ニュース&イベント

IPニュース

指紋認証を利用した金融取引システムに関する特許紛争の勝訴事例
YOU ME 法務法人 弁護士 全應畯・申昊埈

Ⅰ. はじめに

スマートフォンの爆発的な普及に伴い、端末およびモバイルサービスも飛躍的な発展を遂げた。今では銀行をはじめ、金融業務、電子商取引はもちろん、現場でのカード決済までスマートフォン一つで全て処理できるようになった。もはや「モバイル」時代である。

このようにモバイルバンキング、商取引、決済サービス(以下、「モバイル金融サービス」という。)の利用が拡散したのは、「携帯電話=スマートフォン」というほど、老若男女誰でもスマートフォンを使用するようになったためである。特にスマートフォンの生体認証(指紋、顔認証)機能を利用して金融取引や代金決済のための認証を簡便に処理できるようになったという点がサービス利用拡散の主な原因の一つである。物品を購入する度に口座振替のために保安カードを確認したり本人認証のための暗証番号を入力し、カード決済のために毎度SNS認証番号を受信して入力したり、カード会社のカード認証プログラムから提供される小さな画像キーボードを通じて一文字ずつ暗証番号を入力しなければならなかったとすれば、恐らく少なくとも10人中一人二人くらいはその不便さのため、モバイル金融サービスを利用しなかっただろう。

ところで、モバイル金融サービスで生体認証を通じた簡便認証のために必要な技術(指紋認識技術、インターネットを通じた金融・商取引システム、携帯電話でインターネットに接続する技術など)は、既に2000年代中盤から一般的に広く使用されている技術であった。それならば、誰がこの技術を組合せて「携帯電話でインターネットに接続してインターネットバンキングサービスを利用しつつ、本人認証を指紋認識により行う金融・商取引システム」を発明してこれを特許出願することが可能であっただろうか。

Ⅱ. 事件の概要

本事件の原告が上述のようなシステムを発明してこれを特許登録した者であった。原告の特許発明は、携帯電話端末、オンライン銀行および商取引システム、中継サーバー、通信網からなる金融取引中継システム(以下、「中継システム」という。)の処理方法に関する発明であって、具体的には①端末で通信網を通じて中継システムの中継サーバーにログインした後、②端末の指紋認識器を通じて得た指紋情報および端末の電話番号、通帳暗証番号を当該端末の情報として中継サーバーのデータベースに登録した後、③当該端末の指紋認識器を通じた指紋認証を通じて中継サーバーに予め登録された指紋情報と認証時に伝送された指紋情報とが一致すると、④中継サーバーで端末をオンライン銀行または商取引システムに無認証でログインするようにしてサービスを利用できるように処理する段階から構成される。

原告は、スマートフォンを利用したモバイルバンキングサービスを提供するA銀行を相手取ってA銀行が提供するスマートフォンアプリを通じた新規口座開設手続および以降の新規口座開設手続で登録した生体情報(指紋)を利用したログイン方法が原告の特許権を侵害すると主張した上で、銀行サービスを利用した振替取引の禁止および損害賠償を請求した。

Ⅲ. 訴訟の争点および進行経過

1. 文言侵害主張関連

被告のA銀行を代理した当法務法人は、A銀行が提供するモバイルバンキングサービスのための金融取引システムには、原告の特許発明が前提とする中継システムの構成要素の一つである「中継サーバー」が存在しないという点を直ちに把握した。またスマートフォンに対する技術分析を通じてスマートフォンの運営体系(iOS、Android)は指紋情報をスマートフォン内部の独立した保安領域に保存・管理した上で、特定のアプリから指紋認証を要請する場合、認証を要請した指紋が保安領域に保存された指紋情報と一致しているか否かのみを知らせるに過ぎず、指紋情報を保安領域外部に伝送したり、保安領域外部から指紋情報に直接接近することを絶対に許容しないという事実も確認することができた。

当法務法人は、このような事実が本事件の核心の争点であると判断した上で、被告のA銀行の実施サービスの場合、①顧客のスマートフォンがモバイルバンキングサーバーに直接ログインして銀行サービスを利用することとなるため、「中継」の字義的な意味を考慮すると、スマートフォンアプリを通じた新規口座開設手続および指紋を利用したログイン過程で原告の特許発明中の「中継サーバー」が含まれる全ての段階の構成が存在することができず、②スマートフォンから得た指紋情報を通信網で連結された外部中継サーバーのデータベースに保存する構成もない、という事実を明らかにすることによって、被告のサービスは原告の特許権を侵害しないと主張した。

