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米国特許における進歩性の拒絶克服方案:数値範囲の最適化(Optimization of result-effective variable)
米国特許弁護士 田周憲

1. 序論

米国特許庁審査官が、進歩性拒絶を発行するために、本願発明請求項の特定数値範囲が明示的に引用発明に開示されていなくても、このような数値範囲は当業者が容易に調節してみることができる数値範囲に過ぎないと指摘することを時折り見かけることがある。

上記のような米国審査官の拒絶理由に対応するためには、追加実験を通じて本願発明請求項の特定数値範囲内における優れた効果を立証するデータを提出しなければならないが、このようなデータを発明者の退職のような理由により出願後に準備することが現実的に困難な場合には、米国判例In re Antonieを引用して審査官の拒絶理由に対して反駁する方案について検討してみる必要がある。

2. 本論

1) In re Antonie

上記判例において審査官は、本願発明請求項の特定数値範囲は当業者が容易に調節してみることができる数値範囲に過ぎないと指摘する前に、先行技術に上記数値が本願発明で得ようとする効果に影響を与え得る(result-effective variable)ことを認識していなければならないと下記のとおり判決した。

“[a] particular parameter must first be recognized as a result-effective variable, i.e., a variable which achieves a recognized result, before the determination of the optimum or workable ranges of said variable might be characterized as routine experimentation. In re Antonie, 559 F.2d 618, 195 USPQ 6 (CCPA 1977).”

2) Ex parte Collison

Ex parte Collison (Appeal 2010-002734, in application serial no. 11/284,178, decision issued February 29, 2012)で争点となった発明は、「0.5乃至1.0mmの厚さを有するポリエチレン湿気防止絶縁断層」を含むウッドラミネートから作られたウッドフロアに関連したものであり、審査官は複数の先行技術を引用した上で、進歩性を次のとおり否定した。

“[a] weakness of laminate flooring is moisture resistance and high sound transmission due to foot traffic;” a rubber buffering sheet used in wood flooring; “rubber and polyethylene are equivalent materials known in the vapor barrier art;” and examples of “polyethylene foam or rubber foam having a thickness of [59 to about 275 mils]” that provides “improved soundproofing and excellent waterproofing.”

つまり、審査官は、引用発明では59乃至275mmを有するポリエチレン層が防音装置および防水装置に効果があると記載していると指摘した。それと共に、審査官は、先行技術には本願発明のように「0.5乃至1.0mmの厚さを有するポリエチレン湿気防止絶縁断層」は開示されていないが、このような厚さは当業者が容易に調節してみることができる数値に過ぎないと次のとおり主張した。

“[i]t would have been obvious to modify the prior art vapor barrier to have a thickness inside the claimed range because discovering the optimum or workable ranges involves only routing skill in the art.”

審判部は、引用発明では上記厚さを「湿気防止(効果)に影響を与え得る数値(result-effective variable)」と全く認識していないため、審査官の進歩性の拒絶理由が妥当でないと指摘した。具体的に、引用発明ではポリエチレン層が防音装置および防水装置にのみ優れた効果があると記載しているに過ぎず、湿気防止効果に対しては言及していないと説明した。また、審判部は、引用発明では優れた防音装置および防水装置の効果を得ることができるポリエチレン層の最小厚さに対しても全く記載しておらず、ポリエチレン層を約1mmに減らさなければならない如何なる根拠も提示していないと指摘した。最終的に、審判部は、引用発明の数値を最適化し、引用発明を組み合わせても、本願発明の湿気防止絶縁断層を有するフロア構造を容易に完成することができるのか予測することは容易ではないと結論付けた。

3. 結論

当業者が容易に調節してみることができる数値範囲に過ぎないという審査官の論理は妥当でない場合が相当多い。審査官が引用した先行技術には発明の効果に影響を与え得る数値(result-effective variable)であることを明確に認識していることが記載されていなければならない。Ex parte Collisonで判決したとおり、引用発明で防音効果にのみ影響を与え得る数値と認識していれば、これは湿気防止効果に適用可能な数値ではない。したがって、発明者の退職のような理由によりデータを準備することが現実的に困難な場合には、審査官の拒絶理由をもう一度詳細に考察してみる必要がある。