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特許法上における「業として」の意味
弁理士 金仁漢

特許法上における「業として」を含む規定は、第61条、第65条第1項、第94条第1項、第98条、第100条第2項、第102条第2項、第127条、第207条第4項があり、内容は以下のとおりである。

条文の番号 内容
第61条第1号
(優先審査)
特許庁長は、次の各号のいずれか一つに該当する特許出願に対しては審査官に他の特許出願に優先して審査するようにすることができる。
1. 第64条による出願公開後、特許出願人でない者が業として特許出願された発明を実施していると認められる場合
第65条第1項
(出願公開の効果)
特許出願人は、出願公開があった後、その特許出願された発明を業として実施した者に特許出願された発明であることを書面で警告することができる。
第94条第1項
(特許権の効力)
特許権者は、業として特許発明を実施する権利を独占する。ただし、その特許権に関して専用実施権を設定した時には第100条第2項により専用実施権者がその特許発明を実施する権利を独占する範囲ではその限りではない。
第98条
(他人の特許発明などとの関係)
特許権者・専用実施権者または通常実施権者は、特許発明がその特許発明の特許出願日前に出願された他人の特許発明・登録実用新案、または登録デザインやそのデザインと類似するデザインを利用したり、特許権がその特許発明の特許出願日前に出願された他人のデザイン権、または商標権と抵触する場合には、その特許権者・実用新案権者・デザイン権者、または商標権者の許諾を受けなければ、自己の特許発明を業として実施することができない。
第100条第2項
(専用実施権)
専用実施権の設定を受けた専用実施権者は、その設定行為として定めた範囲においてその特許発明を業として実施する権利を独占する。
第102条第2項
(通常実施権)
通常実施権者は、この法により、または設定行為として定めた範囲において特許発明を業として実施することができる権利を有する。
第127条
(侵害とみなす行為)
次の各号の区分による行為を業として行う場合には、特許権または専用実施権を侵害したものとみなす。
第207条第4項
(出願公開時期および効果の特例) 
国際特許出願の出願人は、第3項による警告を受けたり、出願公開された発明であることを知っているにも拘らず、その国際特許出願された発明を業として実施した者に、その警告を受けたり出願公開された発明であることを知った時から特許権の設定登録時までの期間の間に、その特許発明の実施に対して合理的に受けることができる金額に相当する報償金の支給を請求することができる。ただし、その請求権は、当該特許出願が特許権の設定登録された後にのみ行使することができる。
 

上記のように特許法における「業として」は、「実施」と共によく使用されるとみることができる。ここで「実施」は、特許法第2条で規定しており、内容は次のとおりである。

特許法第2条第3号
発明の区分 実施内容
物の発明(イ目) その物を生産・使用・譲渡・貸与、または輸入したり、その物の譲渡、または貸与の請約(譲渡または貸与のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
方法の発明(ロ目) その方法を使用する行為、またはその方法の使用を請約する行為
物を生産する方法の発明(ハ目) 上記方法の発明の実施行為以外にその方法により生産した物を使用・譲渡・貸与、または輸入したり、その物の譲渡、または貸与の請約をする行為

特許権は、無形の財産権であって、占有が不可であり、多様な形態の実施があり得るため、実施の意味を明確にするために特許法はその意味を直接規定している。

これに対し、「業として」は、特許法で別途に定義していないが、そうであっても、その意味が重要でないわけではない。特許権は、業として特許発明を実施する権利を独占する排他的な権利であって、正当な権利を有さない第三者が特許発明を「業として実施」すれば、特許権侵害が成立し得るためである。

特許権の侵害が成立するためには、正当な権利がない第三者が特許発明を「業として」実施しなければならない。一般に「業として」は、「事業として」を意味するところ、営利を目的とする場合に限らず、社会の需要に応じて発明を実施する場合をいう。したがって、社会的需要に応じるためにする実施であれば、非営利的にただ1度だけの実施をしても侵害が成立することがあり得、営利目的でない個人的・家庭的範囲における実施は侵害を構成しない。

判例においても「業として」の意味を重点的に解釈したものは珍しいとみられる。第127条第2号と関連して「業として」の意味を知ることのできる判例があり、次のとおりである。

2016カハブ554810判決(ソウル中央地方法院2017.6.16.言渡)
特許権侵害差止請求の事案において、被告が納品のために被告の制御装置を試運転する行為は「業として」行う行為ではないため、特許発明を間接侵害することではないとの趣旨の主張に対して、被告が被告の制御装置を納品するために行う試運転行為は、被告の事業上の利益のために締結した契約上の義務を履行する行為であり、個人的・家庭的範疇の行為、または改良発明のための試験・研究行為ではないため、被告が「業として」行う行為に該当すると判示した。

上記の判例において、事業上の利益のために締結した契約上の義務を履行する行為を「業として」の実施と判断し、「個人的・家庭的範疇の行為」または「改良発明のための試験・研究行為」は、特許法上における「業として」の実施とみなさない。

特許法は、発明を保護・奨励し、その利用を図ることによって技術の発展を促進して産業発展に寄与することを目的とするところ、特許法上における「業として」は、特許権者の利益を保護しつつも特許発明の利用が過度に制限されないように解釈することが望ましいと思われる。