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主要国(IP5)の生命工学に関連する不特許事由
弁理士 宋在成

1. はじめに

最近、バイオ分野に対する関心が高まりつつ、当該分野の特許出願が漸次増加しており、特に2020年上半期から始まった新型コロナウイルスのパンデミックにより関連分野の特許出願が爆発的に増加している。また他の分野とは異なり、現在、生命工学分野の場合、核心物質の一つであるDNAも1940年代になってから本格的な研究が進行されるほど、未だ開発の必要性が大きな分野である。特に、生命工学関連発明は、微生物、植物、動物、遺伝子、特にヒトを対象とする技術が多数であり、当該技術が悪用されたり十分に保護されない虞があるところ、特許法第32条などで規定している不特許発明の対象となる発明が多い。以下、これを生命工学発明の類型別に整理する。

2. 生命工学分野別の特許可否

(1) 微生物発明

韓国では、微生物に関係する発明に対して特許出願をするためには当該微生物を寄託しなければならないと規定しており(特許法施行令第2条)、特許対象として認めている。

米国を出発点として微生物が特許を受けることができるのかに対する論議が1970年代から始まった。特に米国のChakrabarty事件を通じて米国最高裁判所は自然に存在する生物であるとしても自然状態のものと「顕著に異なる場合には」特許を受けることができるとし、特許対象となっている。

中国では、自然界に存在する微生物自体は科学発見に属するため、特許権を受けることはできず、分離を経て純粋培養物となって特定の工業用途を有してこそ特許保護を受けることができ、自然界で特定の微生物を選別する方法に対しては特許権を受けることができず、一定の突然変異誘導条件下で突然変異誘導を通じて必要な特性を有する微生物を得ることができるという証拠証明をする場合には特許権を受けることができる。

日本と欧州も他の主要国と同様に微生物を特許対象として認めている。

(2) 動物および植物発明

韓国において植物発明は、通常の技術者が明細書の記載に基づいて反復実施して目的とする技術的効果を得ることができる場合、特許対象として認めており(特許法院2001ホ4722判決)、動物発明は特許法第32条規定により公序もしくは良俗に反するか、または公衆の衛生を害する虞がある場合、特許を受けることができない。

米国は、特許種類に別途に植物特許があり、植物を特許対象として保護しており、従前は無性植物のみを特許法上の特許付与対象としていたが、2006年の特許法改正により有性植物にも特許権を付与することとなった(DNAも特許を受けることができるか?生命工学発明と特許(韓国特許庁公式ブログ))。また動物も植物と同様に特許対象として認めている。

中国においては、中国特許法第25条で動物と植物品種に対しては特許権を付与しないと規定している(中国特許審査指針(2019年11月1日施行))。

欧州においては、植物新品種を原則的にUPOV体系により保護し、特許体系による保護を認めていないが、広範囲な分野で生命工学および遺伝工学技術が漸次重要な役割を果たしているという認識に基づいて生命工学指針を制定し、動物も特許対象として認めている。

日本は、1975年に産業別審査基準を設けて、植物新品種の場合、育種過程の再現確率の高低に関わらず「理論的反復可能性」があれば植物の特許を認め、また動物も特許対象として認めており、別途の審査指針により審査が行われる。

(3) 遺伝子、DNAなど発明

韓国において、遺伝子およびDNAは配列番号の記載を通じて特許出願が可能であるが、人間の尊厳性を損なう結果を招く可能性がある発明である場合、特許を受けることができない。

米国においては、BRCA遺伝子事件によりDNAが特許対象となるか否かについて紛争があったが、最高裁判所において「自然に生成されるDNAの断片は自然の産物であって、特許に該当しないが、cDNAは自然の産物ではないため、特許の対象となる」という判決を下しており、分離したDNA自体に対しては特許を受けることができる発明として認めていないが、そのDNAを医学的に活用するのに必須の中間媒介物であるcDNAに対しては認めている。

中国においては、天然形態で存在する遺伝子またはDNAの断片は単なる発見として特許権を受けることができないが、最初に自然界から分離または抽出した遺伝子またはDNAの断片であり、その塩基配列が先行技術中に記載されたことがなく、明確に特定可能であり、産業上の利用価値があれば、特許対象となると規定している。

欧州は、単なるDNA配列は特許対象となることができないが、遺伝子配列または部分配列を含むヒトの身体から分離された構成要素または技術的方法により生産されたものは特許対象となることができると規定しており、日本も遺伝子を特許対象として認めている。

(4) 治療および診断方法

韓国は、ヒトを対象とする治療および診断方法に対しては特許対象として認めていないが、ヒトを除いた動物を対象とする治療および診断方法に対しては特許対象として認めている。

米国は、医療発明特許を認めてヒトを対象とする治療および診断方法に対しても特許対象として認めている。

中国および欧州は、疾病の診断および治療方法に対して特許権を付与せず、診断および治療方法に使用する器具、装置、使用される物質または材料は特許を受けることができると規定している。

日本は、韓国と類似してヒトを対象とする治療および診断方法に対しては特許対象として認めていない。

3. むすび

生命工学分野の発明の場合、ヒトを対象とする場合が多く、倫理的な問題などが台頭する可能性があり、生命工学分野の発展速度が非常に速くて新たな技術に対する保護が難しい場合が多い。したがって、他分野とは異なり、生命工学分野の発明に対する改正内容を把握して特許対象となり得る発明分野を詳細に把握する必要がある。また各国特許法により特定の発明が特許対象となり得るか否かが異なり、頻繁な改正がなされることから、特許出願時には最新の改正内容を確認して行う必要がある。

 


参考資料
1. 生命工学分野の審査基準(韓国特許庁)
2. DNAも特許を受けることができるか?生命工学発明と特許(韓国特許庁公式ブログ)
3. 主要国の生命工学と関連した特許性判断基準に対する研究-米国、日本、欧州特許庁の審決判決例を中心に-(韓国特許庁政策研究資料)
4. 中国特許審査指針(2019年11月1日施行)