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特許発明の訂正と禁反言の原則
YOU ME 法務法人 弁護士 全應畯・辛東桓

Ⅰ.序論

特許発明の保護範囲の判断基準の一つである「均等論」は、侵害製品において特許発明の請求の範囲に記載された構成中から変更した部分がある場合にも、一定の要件を満足すれば、特別な事情がない限り、侵害製品は特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものであって、依然として特許発明の保護範囲に属するという理論である。均等論により侵害が認められるためには、①両発明の課題解決原理が同一であり、②発明内容に変更があっても実質的に同一の効果を有し、③変更要素が通常の技術者が容易に考え出すことができるものであり、④確認対象発明が自由技術領域に該当せず、⑤侵害製品の変更された構成要素が請求の範囲から意識的に除かれたものであってはならない。このうち最後の要件⑤を「出願経過禁反言の原則」という。

今回の当法務法人の勝訴事例は、出願経過中でなく、「出願後の発明訂正に対しても禁反言の原則を適用して均等侵害の主張を排斥できるのか」と関連したものである。当法務法人が被告を代理した勝訴事例を紹介しながら、補論として原告の特許発明訂正誤謬と訂正審判請求濫用の問題に対しても指摘する。

Ⅱ.事件の経過

1.事案の概要

 


 

原告は、リフローソルダリングが可能なガスケットに関する発明の特許権者であって、被告の実施製品が自己の特許権を侵害するとの理由により2011年に特許侵害差止請求の訴えを提起した。被告は、直ちに特許審判院に原告特許発明に対する無効審判を請求したが、棄却された。これに対して被告は、特許法院に審決取消訴訟を提起して勝訴し、原告がこれに対して上告した。原告は、上告を提起する一方で、自己の特許権が無効となることを防ぐために特許訂正審判を請求(特許審判院2012ジョン19号、以下、「第1次訂正審判」という)し、特許審判院は原告の訂正請求を認容した。このように原告の特許発明が訂正されることによって、大法院は特許法院の判決に再審事由があるとの理由により破棄し、事件を特許法院に差戻した。以降、原告が提起した特許侵害差止請求訴訟において民事法院が原告訂正発明の進歩性を否定し、被告の実施製品は原告特許権の権利範囲に属しないとの趣旨で原告敗訴判決を下し、原告は上記判決に控訴した。

一方、被告は、原告の特許発明訂正に対する無効審判を提起したが、特許審判院がこれを棄却し、これに不服として被告が提起した審決取消訴訟において特許法院は、特許発明の訂正が適法であるとの特許審判院の審決を取消した。これに対して原告は、上記訂正審判の審決取消訴訟判決に不服しないまま、再び特許発明訂正審判(特許審判院2014ジョン15、以下、「第2次訂正審判」という)を請求し、特許審判院がこれを認容することによって原告の特許発明は再度訂正された。しかし、上記第2次訂正審判が続いている途中、ソウル高等法院は特許侵害差止請求の第1審判決に対する原告の控訴を棄却し、これに対して原告が上告したが、上告審係属中に原告の上記第2次訂正が認容されたことによって大法院は原告のソウル高等法院の判決に再審事由があるとの理由により原審を破棄し、事件を再びソウル高等法院に差戻した。

しかし、差戻審においてソウル高等法院は、再度原告の控訴を棄却し(ソウル高等法院2014ナ2032500判決(2015.10.8.言渡))、これに対して原告がまたも上告したが、大法院は3年近い審理の末、原告の上告を棄却した(大法院2015ダ244517判決(2018.8.1.言渡))。

このように事件の経過が複雑であるため、最後の大法院判決である2015ダ244517判決(2018.8.1言渡)とその原審である2014ナ2032500判決(2015.10.8.言渡)を中心に紹介する。

2.原告特許発明が訂正された経過

3.原審判決の内容(ソウル高等法院2014ナ2032500判決)

イ.当事者の主張


原告は、被告の実施製品は第2次訂正で縮少された原告発明の構成要素を全て含むため、被告が原告の特許権を侵害すると主張した。しかし、当法務法人は、被告の実施製品の弾性コアは「非絶縁」であるため、原告特許発明の「絶縁弾性コア」と同一または均等な構成でなく、さらに原告が訂正審判を通じて特許発明の保護範囲を縮小したため、禁反言原則により原告は被告の実施製品に対する均等侵害を主張することができないと主張した。

ロ.法院の判断

原審は、原告の主張のとおり「絶縁」を一般的な電気分野に限定して文言解釈する根拠がなく、原告発明が請求の範囲において相対的絶縁性を有することを定めてもいないため、被告の実施製品の弾性コア構成が絶縁とみることができないと判断した。

