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韓国特許法改正について
YOU ME 法務法人 弁護士 全應畯・辛東桓

Ⅰ. はじめに

去る2018年12月7日に韓国の国会本会議で特許法一部改正法律案(代案)(産業通商資源中小ベンチャー企業委員長提出)が可決された。改正法律案の主な内容は①実施料相当賠償規定の改正(第65条第2項、第128条第5項、第207条第4項)、②具体的行為態様提示義務の新設(第126条の2)、③懲罰的損害賠償制度の導入(第128条第8項、第9項)、④審判で国選代理人選任根拠規定の新設(第139条の2)である。上記改正特許法は公布(2019年1月8日)後6ヶ月が経過した2019年7月9日から施行される。

Ⅱ. 改正特許法の具体的検討

1. 具体的行為態様提示義務(新設)

第126条の2(具体的行為態様提示義務) ①特許権または専用実施権侵害訴訟において、特許権者または専用実施権者が主張する侵害行為の具体的行為態様を否認する当事者は、自己の具体的行為態様を提示しなければならない。

②法院は、当事者が第1項にも拘らず、自己の具体的行為態様を提示できない正当な理由があると主張する場合には、その主張の当否を判断するためにその当事者に資料の提出を命じることができる。ただし、その資料の所持者がその資料の提出を拒絶する正当な理由がある場合には、その限りではない。

③第2項による資料提出命令については、第132条第2項および第3項を準用する。この場合、第132条第3項のうち「侵害の証明または損害額の算定に必ず必要な時」を「具体的行為態様を提示できない正当な理由の有無の判断に必ず必要な時」とする。

④当事者が正当な理由なしに自己の具体的行為態様を提示しない場合には、法院は特許権者または専用実施権者が主張する侵害行為の具体的行為態様を真実のものと認めることができる。

 (第126条の2の改正規定は2019年7月9日の改正法施行後、初めて請求される特許権および専用実施権侵害訴訟から適用する。)

特許侵害訴訟で侵害事実に対する証明責任は原告にある。したがって、これまで特許侵害訴訟で被告が請求の趣旨または請求の原因を通じて特定された被告の実施製品または実施方法(以下、「被告実施発明」という。)を否認する場合、原告は資料提出命令などの積極的な立証活動を通じて自ら被告実施発明を特定しなければならなかった。つまり、原則的に被告実施発明に対して被告自ら明らかにしなければならない義務はなかった。

もちろん、実務的に被告が原告特定の被告実施発明を単に否認する場合、法院が訴訟指揮を通じて被告に被告が実際に実施する発明を明らかにするように命じることが一般的であったが、被告が様々な理由を挙げてこれを拒否したり十分に明らかにしない場合、原告はこれを証明することに多大な困難を経験し、訴訟手続が遅延するという問題があった。

しかし、上記のように第126条の2が新設されることに伴い、侵害訴訟で権利者が主張する侵害行為の具体的行為態様を否認する当事者は、自己の具体的行為態様を提示すべき義務を負担することとなり、当事者が正当な理由なしに自己の具体的行為態様を提示しない場合には、法院が権利者が主張する侵害行為の具体的行為態様を真実のものと認めることができるようになることによって、権利者が改正前より容易かつ迅速に侵害者の特許侵害事実を証明できるようになった。

2. 故意的な侵害の場合、証明された損害額の3倍を限度に賠償(新設)

第128条(損害賠償請求権など) ⑧法院は、他人の特許権または専用実施権を侵害した行為が故意的なものと認められる場合には、第1項にも拘らず、第2項から第7項までの規定により損害と認められた金額の3倍を越えない範囲で賠償額を定めることができる。

⑨第8項による賠償額を判断する時には次の各号の事項を考慮しなければならない。

1. 侵害行為をした者の優越的地位の有無

2. 故意または損害発生の虞を認識していた程度

3. 侵害行為により特許権者および専用実施権者が被った被害規模

4. 侵害行為により侵害した者が得た経済的利益

5. 侵害行為の期間・回数など

6. 侵害行為による罰金

7. 侵害行為をした者の財産状態

8. 侵害行為をした者の被害救済努力の程度

(第128条第8項および第9項の改正規定は2019年7月9日の改正法施行後、初めて違反行為が発生した場合から適用する。)

既存の特許法の損害賠償推定規定にも拘らず、特許侵害により認められる損害賠償額が過小であるという指摘が多かった。例えば、市場参入の時点が事業の成敗を左右する分野や製品の場合、極端には特許権を侵害して莫大な営業的利益を得た後、その後の訴訟における対応を通じて証拠として認められる損害額のみを賠償することがむしろ利益である事例もしばしばあった。

しかし、第128条第8項、第9項が新設されることに伴い、少なくとも特許侵害事実を知りながらも営業的利益を得るために故意に特許権を侵害した後、訴訟で損害賠償額を減らそうとする試みは容易でなくなった。同時に、これまでは特許侵害事実を認知した場合の侵害者に発送する警告状は、民事侵害訴訟では大した意味はなかったが、今回の特許法改正以降は訴訟提起前の警告状発送が侵害者の故意を証明できる一つの手段として意味を有するようになった。

3. 実施料相当賠償規定(改正)1

改正前 改正後改正後
第128条(損害賠償請求権など) ⑤第1項により損害賠償を請求する場合、その特許発明の実施に対して通常的に受けることができる金額を特許権者または専用実施権者が被った損害額にして損害賠償を請求することができる。 第128条(損害賠償請求権など) ⑤第1項により損害賠償を請求する場合、その特許発明の実施に対して合理的に受けることができる金額を特許権者または専用実施権者が被った損害額にして損害賠償を請求することができる。

従来、第128条第5項による実施料相当額を損害賠償として請求する場合、「通常的に」という文言により特許権者と侵害者の具体的、個別的事情を考慮することができないことから、実施料相当の損害賠償を請求する場合、損害額が過小に認められるという問題の提起があった。

米国の場合、「合理的な(reasonable)」実施料を損害額として認めており、日本も既にはるか以前に特許権者と侵害者の個別事情が考慮されにくく、既存の通常実施権の実施料や国有特許の実施料率のように特許発明から離れた事実に基づいて損害額が認められる場合が多いという事実を勘案して、韓国特許法第128条第5項に対応する日本特許法第102条第3項の「通常」という文言を削除し、個別事情を考慮して実施料相当額を認めなければならないという趣旨を明確にしたところ、今回の特許法第128条第5項の改正を通じて「合理的な」実施料相当額を損害賠償額として請求できるようになることによって、韓国特許法にも事案に応じた個別の具体的な事情を考慮して認められる合理的な実施料相当額の損害賠償を請求できる根拠が明確に設けられた。

Ⅲ. むすび

上記改正特許法が克服しようとする問題点は、従来の法院の訴訟指揮を通じてある程度解決される傾向にあったが、今回の改正を通じてその法律的根拠を明確にした。特に、故意侵害による3倍賠償制度は他の法律で導入されたことはあるが、まだこれを認めた判決はなく、改正特許法に導入された懲罰的損害賠償規定による3倍賠償が実際に認められるのかが注目される。

 

1 特許法第65条第2項及207条第4設定登録前までの期間の間に受けることができる実施料する規定も、既存の通常的」という文言を「合理的」に改正した。