【事件の概要】
特許権者(原告)は、特許権侵害訴訟の相手方(被告)の実施製品が本事件特許発明を侵害したと主張する特許権侵害訴訟を提起し、原審で原告敗訴して大法院に上告した事件であって、文言侵害および均等侵害か否かが問題となった事件である。
本事件では被告実施製品が本事件特許発明を侵害するか否かに対して、以下のような法理に基づいて判断する。
【文言侵害および均等侵害の判断方法】
特許権侵害訴訟の相手方が製造する製品または使用する方法など(以下、「侵害製品など」という。)が特許権を侵害したとするためには、特許発明の請求の範囲に記載された各構成要素とその構成要素間の有機的結合関係が侵害製品などにそのまま含まれていなければならない。侵害製品などに特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち、変更された部分がある場合にも、特許発明と課題解決原理が同一であり、特許発明と実質的に同一の作用効果を奏し、そのように変更することがその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は誰でも簡単に考え出すことができる程度であれば、特別な事情がない限り、侵害製品などは特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものであり、依然として特許権を侵害するとみなければならない(大法院2017フ424判決(2019.1.31.言渡)、大法院2016フ2546判決(2020.4.29.言渡)など参照)。
【事実関係の整理および法理の適用】
1. 事実関係の整理
名称を「変形可能な機械的パイプカップリング」とする本事件特許発明の請求の範囲第1項は、パイプカップリングセグメントと一対のパイプ要素からなる組合体に関する発明であり、そのうちの構成要素8を含むか否かが問題となった。
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本事件第1項発明
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被告の製品
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構成要素8
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カップリングセグメントが円周方向グルーブ内でパイプ要素の外部面にアーチ型表面の曲率を一致させるために連結部材が締め付けられるときに変形
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カップリングセグメントは円周方向グルーブ内でパイプ要素の外部面に連結部材が締め付けられるときに変形
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2. 法理の適用
1) 構成要素8の解釈
構成要素8の「曲率を一致させるために」部分は、単に曲率変形と関連した主観的な目的を記載したものではなく、連結部材が締め付けられるときにカップリングセグメントのアーチ型表面の曲率が円周方向グルーブ内でパイプの外部面の曲率と一致する程度まで変形され得るという点を限定したものと解釈することが妥当である。ただし、この時、「曲率の一致」は、微細な誤差もない完全な曲率の一致を意味するのではなく、漏水防止のようなパイプカップリングとしての正常な機能を発揮できる程度にセグメントのアーチ型表面とグルーブ内でパイプの外部面とが実質的に合致した状態を意味すると解釈される。
2) 文言侵害か否か-積極
被告製品は、連結部材の締め付けによりアーチ型表面が曲げ変形されてアーチ型表面とグルーブ内でのパイプ外部面(エンドキャップ)との間の間隙が減り、最終的にはアーチ型表面がグルーブ内でのパイプ外部面(エンドキャップ)に密着するようになることが分かる。また、被告製品は、連結部材の締め付けにより漏水防止のようなパイプカップリングの正常な機能を発揮するに十分な程度にアーチ型表面とパイプ要素とが結合するとみられる。このような点に照らしてみると、被告製品は、連結部材が締め付けられるとき、アーチ型表面の曲率が漏水防止のようなパイプカップリングとしての正常な機能を発揮できる程度にグルーブ内でパイプの外部面と実質的に合致する程度まで変形されるとみるに十分であるため、構成要素8を含んでいるとみることができる。
3) 均等侵害か否か-積極
①本事件第1項発明の課題解決の原理は、「対向して離隔している180°以下の角度をなすカップリングセグメントのアーチ型表面の曲率をパイプ要素の外部面の曲率よりも大きくし、カップリングセグメントの離隔間隔をパイプ要素に挿入されるに十分な間隔で維持できるように密封部の外径サイズを設定して、カップリングを分解することなくパイプ要素に挿入することができるようにした後、連結部材の締め付けによりカップリングセグメントのアーチ型表面の曲率が漏水にならない程度に変形されるようにしてカップリングとパイプ要素が迅速に結合するようにすること」といえ、これは被告製品にもそのまま含まれているため、課題解決の原理が同一である。
②被告製品も仮組立状態のカップリングセグメントを分解なしに設置することができるようにして費用と時間を節減することがきるという点において本事件第1項発明と作用効果が同一である。
③本事件第1項発明において、連結部材の締め付けによるセグメントのアーチ型表面の曲率変形の程度は、漏水防止のようなパイプカップリングの正常な機能を発揮できるようにする範囲内で必要に応じて適切に調節することができるものであって、通常の技術者であれば、特別な努力なしに容易に行うことができる程度の変更に該当する。
3. 結論
被告製品は、「パイプ要素」を除いては、本事件第1項発明と同一または均等な構成要素と、その構成要素間の有機的結合関係をそのまま含んでいるため、原審としてはパイプカップリングセグメントに関する被告製品がパイプカップリングセグメントと一対のパイプ要素からなる組合体に関する本事件第1項発明の物の生産にのみ使用する物であるのかを審理して、本事件第1項発明の特許権を間接侵害するか否かを判断しなければならない。それにも拘らず、原審は、被告製品が本事件第1項発明の構成要素8と均等な構成を含んでいないとの理由により本事件第1項発明を侵害しないと判断した。このような原審判決には、均等侵害に関する法理を誤解し、必要な審理を尽くさないなどにより判決に影響を与えた誤りがある。
【判決の意義】
本判決によると、特許発明の請求の範囲に記載された各構成要素と、その構成要素間の有機的結合関係が侵害製品などにそのまま含まれているか否かを基準として文言侵害を判断し、侵害製品などに特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち、変更された部分があって文言侵害が成立しない場合にも、特許発明と課題解決原理が同一であり、特許発明と実質的に同一の作用効果を奏し、そのように変更することが当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は誰でも容易に考え出すことができる程度であるか否かを基準として均等侵害を判断すべきである。
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