中国政府は、2008年に「知識財産権強国」政策を樹立後、初の「知識財産戦略綱領」を発表し、このような政策により多様な具体的な方案を実施しながら中国の知識財産権分野では大きな変化があった。特許出願(中国は「発明/実用新案/デザイン」を通称して専利としており、以下では「特許」という。)、商標出願と著作権登録など全ての面において、出願量が急増して飛躍的に目標を達成する成果を成し遂げた。しかし、品質の向上なしに単に量的増加のみでは本当の知識財産権強国とはなれず、知識財産権の品質が共に向上してこそ企業の創造的革新を達成することができ、社会経済の全般的な発展に実質的に寄与することができると判断した中国政府は、量的な増加と共に品質向上にも力を注ぐために新たな方向の政策を樹立した。
中国特許庁(国家知識産権局)は、現在、新規の「知識財産戦略綱領」を制定中であり、その核心内容は特許の品質向上にある。具体的には、2019年には、1)「発明特許の審査品質と審査効率を高める実施方案(2019~2022年)」に対して関連規定を制定して実施し、2)特許品質向上を推進するために「2019年特許品質向上プロジェクト実施方案推進計画」を公表し、3)特許審査方法を改善して「特許出願集中審査管理方法(試験施行)」を実施し、4)「特許審査指針書」を修正してヒト胚性幹細胞、人工知能、BM発明、インターフェース図面などの保護および審査過程に関連する特許審査標準を改正した。
中国特許庁は、上記の内容のうち、特許審査品質と審査効率を高める方案について次のとおり紹介した。品質と効率を同時に確保することを原則とし、審査期間を短縮させることを中心として、審査品質と特許出願品質を重点的に高めながら出願量も安定的に維持することを政策基調とし、そのための審査人員と必要な支援規模を拡大すると共に、審査業務管理体系と方式を改革して審査能力と潜在力を最大限引き出して審査品質と効率を同時に高めようとしている。
特許審査品質と効率を高めることが如何なる意味を有するのかについて、中国特許庁は以下のとおり説明している。
(以下、中国特許庁の政策解析より抜粋)
政策指導を強化して品質と効率を高める!
特許審査政策は、特許審査業務中に特許制度の価値を実現する必須的な指針である。したがって、審査実務は必ずこの指針に従わなければならない。中国特許庁は、歴史的に、またその細部政策を実践しながらこれを発展させて現在の世界的な地位に到達した。中国共産党中央委員会と国務院でも審査能力を強化しようとする方向に対して明らかなサポートの意思を表明し、審査期間を短縮し、実質的な保護を強化することを中心とした審査政策が審査実務に指導的な役割を果たすようにすると強調した。
1. 中央政府の政策実行で堅固な基盤を固める
中国の改革と開放の発展速度に合わせて設立された中国特許庁は、小規模から大規模に、弱い能力から強い能力に成長して飛躍的な発展を成し遂げ、現在、世界5大特許庁の一つとして成長した。40余年の発展過程において数世代の間に知識財産権に関連する人材を絶えず輩出し、1万名余に達する審査官が力を合わせて対内外的に認められる成果を成し遂げ、中国の経済構造の変化と革新的な開発戦略を実現することに大きく寄与した。
中国共産党の第18回全国代表大会以降、中国政府の強力な指導の下、知識財産権に関連する政策を大々的に展開して知識財産権分野は大きな発展と振興を達成し、知識財産権強国の建設の新たな道を開いた。特に最近、中国共産党中央委員会と国務院は、「知識財産権保護を強化することに関する意見」を発表し、特許審査業務に対して新たな組織改編を通じて審査能力をより強化し、審査期間をより短縮させ、根本的な権利保護を強化することを明示的に表明した。また「自由と管理を結合してサービスを最適化する」政策と経営環境を最適化することに重点を置いて審査期間を短縮させて累積した審査業務を解消する具体的な業務目標を提示した。このような状況で確実かつ効果的な措置を取って各自の任務を誠実に行うことによって、確固に知識財産権業務の安定的かつ高品質の発展を推進しなければならない。
現在、中国特許庁の審査部署には審査官が1万4千名余であり、これらのうち修士、博士卒業者が70%以上であって、全ての技術分野において均一に分布している。この審査部署は発明に対する理解と技術内容に対する理解度が極めて高い。しかし、このような大規模な審査組織の場合、特許法に対する統一的な認識と理解が不足して一貫した審査結果を導き出し難いだけでなく、その他の多様な業務を実行するのに効果的に一致性を維持することができないという問題点がある。したがって、審査実務において審査品質を保障し、特許権を保護するための強固な土台を提供するために考えを統一し、政策指針を強化しなければならない。