2. 均等侵害主張関連

これに対して原告は、一歩遅れて被告の実施サービスは「中継サーバー」をスマートフォン内部にある「指紋認識器の半導体メモリ」に変更したものであり、このような変更があるとしても原告の特許発明の課題解決原理である「指紋認証手続による金融取引方法」が同一であるため、原告の特許発明と均等関係にあるという均等侵害主張を追加した。

しかし、上述のように、指紋認識技術とオンライン取引システムなどは2000年代中盤以降は既に広く使用されていた技術であった。指紋情報を別途のサーバーに予め保存しておき、金融取引時に指紋認証で本人認証手続を遂行する類型の発明は、原告が特許を出願した2014年以前に既に何回も特許出願されていた。特に指紋情報とこれに対応する口座情報を予め保存しておき、指紋認証により対応する口座に関するサービスを利用できる銀行業務サービス提供方法は、既に2012年に国内のB銀行が特許出願して公開特許公報に開示された公知の技術であり、さらに、原告は上記公開特許公報を原告の特許発明の明細書に先行技術文献として記載しておいた状況であった。

また当法務法人が原告の特許発明の出願過程で提出された書類を検討した結果、原告は原告の特許発明の出願過程でこのような先行技術により発明の進歩性が否定されると、意見書を通じて原告の特許発明は課題を解決するために中継システムに「独立した中継サーバー」を設けて中継サーバーに対する指紋認証により多数の銀行または商取引システムに無認証接続が可能なようにすることが特徴であり、このような特徴が先行技術との差異点であると強調し、実際に中継サーバーに指紋認証処理のために指紋情報などを保存する「データベース」構成を明示的に追加する補正をしたことが確認された。

当法務法人は、このような事実および既存に確立された均等侵害の法理を基にして、原告主張とは異なり、原告の特許発明の課題解決原理が「指紋情報など認証情報を保存しておいた独立した中継サーバーを通じた認証のみにより多数のオンライン銀行・商取引システムを無認証で接続できるように中継する金融取引中継システムの処理方法」であることを明らかにすることができた。

Ⅳ. 法院の判断

原告は、訴訟の終盤になってスマートフォン内部で指紋情報を処理するモジュールの構成と実際に情報が処理される複雑な手続を専門的な技術用語を使用して詳細に説明したが、結局、法院は原告の侵害主張を全て排斥して当法務法人が代理したA銀行が全部勝訴した。

法院は、判決文で原告が提示した複雑な手続や技術的内容は全く記載せず、当法務法人の主張をそのまま認めて「中継」の字義的な意味に照らし合わせてみた時、①被告のA銀行の実施サービスには顧客端末とモバイルバンクサービスのためのサーバーとの間に別途の中継サーバーがなく、使用者指紋情報の伝送を受けて獲得したり保存する構成もないため、文言侵害が成立せず、②顧客端末と不可分の部分をなしている「指紋認識器の半導体メモリ」が顧客端末と銀行システムを中間で繋ぐとみることは難しく、顧客端末内で指紋情報を認識して保存する過程が通信網を通じて行われるとみることも難しいため、原告の特許発明とA銀行の実施サービスとの課題解決原理が同一でないとの趣旨の内容のみを判示した。

Ⅴ. むすび

本事件は、スマートフォンおよびオンライン金融取引システム技術を活用した銀行のモバイルバンキングサービスが被告の実施サービスであったため、実際に実施される技術構成を詳細に分析し、これを原告の特許発明と一つずつ比較・検討するようになったとすれば非常に複雑で難しい事件になる可能性もあった。

しかし、当法務法人は、本事件で特許侵害有無を判断できる核心の争点を迅速に把握し、これに関連した技術的な内容のみを簡略に整理して紹介し、均等侵害主張に対しても原告の特許発明の明細書内容のみでは把握し難い出願当時の原告の意図を原告が出願過程で提出した意見書に基づいて明確に把握して比較的容易に事件を終結することができた。

特許侵害訴訟では、特許発明と侵害を主張する実施サービスとを構成要素で分離して対応する構成要素を比較しなければならないため、当該分野技術に対する理解が必須であるばかりか、侵害判断で適用される法理を正確に熟知し、このような法理による判断基準に合わせて技術内容を解釈する能力もそれに劣らず重要である。本事件は、このような点を再度確認することができた事件であったと思われる。