ニュース&イベント

IPニュース

存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲を判断する基準-大法院2017ダ245798判決(2019.1.17.言渡)【特許権侵害差止など】[公2019上、459]
弁理士 金瓍妃

【判示事項】

特許権者が薬事法により品目許可を受けた医薬品(以下、「許可対象医薬品」という。)と特許侵害訴訟での相手方が生産などをした医薬品(以下、「被告製品」という。)が薬学的に許容可能な塩などにおいて差異がある事案において、ⅰ)通常の技術者が容易にこれを選択できる程度に過ぎず、ⅱ)人体に吸収される有効成分の薬理作用により現れる治療効果や用途が実質的に同一な場合、存続期間が延長された特許権の効力が被告製品に及ぶと判示した事例

【判決の要旨および大法院の判断】

[1] 存続期間が延長された特許権の効力に対して旧特許法第95条は「その延長登録の理由となった許可などの対象物(その許可などにおいて物が特定の用途が定められている場合においては、その用途に使用される物)に関するその特許発明の実施以外の行為には及ばない。」と規定している。このような法令の規定と制度の趣旨などに照らしてみると、存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲は、特許権者が許可を受けた医薬品と特定の有効成分、治療効果および用途が同一であるか否かを中心に判断しなければならない。

[2] 被告製品は、本事件特許発明と有効成分が「ソリフェナシン」で同一であり、塩のみを「コハク酸」から「フマル酸」に変更した「塩変更医薬品」に該当する。

[3] 被告製品の製造・販売品目許可申請時、本事件許可対象医薬品である「ベシケア錠(コハク酸ソリフェナシン)」に対する安全性・有効性資料を援用することによって、一部資料提出の免除を受け、本事件許可対象医薬品と対等な水準であることを立証する同等性試験資料を提出して製造・販売品目許可を受けた。また、許可対象医薬品であるソリフェナシンコハク酸塩は胃腸に入ればソリフェナシンとコハク酸に分離され、分離されたコハク酸は体外に排出され、ソリフェナシンのみをMムスカリン受容体と反応して薬理効果を発揮することになる。したがって、フマル酸塩とコハク酸塩の性質(融点、水での溶解度など)、投与容量の微細な差異のみで、有効成分の薬理作用による治療効果が異なるとみることはできない

[4] 本事件特許発明の明細書は、コハク酸、フマル酸などを有効成分であるソリフェナシンと塩を形成することができる有機酸として記載している。また、被告製品のフマル酸塩は、コハク酸塩と共にありふれて使用される薬学的塩である「クラス1(Class 1)」に分類され、ソリフェナシンコハク酸塩の体内投与および吸収過程は、ソリフェナシンフマル酸塩の場合にも同一であることは広く知られているため、コハク酸塩をフマル酸塩に変更することは通常の技術者であれば何人も容易に選択することができる事項に過ぎない

[5] したがって、被告製品は本事件許可対象医薬品と塩で差異が生じるが、ⅰ)通常の技術者がその変更された塩を容易に選択することができ、ⅱ)人体に吸収される治療効果も実質的に同一であるため、被告製品は存続期間が延長された本事件特許発明の権利範囲に属するとみなすべきである

【事案の概要】

原告の特許発明(新規なキヌクリジン誘導体およびその薬剤学的組成物)は、医薬品の輸入品目許可に要した期間の間に存続期間が延長され、存続期間満了日が20151227日から2017713日に延長された。被告はソリフェナシンのフマル酸塩に対して別途の販売許可を受け、原告の延長前の特許権満了日である20151227日以降に販売を開始した。この被告の使用に対して、原告が特許権侵害差止訴訟を提起した事案である。

特許法院では、存続期間が延長された特許権の効力は別途の医薬品製造・輸入品目許可を受ける必要がない医薬品などにも及ぶが、本事案では被告も別途の許可が必要であったという点で延長された特許の効力が及ばないと判示した。

しかし、大法院は、「塩変更医薬品」の場合、ⅰ)通常の技術者が容易にこれを選択できる程度に過ぎず、ⅱ)有効成分による治療効果や用途が実質的に同一であるかの条件を全て満足するか否かにより判断し、本事案の場合、コハク酸塩とフマル酸塩が当業者に自明である程度に選択が容易であり、治療効果および用途が実質的に同一であるため、「塩変更化合物」にも延長された特許権の効力が及ぶと判示した。

【判決の意義】

本判決は、存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲は、特許権者が許可を受けた医薬品と特定の有効成分、治療効果および用途が同一であるか否かを中心に判断しなければならないと判示しており、特許権者が許可を受けた医薬品と塩のみが異なる「塩変更医薬品」に関する事案において、通常の技術者が容易にこれを選択できる程度に過ぎず、有効成分による治療効果や用途が実質的に同一な場合、「塩変更医薬品」にも延長された特許権の効力が及ぶと判示したものである。

【参照条文】

[1] 旧特許法(2011.12.2.法律第11117号で改正される前のもの)89(現行第89条第1項参照)、第95

[2] 旧特許法施行令(2007.6.28.大統領令第20127号で改正される前のもの)7条第1

【参照判例】

[1] 大法院2017882889判決(2017.11.29.言渡)