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2018年11月に欧州特許庁(EPO)が発行した自律走行車開発の示唆点10
弁理士 李鎔圭

欧州は全世界で最も大きい自動車市場の一つであると共に、BMW、ベンツ、フォルクスワーゲンなど幾多の有名車両企業が集まった地域である。したがって、未来の技術のトピックとして浮かび上がっている自律走行車(Self Driving Vehicle、SDV)も欧州市場をみると、今後の未来地図の予測がある程度可能である。特に、R&D方向がみえる各企業の特許を分析すれば、これはより明らかになる。これと関連して欧州特許庁(EPO)が2018年11月に発行した自律走行車特許報告書には、2000~2017年にEPOに出願された自律走行車特許に対する分析内容が網羅されている。この報告書の内容中の注目すべき事項10をまとめて要約した。


1. 自律走行車産業は既存の自動車産業と完全に別世界である

次のグラフは2000~2015年に出願された自律走行車特許に対し、自律走行車が既存の自動車と重複する特許は青色で示し、既存になかった新規導入特許は紺色で示している。最近は紺色のグラフの高さが青色の2倍程度であるため、自律走行車特許中の2/3以上が既存の自動車分野に適用されない新技術であることが分かる。つまり、自律走行車技術は既存の自動車技術に存在しないものであるため、既存の自動車の延長線でなく、全く新たな技術の誕生とみることができる

2. ICT企業が自律走行車産業を狙う

次のグラフは2011~2017年に出願された自律走行車関連の上位出願25企業を示している。これら企業は自律走行車の全体出願の約40%を占める。皮肉なことに、出願最上位は自動車企業でなく、三星電子、インテル、クアルコムなどの半導体企業が占めているが、これは自律走行車において通信および演算技術に関する出願が多いことに起因する。上位出願25社がICT企業と自動車企業に2分されるという点からICT企業が自律走行車産業を狙っていることが分かり、今後、ICT企業と既存の自動車企業との間に合従連衡が本格化し得る。ICT企業の立場では、固有技術を前面に出して最も大きい市場へシフトすることができるという点で、これ以上のビジネスチャンスはない。このようなICT企業の攻勢により既存の自動車市場で車両メーカーに従属した納品企業は苦戦する可能性が大きい

3. ICT業界は自律走行車技術のうち、通信と演算技術に集中する

下表は2011~2017年の自律走行車出願の主な出願人を各産業群に分けて自律走行車の細部技術の出願分布を示している。まず、出願人の産業群(横)は、自動車(Automotive)、その他車両(other transport)、機械電子装備(Machinery&electrical equipment)、テレコム(Telecom)、ICT(電装)(ICT for automotive)およびその他(Other)に区分し、細部技術(縦)は、認知/分析および決定(Perception、analysis&decision)、演算(Computing)、車両操作(Vehicle handling)、通信(Communication)、スマート輸送(Smart logistics)に区分している。ICT業界は細部技術のうち、演算技術(30.4%)と通信(42.6%)に出願を集中している。むしろ通信技術においてもICT業界(42.6%)がテレコム業界(25.1%)に先んじた点が注目するに値する。これは自律走行車用通信部品の需要があるということを暗示する。

4. 自律走行車産業で通信技術と車両操作技術は相互対称点にある

次のグラフは2011~2015年に出願された自律走行車特許に対し、自律走行車と既存の自動車との重複技術特許は青色で示し、既存になかった新規技術導入特許は紺色で示した上で、細部技術別に示している。ICT企業のコアである通信技術の場合、新規導入特許比率が82.1%に達する程にその比重が高いことが分かる反面、自動車産業の核心競争要素である車両操作技術はその反対に34.1%に過ぎない。平均的に自律走行車特許出願中の2/3程度(67%)が新規導入特許であることを考慮すると、通信関連特許の数が車両操作関連特許の数よりは遥かに多いとみることができる。

 

5. 自律走行車産業はグローバル化を志向しながら独占化される

下表は自律走行車関連の欧州特許出願の1特許当たりのファミリー数(自国を含む海外出願国数)と、欧州特許出願(個別国を含む)のEPO/PCT出願を含む比率を示している。既存の自動車特許に比べて自律走行車特許はファミリー数およびEPO/PCT出願比重が高いという点から自律走行車の出願人がグローバル化されているとみることができる。他の側面としては、このような出願に費用が多くかかるという点から資本力のある企業の出願比重が高くなったとみることができる。自律走行車の上位25社の出願占有率が40%程度で、独占様相を帯びていることもこれを裏付ける。

