[事件の概要]
被告は、特許権者(原告)の登録特許を無効とするとの趣旨の無効審判を請求して審判請求が認容され、特許法院の上訴審においても再び原告が敗訴して大法院に上告した事件であって、特許権者の登録特許の進歩性有無が問題となった事件である。
本事件では先行発明1により本事件特許発明の進歩性が否定されるか否かについて以下の法理に基づいて判断する。
[進歩性有無の判断方法]
発明の進歩性有無を判断する際には、先行技術の範囲と内容、進歩性判断の対象となった発明と先行技術との差異、その発明が属する技術分野において通常の知識を有する者の技術水準に対して証拠など記録に示された資料に基づいて把握した後、通常の技術者が特許出願当時の技術水準に照らして進歩性判断の対象となった発明が先行技術と差異があるにも拘らず、かかる差異を克服して先行技術から容易に発明することができるか否かを考察しなければならない。
この場合、進歩性判断の対象となった発明の明細書に開示されている技術を知っていることを前提として、事後的に通常の技術者が容易に発明することができるか否かを判断してはならない(大法院2007フ3660判決(2009.11.12.言渡)、大法院2016フ2522全員合議体判決(2020.1.22.言渡)など参照)。
[事実関係の整理および法理の適用]
(1) 事実関係の整理
本事件特許発明(特許番号省略)は、「セラミック溶接支持具」という名称の発明であって、請求された数値範囲の耐火度と焼成密度を通じて円滑なスラグ発生と適正な裏面ビード生成を可能にし、低い数値範囲の吸水率を通じて過多水分吸湿を防止し、溶接部の強度を向上させるようにした溶接支持具に関するものである。
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本事件特許発明
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先行発明1
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構成1
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50~70wt%のSiO2、15~35wt%のAl2O3、8~15wt%のMgO、0.5~3wt%のCaOを主成分として含み、Fe2O3、K2OおよびNa2Oからなるその他の成分が0.5~5wt%の範囲で含まれてなる組成
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45~70wt%のSiO2、15~40wt%のAl2O3、5~30wt%のMgO、0.3~2wt%のCaO組成
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構成2
(差異点1)
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耐火度はSK 8~12
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耐火度はSK 11~15
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構成3
(差異点2)
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焼成密度は2.0~2.4g/㎝2
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(記載なし)
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構成4
(差異点3)
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吸水率は3%未満
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気孔率は20~40%
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(2) 法理の適用
①進歩性判断の対象となった発明と先行技術との差異
差異点1については、先行発明1は、本事件特許発明の耐火度の範囲(SK 8~12)において差異がある。差異点2と3については、先行発明1は、本事件特許発明の焼成密度と吸水率については何ら記載がない。気孔率と吸水率が比例関係にあるという点を考慮して差異点3をより詳しく考察すると、
②かかる差異を克服して先行技術から容易に発明することができるか否か
先行発明1の明細書は、「固形耐火材の気孔率が20%未満では[…]余盛の不足あるいはバックビードが均等でなくなる」と記載して20%未満の低い気孔率に関して否定的教示を含んでいる。
これに対して、通常の技術者は、先行発明1の低い気孔率に関する否定的教示から、本事件特許発明のように(気孔率と比例関係にある)吸水率を3%未満に下げることを容易に考え出すことは難しい。
先行発明3の明細書は、「現在、通常使用されるセラミック支持材は磁気化段階まで経た支持材であって、これは吸水率が少ない方であり、[…]気孔率が低くて断熱性が良くなく、熱膨張係数が比較的大きい方であるため、使用する時に亀裂、破損が発生する場合がある」と記載しており、低い吸水率に関して否定的教示を含んでいる。
これに対して、通常の技術者が、先行発明3を共に考慮しても、先行発明1の低い気孔率に関する否定的教示から、本事件特許発明のように(気孔率と比例関係にある)吸水率を3%未満に下げることを容易に考え出すことは難しい。
③さらに、通常の技術者が先行発明1の高い範囲の気孔率を排除し、本事件特許発明のような低い吸水率を採択することは、先行発明1の耐火度と気孔率との間の有機的結合関係を損なうものであり、それによる効果を予測できるほどの資料もない。
④また、本事件特許発明による実施例は、本事件特許発明の構成要素を満たさない比較例と比較して溶接結果が全て良好であり、内部クラックおよび母材の衝撃強度においても優れた結果を得ている。
⑤したがって、本事件特許発明の内容を既に知っていることを前提として事後的に判断しない限り、先行発明1から本事件特許発明を容易に導き出すことができるとみることは難しいため、先行発明1により本事件特許発明の進歩性が否定されるといえない(原審判決破棄および特許法院差戻し)。
[判決の意義]
発明の進歩性有無を判断する際は進歩性判断の対象となった発明の内容を既に知っていることを前提として事後的に判断してはならず、通常の技術者が特許出願当時の技術水準に照らして進歩性判断の対象となった発明が先行技術と差異があるにも拘らず、かかる差異を克服して先行技術から容易に発明することができるか否かを考察して進歩性有無を判断しなければならない。
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