Alice Corporation v. CLS Bank International米国大法院判決が今後米国内におけるソフトウェア特許に及ぼす影響に関する考察1
去る6月19日、米国大法院は金融取引ソフトウェア特許権を主張したAlice社(Alice Corporation Pty Ltd)と、この特許の無効を主張したCLS銀行(CLS Bank International)との間の紛争でCLS銀行側の主張に同意する判決を下した。本判決は、2010年にソフトウェア特許と関連して下されたBilski v. Kappos判決に続き、ソフトウェア特許における重要な先例になりそうだ。そのために、本文を通じて事件の概要と本判決の背景となる米国特許法と判例を調べ、これまで発展してきたソフトウェア特許の流れと今後米国内におけるソフトウェア特許に及ぼす影響について考察してみる。
1. 事件の概要2
Alice社は金融取引を容易にするコンピュ-タシステムのソフトウェア使用に関する特許を多数保有しており3、これとは別途にCLS銀行はAlice社の特許内容と類似する取引に使用されるソフトウェアを開発して使用していた。その後、CLS銀行はAlice社から自社の特許を侵害しているという通知を受け、Alice社を相手に非侵害確認訴訟を始めた。米国コロンビア特別区地方法院における1審判決に続き、米国連邦巡回抗訴法院でもCLS銀行の立場と意見が受け入れられてCLS銀行の特許非侵害決定が下されたが、Alice社はこれを不服として大法院に上告した。これに対して大法院は、本判決を通じて下部法院である地方法院と連邦巡回抗訴法院のCLS銀行の勝訴判決を最終的に確定した。
2. 法律的背景
1)米国特許法35 USC § 1014
米国特許法の制定権限は米国憲法Art. I, Sec. 8, Clause 85に基づいており、United States Code Title 35に特許法が制定されている。このうち、広く知られた主要条項としては、特許の対象と関連した35 USC § 101、新規性と関連した35 USC § 102、進歩性と関連した35 USC § 103、記載不備と関連した35 USC § 112、特許侵害と関連した35 USC §271などがある。
このうち、本Alice Corporation v. CLS Bank International判決と密接な関係のある条項は、特に特許の対象と関連した35 USC § 101であり、原文は次のとおりである:
35 USC § 101 – Inventions patentable
Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title.
上記のように、35 USC § 101は、特許の対象を新規かつ有用な方法(process)、機械(machine)、製品(manufacture)または組成物(composition of matter)の4種の範疇で提示している。反面、自然法則(laws of nature)、物理的現象(physical phenomena)および抽象的発想(abstract idea)などは法的不特許対象と見なしている。本Alice Corporation v. CLS Bank International判決で主要争点となった事案は即ちAlice社が保有していた金融取引関連コンピュータシステムのソフトウェア特許が、金融取引手続による概念が特許性を認められる特許の対象として具体化させたか否かであり、これに対して米国大法院は、Alice社の特許は不特許対象である抽象的発想に過ぎないため、特許として無効であるという決定を下した。
2)コンピュータソフトウェア関連判例の変遷史6
1970年代から本格的に発展したソフトウェア技術に対応して、ソフトウェア関連の米国特許判例も多様に変化してきた。したがって、本文を通じてソフトウェア特許による以前の米国主要判例を考察し、以前の判例に照らし合わせてAlice Corporation v. CLS Bank International判決がソフトウェア特許に及ぼす影響に対しても考えてみる。
Gottschalk v. Benson
本件は1972年に米国大法院により下された判決であって、主要争点はデジタルコンピュータプログラムを使用するために2進化10進数(binary-coded decimal)を2進数(binary number)に転換する方法が特許性を認められる方法として見なされるか否かであった。米国大法院は、上記2進数転換方法が抽象的発想であり、よって、単なる数学的計算や精神作用に過ぎないため、不特許対象と見なされるという判決を下した。したがって、本判例を通じて単なる数学的アルゴリズムは特許対象から除外されるようになった。
Parker v. Flook
1978年に米国大法院は、Parker v. Flookを通じて再度数学的アルゴリズムに関連した判決を下した。本判例では、酵素変換方法において数学的アルゴリズムを用いてアラームリミットを更新する方法が特許の対象になり得るかが争点事案であり、米国大法院はこのようなアラームリミットを更新する方法が単なる数学的計算に過ぎないことを理由として特許性がないと判決した。本判例を通じて、大法院は前述のGottschalk v. Bensonに続き、再度数学的アルゴリズムが不特許対象であることを明確にした。