2. 実際状況に応じて政策指針を提供する
特許制度の誕生は特許権者の利益を保護し、社会の創造的活動に対する動機を付与している。このような特許制度は、出願人に明確かつ具体的であり、実施可能なように説明した技術でありながらも、実用性と新規性そして進歩性を備えた発明を公開するようにする一方で、これに対する補償として政府は一定期間、排他的な特許権を付与する。発明特許の場合、当該発明が従来の技術に対してどの程度寄与したのか、及び権利者が社会貢献した対価に交換する権利が、発明者が革新したその価値と一致しているのかを確認するものである。これに基づいて特許明細書が社会で理解され、使用され得るようにして社会的な富を増加させるようにしなければならず、特許請求の範囲は、大衆の混乱を防ぐために明確な権利書の役割を果たさなければならない。
進歩性は特許の核心概念であり、発明として高度性が要求される事項でもある。進歩性に対する概念は始まりから成文法により確定するまでに100余年以上の時間を要し、その判断基準は絶えず発展して変化してきた。このように進歩性に対する判断は複雑でありながら、科学技術の革新に伴い持続的に発展するテーマであるということが分かる。発明の進歩性に対する程度を客観的に判断する方法は、継続して注目すべき大きな関心事である。進歩性を判断する「3段階方法」が唯一の方法ではないが、この基準は、現在、全世界で一般的に採用している客観的かつ適用可能な手段であることは明らかである。中国はこのような基礎的な進歩性の判断方法を継続して適用し、ここに持続的に新たな意味を付与している。2019年に改正される前の審査指針書では客観的に進歩性を判断するものの、「事後的考察」は排除しなければならないと明確に規定しており、改正後の審査指針書では試験規則と証拠要求事項に対する改正により「3段階方法」に関する規定をさらに改善した。関連規定は審査官が当該発明を理解できる一般的な経路を規範化して進歩性の判断に対する客観性をさらに保障するようにした。このような改善は、審査実務の自主点検で見つかった明確な問題点と、社会的に言及された集中的な問題点を審査基準に積極的に反映したものであり、これは審査政策、審査基準を強化かつ改善したものである。
中国審査政策の目標は明確である。これは審査過程と審査結論を通じて、特許法の制度的価値を反映することにある。発明特許審査の最終目的は、各特許出願に対して権利が付与されるべきか、如何なる範囲の権利が付与されるべきかに対して実質的な答弁をすることにある。このような審査政策において特許性の判断が中心となる全面審査を行い、このような条項に対する適用を継続して実行しているが、これは審査官が実質審査の責任を正しく遂行することを要求するためである。上記問題に対する結論を出す際には、形式的な問題または主観的な理解の問題であるため、簡単に拒絶決定を下さないことを要請する。上記全面審査は、審査の全面性と客観性を強調するものである。各法条項間の形式と実質的な連結および法律的な価値が審査過程中に現れなければならない。審査政策を実行しながら行政遂行の特徴と世界、国の現実状況および技術分野の特徴を外れてはならない。
3. 政策の安定性を維持し、標準執行を統一しなければならない
現在「特許性の判断を中心とする全面審査」政策は、特許法の立法目標を実現し、特許制度の価値を保障するための重要な政策手段である。
審査政策は徹底的であると共に科学的な体系であり、政策の制定過程で理論と研究、そしてその証明を経た。中国特許庁の各細部組織は、上から下まで審査業務指導と審査標準執行を統一して執行するように明確にし、内部の品質点検と外部のフィードバックは、審査政策の改善に参考事項と根拠を提供する。このような実践過程は、現在の審査政策が積極的かつ効果的であることを証明した。特許庁傘下の各審査部署と地方の多くの審査協力センターが積極的に審査政策により審査を行ったため、出願事件の数が毎年大幅に増加したにも拘らず、審査期間と品質を確保することができ、審査結果に対する大衆の満足度が安定的に向上することができた。
審査政策の安定性と標準執行の一貫性を確保することは、全ての業務を遂行する基本である。中国特許庁の各審査部署は、今後、審査業務を遂行するに当たり、安定的かつ終始一貫して審査政策の指針に従って審査業務を行って品質を一層高めることができるように本来の任務を遂行しなければならない。
(国家知識産権局の審査業務管理部部長 郑慧芬)
*参照 http://www.cnipa.gov.cn/zcfg/zcjd/1144707.htm
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