I. 事件の概要
本事件において大法院は「特許発明において構成要素として特定された物の構成や属性が先行発明に明示的に開示されていない場合でも、先行発明に開示された物が特許発明と同一の構成や属性を有するという点が認められれば、特別な事情がない限り、新規性が否定される(原則的積極)。ただし、先行発明に開示された物は、必然的に特許発明と同一の構成または属性を有するという点が証明されなければならない(積極)。」という趣旨の新たな法理を説示した。
II. 新規性有無の判断方法
1. 当然ながら、物の発明においてこれと同一の発明がその出願前に公知となったり公然と実施されたことが認められれば、その発明の新規性は否定される。
2. 特許発明において構成要素として特定された物の構成や属性が先行発明に明示的に開示されていない場合でも、先行発明に開示された物が特許発明と同一の構成や属性を有するという点が認められれば、特許発明が当該構成または属性による物質の新たな用途を特許の対象とするなどの特別な事情がない限り、新規性が否定される。これは通常の技術者が出願当時にその構成や属性を認識することができなかった場合も同様である。また、公知となった物の内在した構成または属性を把握するために出願日以降に公知となった資料を証拠として使用することができる。
3. 一方、先行発明に開示された物が特許発明と同一の構成または属性を有することもできるという可能性または蓋然性のみでは先行発明と特許発明が同一であるといえず、必然的に同一の構成または属性を有するという点が証明されなければならない。
III. 事実関係の整理および法理の適用
1. 事実関係の整理
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特許発明
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先行発明
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共通点
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全ての脆性材料の微粒子を常温で高速噴射して基材表面に衝突させることによって、微粒子を変形または破砕して製作された膜形状構造物に関するものであるという点において共通しており、その結果、粒子間の結合力のより高い複合構造物が形成される。
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差異点
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結晶同士の界面にガラス層からなる粒界層が存在しない
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これに対する記載なし
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2. 法理の適用
(1) 本事件の先行発明は、「エアロゾルデポジション方法により形成されたPZT厚膜の微細構造および電気的特性」というタイトルの論文である。先行発明が公知となった物それ自体である場合には、その物と特許発明の構成を対比して両発明が同一であるか否か判断することができるが、先行発明が特定の製造方法により製作された物に関する公知の文献である場合には、先行発明に開示された物はその製造方法により製造された物である。したがって、本事件の場合、先行発明で対比対象になるものは、先行発明に提示された製造方法により製造された膜形状構造物であり、先行発明に提示された製造方法に従った場合、偶然の結果でもあり得る一実施例が特許発明と同一の構成または属性を有するという点を超えて、先行発明の結果物が必然的に特許発明と同一の構成または属性を有するという点が証明されてこそ両発明が同一であるといえる。
(2) 一方、本事件の特許発明以降に公知となった先行発明と同一の製膜方式の膜形状構造物に関する論文である「微粒子、超微粒子の衝突固化現象を利用したセラミック薄膜形成技術」では、先行発明の膜形状構造物に対するTEM(透過電子顕微鏡)撮影写真と、これよりも改善された方式であるHR TEM(高分解能透過電子顕微鏡)撮影写真を開示し、「これらは加熱なしでSi基板上に室温成膜されたPZT厚膜の熱処理前後のTEMイメージである。膜内に原料粉末の形態は観察されず、それぞれの結晶は互いに結合して緻密な膜を形成している。また、膜内には原料粉末に近い大きさの結晶子が部分的に見えるが、HR TEMイメージまたは電子線回折イメージからも結晶子間、粒子間に非晶質層や相異する模様はほとんど見当たらず、全体的に20nm以下の微細結晶で構成されている。」と説明している。つまり、上記論文によると、先行発明に開示された膜形状構造物も結晶子間の界面に非晶質層である粒界層が存在しないこともある。一方、上記論文は、特許発明の出願日以降に公知となった資料であるが、先行発明の内在した構成または属性を把握するための証拠として使用された。つまり、上記論文は、新規性の有無の判断方法の対比対象として使用されたものではなく、先行発明に開示された製造方法により製造された物が必然的に特許発明と同一の構成や属性を有するという点を証明するために使用されたものであることに留意しなければならない。
(3) しかし、上記論文によると、先行発明に開示された製造方法による一つの実施例としてガラス層からなる粒界層が存在しない構成があり得るという可能性または蓋然性が分かるが、さらには先行発明に開示された製造方法に従った時、必然的に非晶質層が存在しない結果物に到達することができるか否かは分からないと判断された。つまり、本事件では先行発明に開示された物が特許発明と同一の構成または属性を有することもできるという可能性または蓋然性を超えて、必然的に同一の構成または属性を有するという点が証明されなかった。したがって、大法院は、両発明が同一であるといえないと決定した。
IV. 判決の意義
本判決によると、先行発明(または先行発明の製造方法による物)の内在した構成または属性が具体的に開示されていなくても、特許発明と同一の構成や属性を有するという点が証明されれば、特許発明の新規性が否定され得る。ただし、これを主張する者は、先行発明に開示された物が特許発明と同一の構成や属性を有することもできるという可能性または蓋然性を超えて、必然的に同一の構成または属性を有するという点を証明しなければならない立証責任を負う。この時、これを証明するために、出願日以降に公知となった資料を証拠として使用することもできる。
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