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共有持分の表示
弁理士 柳智源

近年のR&D慣行上、単独で発明するケースは殆どなく、複数の研究者が共同で発明するケースが普遍的である。このように共同発明を行うにあたり、各発明者が寄与した比率が発明者の持分により補償額の算定に考慮される極めて重要な要素であるにも拘らず、これについては完全な私的領域となって当事者間の約定により定められ、現行の特許法上、これに関する記載や報告の義務はない。すなわち、特許手続において発明者の持分を表示する機会はなく、特許公開公報や登録公報上にも発明者の持分は開示対象とならない。したがって、以下、2人以上が共同で発明して特許を受けることができる権利が複数の当事者に帰属する場合、共有持分の表示と関連した規定および方法について説明する。

特許出願は、発明をした者またはその承継人が特許を受けることができる権利を有し、2人以上が共同で発明した場合には特許を受けることができる権利を共有する(特許法第33条)。

したがって、2人以上が共同で発明した場合には共同で特許出願しなければならず(特許法第44条)、これに違反する場合、拒絶、取消、無効事由となる(特許法第62条第1項、第69条第1項、および第133条第1項第2号)。特許出願に対する持分も共同出願人間の約定により定められる。共同で特許出願時、持分表示は義務事項でなく、実務的にも持分表示をしない場合が多い。持分を表示しようとする場合、出願人は特許出願書の特許顧客番号の下の[持分]項目を追加して持分を表示することができる。持分表示は、出願人の持分を全体に対する比率x/nのように分数で記載するが、必ず全体持分に対する比率で記載して、持分約定を証明できる書面(持分約定書など)を添付しなければならない。出願書に持分に関する記載がなければ、共同出願人はそれぞれ同一の持分を有すると推定される。

仮に、2人以上が共同権利者として登録されているが、持分が登録されていない権利に対して共同権利者の持分を確認登録申請しようとする場合には、『共有持分確認登録申請書』を特許庁長に提出しなければならない。この場合、共同権利者全員が申請して印鑑で捺印し、持分の上に利害関係人がある場合、利害関係人全員の承諾書を添付しなければならない。

出願段階はもちろん、出願以降の段階にも共有特許に対する持分を変更することができる。これは特許だけでなく、実用新案、デザイン、商標に対しても同様である。持分を変更しようとする者は、特許法施行規則別紙第20号書式『権利関係変更申告書』にその趣旨を記載し、持分変更の原因を証明する書類を特許庁長に提出しなければならない(特許法施行規則第27条)。例えば、契約により出願人の持分を変更しようとする場合、持分約定書に特許顧客番号申請に使用された印で捺印、または登録印鑑で捺印して印鑑証明書を添付しなければならない。権利関係変更申告書内の[変更内容]中の[変更前]と[変更後]項目にそれぞれ[氏名]、[特許顧客番号]、[持分]を追加し、出願人の数だけ同様に記入する。

一方、共同出願から洩れた場合には法院に持分移転を請求することができる(特許法第99条の2第1項)。このように共有である特許権持分の移転を請求する場合には、他の共有者の同意を受けなくてもその持分を移転することができる(特許法第99条の2第3項)。

以上で説明したように、共同発明において発明者持分は補償と関連して重要な事項であるにも拘らず約定により定められ、契約書上のみに記載される事項に過ぎず、特許法には関連手続や規定が存在しないが、2人以上が共同で特許出願する場合には持分の表示や変更などが可能であることに留意しなければならない。