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日本の特許法における発明の単一性およびシフト補正の禁止規定について
弁理士 田京植

I.序論

日本特許法は、一の出願で特許出願が可能な発明は発明の単一性の要件を満たす発明と規定(日本特許法第37条)している。一方、拒絶理由通知以降、特許請求の範囲に対して発明の単一性の要件の範囲を越える補正を認めれば既に行なわれた審査結果などの活用が難しくなるという問題があり、迅速な権利付与が難しくなることがある。

このような理由により、日本特許法で拒絶理由通知後の特許請求の範囲の補正に対して発明の単一性の要件のような制限をおくために導入された規定がシフト補正の禁止規定である。このようなシフト補正の禁止規定は補正前後において発明の特別な技術的特徴を変更する補正を禁止する規定といえる。

以下、日本特許法におけるシフト補正の禁止規定およびシフト補正の禁止規定と関連性が深い発明の単一性判断について詳述する。

II.発明の単一性

1.内容

「2以上の発明が同一または対応する特別な技術的特徴を有している」場合、単一性の要件を満たす。少なくとも先行技術と同一または先行技術に周知技術を加えた程度のものは特別な技術的特徴と認められない。審査対象は請求項1から請求項順に特別な技術的特徴を見出すことによって決定される。ただし、直前請求項の発明の特定事項を全て含むものに限る。

2.例示

例えば、下記の図1(A)の従属関係がある場合、特別な技術的特徴を見出すものは請求項4までである。そして、どの請求項で特別な技術的特徴を見出したかによって審査対象が異なることとなる。下記の図1(A)の従属関係においては図1(B)のように審査対象が決定される。


したがって、前記図1(A)の従属関係で請求項2以降に特別な技術的特徴が見出された場合および請求項全てから特別な技術的特徴が見出されなかった場合、審査対象とならない請求項が発生するので、単一性違反の拒絶理由が発生することとなる。

特別な技術的特徴を有する請求項を見出す段階では、直前の請求項の発明の特定事項を全て含むものでも、次の請求項が直前の請求項と技術的関連性および課題の関連性が低い場合には、特別な技術的特徴を見出す作業を中断する場合がある。

3.適用時期

2004年1月1日以降の出願に適用される。

4.実務上の注意点

(1)権利化したい発明を請求項1から優先度が高い順に段階的に記載し、(2)従属項は多重引用項として作成するのが望ましい。

III. シフト補正の禁止規定

1.内容

特許請求の範囲に対する補正時、補正前に特許性が判断された発明と補正後の発明とが単一性の要件を満たす必要がある。これをシフト補正の禁止規定といい、この規定を違反した補正を行った場合、拒絶理由が通知される。また、最後の拒絶理由通知に応答する補正または拒絶決定不服審判請求時の補正がこの要件を満たさない場合には補正却下の対象となる。

2.例示

上記図2(A)のような補正前後の請求項間の関係がある場合、全体を通じてどの請求項から特別な技術的特徴が見出されたかによって、補正後の請求項の審査対象が変わる。

例えば、上記図2(A)の補正前後の関係に対しては、図2(B)のように審査対象が決定される。したがって、補正前に見出された特別な技術的特徴を有する請求項の発明の特定事項の全体または補正前に特別な技術的特徴を有する請求項がない場合には、補正前に審査を受けた最も大きい請求項番号を有する請求項の発明の特定事項の全体を含むように補正後の請求項を作る必要がある。

従来は、単一性違反の拒絶理由通知を受けた場合、審査されなかったグループを残す補正が許容されたが、現在は禁止されている。

3.適用時期

2007年4月1日以降の出願に適用される。

4.実務上の注意点

(1)補正前の特別な技術的特徴を有する請求項における発明の特定事項の全体が補正後の請求項に含まれたかを確認しなければならない。

(2)シフト補正と判断されない範囲をより広く確保するためには、特別な技術的特徴が探索される直列的な従属項には不要な特徴を加えないことが望ましい。

(3)審査されなかったグループに対して審査を受けたい場合または一部の発明の特定事項を削除したい場合は、分割出願を考慮することができる。