また、訂正事項2に対して、被告の実施製品は原告特許発明のようにその下面が二等辺三角形の形状でなく、幅方向両端から中間部分に向けて屈曲を有する非対称曲面の凹んだ形状であるため、文言侵害に該当しないと判断した。そして、当法務法人の主張のとおり「原告は、進歩性が否定される危機に瀕したため特許発明を訂正したが、進歩性が否定された特許発明を第2次訂正を通じて請求の範囲を限定させて特許登録を維持したものであるため、禁反言の原則により原告が意識的に排除した部分に対して均等侵害を主張することができない」との趣旨で判示した。

4.大法院判決の内容(大法院2015ダ244517(2018.8.1.言渡))

原告は、上記判決に対して不服として上告し、原審と同一の趣旨により被告の特許侵害を主張した。

これに対して大法院は、訂正事項2に関して原告の発明は「その垂直横断面が二等辺三角形の斜辺を形成するように幅方向両隅から上記下面中央部分に向けて凹んだ形状に傾けて形成されるもの」であるが、被告の実施製品は「幅方向両端から中間部分に向けて屈曲を有する非対称曲面の凹んだ形状に傾けて形成されたもの」であって、文言が異なり文言侵害でないとみなした。被告の均等侵害主張に対しても大法院は「出願人または特許権者が出願過程で特許発明と対比対象となる製品を特許発明の請求の範囲から意識的に除いたとみることができる場合には、特許権者が対象製品が特許発明の保護範囲であると主張することは禁反言の原則に違反する」とし、「この法理が特許登録後になされる訂正において請求の範囲の減縮がある場合にも同様に適用される」と判示した。

そして、原審が上記のように被告の実施製品が原告の特許発明と同一または均等なものでないと正しく判断した以上、被告の実施製品が「絶縁性」であるのかは、仮定的かつ付加的な判断に過ぎないため、別途に考察する必要がないとみなした。

上記のように原告は、特許発明の進歩性が否定されることを防止するために、訂正を通じて「二等辺三角形の斜辺形状」に発明の構成要素5の範囲を限定させたところ、これは被告製品のように左右非対称である弾性コア下面を原告発明の請求の範囲から意識的に除いたものに該当する。結局、大法院は被告の実施製品が原告特許権を侵害しないと判断して原告の上告を棄却した。

III.結論

このように、当法務法人が権利者の訂正審判を通じた特許発明訂正に対して禁反言の原則を主張することによって勝訴したが、これまで実務上下級審で訂正審判を通じた権利範囲の縮小に禁反言原則を適用した事例はあったが(特許法院2011ホ5992判決(2002.8.30.言渡))、大法院がかかる判示をしたのは初めてであるという点から今般の勝訴事例の意義がある。

IV.補論

1.原告の訂正審判請求の問題点

特許発明訂正とは、①特許請求の範囲を減縮するか、②誤記を訂正するか、③不明確なものを明確にする場合に可能なものであって、明細書や図面に記載された事項の範囲内のみにおいて訂正可能であり、訂正を通じて請求の範囲を実質的に拡張したり変更することはできない(特許法第136条)。

しかし、原告の訂正は「二等辺三角形形状」という言葉により既存の発明を修飾しているが、その一方で原告は、上告理由書において必ず両辺が直線であり、完全な対称であってこそ二等辺三角形であるわけではないと主張した。このような原告の主張によると、第2次訂正は「二等辺三角形」という単語により発明を限定しているように見えるが、事実上「幅方向両端から中間部分に向けて凹んだ形状に(中略)傾けて形成される下面」という訂正前の発明内容と同一であるため、訂正をした意味がない。結局、仮に原告の主張とおりとすると、本事件の原告の訂正事項2は、特許発明訂正要件に背反したものであって、これを認容した訂正審判は不当なものである。

2.訂正審判濫用の問題

原告は、第1次訂正審判取消訴訟で敗訴した後、その結果を争わずにわざと訂正無効を確定させた後、直ちに第2次訂正審判を請求した。原告は、特許発明訂正審判制度を悪用して故意に裁判手続を遅延させ、自己の特許権を存続させる戦略をとった。

参考までに、日本では上記のような訂正審判制度の濫用問題を解決するために特許法を改正して無効審判請求時に無効審判手続内において訂正請求できることは別論とし、別途の訂正審判を行うことはできず、ただし、審決取消訴訟提起後90日以内にのみ例外的に許容している。