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欧州特許庁の人工知能審査ガイドラインによる出願戦略
弁理士 李鎔圭

人工知能(artificial intelligence、AI)技術により全世界はまさに大変革を迎えている。これと関連して欧州特許庁(EPO)では2018年秋に人工知能審査ガイドラインを発表した。この人工知能審査ガイドラインは神経網、遺伝アルゴリズム、サポートベクターマシン、K平均、カーネル回帰、判別分析などの分類、クラスタリング、回帰、次元縮小用演算モデルおよびアルゴリズムに基づいたAI技術およびマシンラーニング(machine learning、ML)に関するものである。この審査ガイドラインではAI技術を欧州特許法(EPC)第52条第2項に非特許対象として規定した数学的な方法(G-II, 3.3)の下部カテゴリーに配置した。つまり、AI技術も数学的な方法に該当して原則的には特許対象でないことを規定したとみることができる。ただし、その例外を規定したEPC第52条第3項と、数学的な方法の審査ガイドラインを充足することができれば特許を受けることができる。今回の審査ガイドラインで言及されたAI技術固有の特許適格性を確保するために欧州特許出願時における留意事項は次のとおりである。


1. 請求項の発明は「人工知能アルゴリズム」それ自体であってはならない

請求項の発明が「数学的方法」や「コンピュータプログラム」など人工知能アルゴリズムそれ自体である場合、EPC第52条第2項(a)(c)号が適用されて非特許対象とみなされる。したがって、請求項の発明を「技術的手段(コンピュータ)を利用した方法」または「装置」と記載することが好ましい。一方、データの技術的属性や数学的パラメータを単に記載してはならず、「サポートベクターマシン」、「推論エンジン」、「神経網」などの用語もできる限り使用しないことが好ましい。

2. 請求項を特定の技術的解決課題やアプリケーションに限定する

請求項に技術的特徴(technical character)があるか否かにより特許適格性の有無が判断される。仮に請求項に特定の技術的解決課題またはアプリケーションがある場合、これらが技術的特徴に寄与して特許適格性があるものとみなされる。技術的解決課題は数学的な方法により入力されるデータよりは数学的な方法により導き出される結果の直接的な技術的関連性が重要である。特定の技術的解決課題またはアプリケーションの例として、不規則な心臓拍動確認のための心臓モニタリング装置用神経網、映像エッジ/ピクセル属性などの低レベル特徴に基づいたデジタルイメージ、ビデオ、オーディオ、発話信号の分類などが挙げられる。反対に、内容によるテキスト文書の分類、抽象的なデータ記録分類、技術的使用のない通信ネットワークデータ記録の分類(分類アルゴリズムに価値のある数学的特性があっても関係ない)、技術システムの制御はこれに該当しない。

3. 人工知能アルゴリズムの技術的遂行をハードウェア構造と関連付けなければならない

人工知能アルゴリズムの設計がコンピュータ内部の技術的機能を考慮して誘導されたものであることを請求項に記載する必要がある。例えば、コンピュータハードウェアのワードサイズと一致するワードサイズのシフトの利用のための多項式減少アルゴリズムの適用が挙げられる。また、GPUまたは分散/並列処理ハードウェア上で駆動される神経網も一例となり得る。このような内容は技術的な効果を発揮するため、技術的な特徴を有するものとみなされる。

このような点などを参考にして欧州出願用明細書を作成すれば、審査通知書で特許適格性欠如の指摘を受ける不祥事は未然に防止することができると思われる。