念の発明間には必要充分条件が成立しないため、両方が同一であることを理由としていずれか一つの出願は拒絶されない。
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