【事件の概要】
本事件は、「原出願」時に公知例外の主張を行っておらず、それから分割して出願した分割出願において公知例外の主張を行って、原出願日を基準とした公知例外の効果が認められるか否かが問題となった事件である。
【公知例外および分割出願関連規定】
1. 公知例外関連規定
特許法第30条第1項第1号は、特許を受けることができる権利を有する者によりその発明が特許出願前に国内または国外で公知または公然実施されるなどにより特許法第29条第1項各号のいずれか一つに該当するようになった場合(以下、「自己公知」という。)、その日から12ヶ月以内に特許出願すれば、その特許出願された発明に対して特許発明の新規性または進歩性(特許法第29条第1、2項)規定を適用するとき、その発明は第29条第1項各号の公知の発明に該当しないとみるとして、公知例外の規定を設けている。また、同条第2項は、同条第1項第1号の適用を受けようとする者は、特許出願書にその趣旨を記載して出願しなければならず、これを証明できる書類を特許出願日から30日以内に特許庁長に提出しなければならないとしており、公知例外適用のための主張の提出時期、証明書類提出期限など手続に関する規定を設けている。
2. 分割出願関連規定
特許法第52条第2項は、適法な分割出願がある場合、原出願日に出願したものとみなすという原則と、その例外として特許法第30条第2項の公知例外主張の提出時期、証明書類の提出期間に関しては分割出願日を基準とすると定めている。これは公知例外主張の時期および証明書類提出期限を原出願日に遡及して算定すると、分割出願時に既にその期限が過ぎている場合が多いためである。
【事実関係の整理および法理の適用】
1. 事実関係の整理
1) 原告は2014年8月頃、原告本人の修士学位論文(先行発明3)を公開した。
2) 原告は2014年12月23日に原出願を行ったが、原出願当時、特許法第30条第1項で定めた公知例外の主張を行っておらず、特許庁審査官から先行発明3により新規性および進歩性が否定されるとの趣旨の意見提出通知を受けた後、原出願の補正期間内である2016年8月30日に分割出願と共に公知例外の主張を行い、2016年8月31日に原出願申請を取下げた。
2. 法理の適用
1) 分割出願規定である特許法第52条第2項では、次のような公知例外の効果の認定要件を定めていない。
①原出願で公知例外の主張を行わず、分割出願でのみ公知例外主張を行った場合には、分割出願日を基準として公知例外の主張の要件の充足有無を判断(公開日から12ヶ月以内に分割出願を行ったのかを判断)しなければならないとの要件
②分割出願において公知例外の主張を行うとき、原出願での公知例外の主張が先行してこそ原出願日を基準として行った公知例外の効果を認めるとの要件
結局、分割出願規定の文言上では、原出願時に公知例外の主張を行わなくても、分割出願が適法になされれば、特許法第52条第2項本文により原出願日に出願したとみなされるため、自己公知日から12ヶ月以内に原出願が行われ、分割出願日を基準として公知例外の主張の手続要件(分割出願書に公知例外主張の趣旨を記載し、証明書類を分割出願日から30日以内に提出)を満たせば、分割出願が自己公知日から12ヶ月を徒過して行われたとしても、公知例外の効果が発生すると解釈することが妥当である。
2) 特許法は、原出願当時の請求の範囲には記載されていないが、原出願の最初の添付明細書および図面に記載されている発明に対して後日権利化する必要性ができた場合、これら発明に対しても分割出願を行ってこの分割出願が適法なものであれば、原出願と同時に出願を行った同じような効果を認めることも許容している。したがって、原出願当時には請求の範囲が自己公知した内容とは関係がなく、公知例外の主張を行わなかったが、分割出願時に請求の範囲が自己公知した内容に含まれている場合があり得、このような場合、原出願時に公知例外の主張を行わなかったとしても、分割出願で公知例外の主張を行って出願日の遡及の効力を認める実質的な必要性がある。
3) 分割出願は特許に関する手続において補正とは別個の制度であり、補正の可否とは関係なく特許法第52条の要件を満たせば許容される独立した出願である。したがって、特許出願書に公知例外主張の趣旨を記載するようにした特許法第30条第2項を形骸化する虞があるという点において、出願時に漏れた公知例外主張を補正の形式で補完することは許容されないが(大法院2010フ2353判決(2011.6.9.言渡)など参照)、この点が原出願時に公知例外の主張を行わなかった場合、分割出願における公知例外主張を許容しない根拠となるとみることは難しい。
4) 上記2010フ2353判決以降、出願人の権利保護を強化するために特許法第30条第3項を新設して(2015年1月28日付法律第13096号で改正されたもの)、出願人の単なる過ちで出願時に公知例外の主張を行わなくても、一定期間公知例外主張の趣旨を記載した書類やこれを証明できる書類を提出することができる公知例外主張の補完制度を導入した。しかし、特許手続における補正と分割出願は、その要件と趣旨を異にする別個の制度であるという点から、原出願において公知例外の主張を行わない場合、分割出願における公知例外主張により原出願日を基準とした公知例外の効果が認められるか否かの問題は、特許法第30条第3項の新設前後を問わず、一貫して解釈することが妥当である。
5) これに対して公知例外規定は、特許法制定以降、現在に至るまで、その例外認定事由が拡大され、新規性だけでなく進歩性と関連してもこれを適用し、その期間が6ヶ月から1年に拡大されるなどの改正を通じて特許制度に未熟な発明者を保護するための制度を越えて、出願人の発明者としての権利を実効的に保護するための制度として位置付けられているという点まで加えると、分割出願において公知例外主張を通じて原出願日を基準とした公知例外の効果が認められることを制限する合理的理由を探し出すことは困難である。
3. むすび
1) 上記事実関係と法理に照らしてみると、原告は本事件出願発明と同一の発明である先行発明3を公開した2014年8月頃以降12ヶ月以内である2014年12月23日に本事件原出願を行い、当時公知例外の主張を行っていなかったが、分割出願の可能期間内である2016年8月30日に分割出願と共に手続を遵守して公知例外の主張を行った。したがって、原告が自己公知した先行発明3は、本事件出願発明の新規性および進歩性否定の根拠にならないとみることができる。
2) それにも拘らず原審は、原告が分割出願時に公知例外の主張を行ったとしても、原出願時に公知例外の主張を行わなかったため、本事件出願発明は先行発明3により新規性および進歩性が否定されるとみなしてこのように判断した審決を維持した。このような原審判決には分割出願および公知例外主張に関する法理を誤解して判決に影響を与えた誤りがあり、これを指摘する上告理由の主張は理由がある。
【判決の意義】
本判決によると、公知例外および分割出願関連規定の文言と内容、各制度の趣旨などに照らして、原出願において公知例外の主張を行わなかっとしても、分割出願において適法な手続を遵守して公知例外の主張を行ったとすれば、原出願が自己公知日から12ヶ月以内に行われた以上、公知例外の効果が認められ得る。
|