NO

区分

自律走行車特許

既存自動車特許

1

1特許たりのファミリー数()

4.8

3.2

2

EPO/PCT出願比重(%)

76.7

51.3

6. 自律走行車の細部技術のうち、最近は認知/分析および決定技術に研究開発が集中している

次のグラフは2011~2017年の自律走行車の特許出願数を各細部技術別に示している。2012年から全ての細部技術の出願数が急上昇を始めたことが分かる。もちろん、通信技術の出願が継続して多かったが、最近は認知/分析および決定技術がこれを追い抜いた。また、演算技術の出願も認知/分析および決定技術の出願に追従して急激に増加している。したがって、自律走行車の運行に必ず必要な認知/分析および決定技術、並びに演算技術が現在主流をなしているとみることができる。

7. 通信、車両操作技術は独占の可能性が高い反面、認知/分析および決定、スマート運送、演算技術はニッチ市場である

次のグラフはそれぞれ左から右に自律走行車の細部技術別の多出願上位25社、10社、5社の出願占有率を示している。通信と車両操作技術では上位25社の出願占有率が50%に達し、これらによる独占市場が形成されているとみることができる。したがって、第3企業のこの分野への新規参入は難しい。反面、認知/分析および決定、スマート運送、および演算技術は上位25社の出願占有率が相対的に低いため、この分野への新規参入は容易になり得る。

8. 欧州の自律走行車市場で日本企業が韓国企業に遅れることもあり得る

下表は2000~2010年(過去)と2011~2017年(現在)にわたって各国別出願人の細部技術別の出願占有率変化を示している。この表は欧州特許出願を対象にしたものであるため、当然に欧州国籍の出願人の出願占有率が約40%と最も高く、米国籍の出願人がその次に続く。注目に値する事実は各細部技術において過去に比べて現在の日本国籍の出願人の出願占有率が低くなっていることである。反面、韓国は絶対的な占有率数値では日本に遅れるが、過去に比べて現在その数値が増加中である。したがって、このような傾向が持続すれば、自律走行車の欧州市場で韓国企業が日本企業を追い抜くこともあり得る。

9. 自律走行車ではインフラ技術も重要である

次のグラフは自律走行車の各細部技術別に2008~2017年の特許出願数(横)と2015~2017年の特許出願の年増加率(縦)を示している。各細部技術は通信(1.1)、スマート運送(1.2)、認知/分析および決定(2.1)、演算(2.2)、車両操作(2.3)に分け、これをより細分化して下表の全12技術で示している。一方、グラフで「1」は既に大きな市場が存在しかつ急速に成長する領域、「2」は大きな市場が存在するがなだらかに成長する領域、「3」は小さな市場でありかつなだらかに成長する領域、そして「4」は小さな市場であるが急速に成長する領域を意味する。したがって、出願増加率が大きな「1」/「4」領域が最も有望であるとみることができる。「1」領域には2.1.1(センシング)、2.1.3(運転支援)、1.1.1(インフラ)が位置し、「4」領域では1.1.2(スマート道路、連結性)、1.2.1(交通信号制御)、1.2.2(注文配送/自動駐車)、2.1.2(ナビゲーション)、2.2.2(コンピュータソフトウェア)が位置している。このことから自律走行車技術の発展と共にそのインフラと関連する出願も多く行われていることが分かる。

10. 少なくとも自律走行車分野では中国企業の影響力はまだわずかである

2008~2017年の自律走行車関連出願を分析した結果、欧州国籍と米国籍の出願人が出願を主導しており、日本と韓国籍の出願人がこれらに追従している。一方、中国籍の出願人の出願は極めて少なく、上位25出願人中、HUAWEIのみが含まれている。ただし、中国籍の出願人の出願が最近増加傾向を示しており、今後モニタリングが必要である。中国籍の出願人が海外よりは自国出願のみに集中する点から中国市場では大きな影響力を発揮することもあるだろうが、グローバル市場では全くそうではない。

*記事およびイメージ出処:Patents and self-driving vehicles