特許発明の保護範囲は特許請求の範囲に記載された事項により定められ、特許請求の範囲は独立項とこれを限定したり付加して具体化する従属項からなる(特許法第97条、特許法施行令第5条)。従属項は独立項を引用するため、従属項が如何に独立項を引用するのかにより登録特許の権利範囲が変わる。従属項が2以上の請求項を引用すれば、これを多重引用請求項という。多重引用請求項を認める国の中でも2以上の請求項を引用する請求項を含んで再び2以上引用可能(無制限的)な規定を有する国がある反面、2以上の請求項を引用する請求項のみを単独で引用可能(制約的)な規定を有する国がある。以下で特許請求の範囲を例示して説明する。
1. 低板、
前記低板の下に相互離隔して付着された複数の脚、および
前記低板の上に付着された背板を含む椅子。
2. 第1項において、
前記背板に付着されたクッションをさらに含む椅子。
3. 第1項または第2項において、
前記背板は木で作製された椅子。
4. 第1項乃至第3項のうちのいずれか一項において、
前記背板は前記低板に傾斜して付着された椅子。
NO
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従属項の形態
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主要国
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上記例示中の可能請求項
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官納料付加基準
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1
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無制限的多重引用請求項
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日本、欧州、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド
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1~4
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全体項数
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2
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制限的多重引用請求項
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韓国、中国、台湾、フィリピン
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1~3
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全体項数
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米国
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実際の引用項数
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米国は、多重引用請求項が記載された場合、実際に引用された項数に基づいて実際の請求項数を計算する。例えば、上記請求項の内容で米国特許出願が行われた場合、官納料付加基準となる総請求項数は5個(=1+1+2+1)である。つまり、請求項3は2個の請求項を引用するため、2個とカウントされる。また、請求項4は多重引用請求項である請求項3と他の請求項を共に引用しているため、記載不備(請求項3のみを引用するなどの補正要)になって1個とカウントされる。これは記載不備の請求項まで一つ一つ実際の引用項数をカウントすると、過度に複雑になるためである(37 CFR 1.75(c))。したがって、米国出願時には官納料算定の混乱を防ぐために従属項を単一引用の形態で記載することがよい。参考までに、米国出願は全体請求項数20個、独立項数3個までは出願官納料が同一である(37 CFR 1.16(h)(i))。したがって、米国出願を予定していれば、可能な限り請求項数をこの限度まで満たすことが好ましい。
日本と欧州は、無制限的多重引用請求項を認めており、官納料付加基準も全体項数を基準としている。したがって、引用請求項に引用する客体が記載されている限り、全ての請求項を引用するように記載することが権利範囲を広げるためによい。参考までに、欧州出願は請求項数が15個を越えると、官納料が追加されるため、全体の請求項数を15個以下にすることが好ましい(EPC schedule of fees, Code 015)。
PCT出願時、日本と欧州を国内段階移行国として指定する可能性があれば、無制限的多重引用請求項で出願し、これを認めていない国に限り国内段階移行時に自発補正書を提出することが権利範囲を広げるために好ましい。特に、審査通知後に従属項の引用項を増やす補正は、欧州または中国などで新規事項追加などの理由として認められない可能性もある。したがって、最初出願時に引用可能な請求項を最大限引用するように従属項を記載し、これに対応する実施例も発明の詳細な説明に入れておくことが好ましい。
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