Diamond v. Diehr
1980年代に入り、米国大法院は、Diamond v. Diehrを通じてコンピュータソフトウェア発明の特許性を認める内容を要旨とする、ソフトウェア特許の歴史において重要な判決を下した。本件で争点となった発明の内容は、ゴムをキュアリングするにあたり、ゴムの加熱温度を計算し制御する際にコンピュータを用いる方法についてであった。以前の判例における発明とは異なり、本発明はコンピュータプログラムだけでなく、ゴムを加熱し、加熱されたゴムを冷却する段階を含んでおり、これを根拠に米国大法院は上記発明の内容が単なる数学的アルゴリズムでなく、ゴム鋳造に関する方法と見なして特許性があると判断を下した。このように、Diamond v. Diehrはソフトウェアも特許を受けることができるという根拠を設けた重要な判例となったが、同時にソフトウェアの特許で単なる数学的アルゴリズムと特許性のあるソフトウェアの判断基準に対する疑問も残した。
State Street Bank & Trust v. Signature Financial Group
1990年代に入り、コンピュータソフトウェアの特許性に対する基準がState Street Bank & Trust v. Signature Financial Group判例を通じてより明確になった。State Street Bank & Trust v. Signature Financial Groupでは、ミューチュアルファンドを運用する“Hub and Spoke”方法において、多数のミューチュアルファンド(“spoke”)を単一の投資ポートフォリオ(“hub”)にまとめ、ソフトウェアを用いてそれぞれの資産に対する所有権のパーセントに基づいてファンドの価値を決定するビジネス方法発明に特許性があるか否かが争点であった。これに対して、米国連邦巡回抗訴法院は、ビジネス方法も特許の対象となることができ、特に有用、具体的且つ有形の結果を生むソフトウェア発明またはビジネス方法は特許性があるという判決を下した。
In re Bilski
2008年に米国連邦巡回抗訴法院は、State Street Bank & Trust v. Signature Financial Groupで言及された有用、具体的且つ有形の結果を生むソフトウェアまたはビジネス方法に特許性があるという判決に対し、方法特許の特許性を決定するテスト方法を新たに提示した。本件では物品取引の際に確定した手形システムを通じて損失に備えるビジネス方法特許において特許性有無が鍵となり、これに対して米国連邦巡回抗訴法院は、本方法特許に特許性がないと判断しながら、この特許性を判断する基準として、1)特定の機械や装備に関連していたり、または2)特定の物品を他の状態や事物へ変換させるか否かにより決定する機械または変換テスト(machine-or-transformation test)を提示した。
Bilski v. Kappos
2010年に米国大法院は、Bilski v. Kappos判決を通じて、前述のIn re Bilski判決を通じて米国連邦巡回抗訴法院により整理された機械または変換テストは、特定の方法に特許性があるか否かを決定する単独テストになり得ないという立場を見せた。Bilski v. Kappos件では、エネルギー関連物品の生産者と販売者が価格変化による損失を防止したりこれに備えることが特許性のある発明といえるかが争点であり、これに対して米国大法院は、このような発明は特許性のある発明というよりは、抽象的発想を先占しようとする意図と判断されて特許性のある発明として認めることができないという立場を見せた。また、In re Bilski判決で提示した機械または変換テストは、方法が抽象的発想を先占しようとしているかを判断する様々な尺度の一つに過ぎず、絶対的なテスト方法にはなり得ないという立場を表明した。
3. Alice Corporation v. CLS Bank International判決が有する意義と展望7
上述したとおり、1970年代から本格的に始まったソフトウェアの技術発展に伴って発展した技術に特許を付与するにあたり、米国大法院および米国連邦巡回抗訴法院は、時にはソフトウェア特許に慣用的に、時には保守的にと多様な立場を見せてきた。しかし、多くの判例から見られるように、依然として抽象的発想と特許性を有するソフトウェアを区別できる基準が不明確な問題として残っている。2000年代初期から浮び上がったパテント・トロールにより提起される訴訟とこれに対する企業の訴訟防御によって、このような抽象的発想と特許性のあるソフトウェアを判断できる基準を明確にする必要があるという声が高まってきた。
かかる雰囲気の中で、米国大法院はAlice Corporation v. CLS Bank International判決を通じてコンピュータソフトウェア関連の特許を取得する基準を高め、ひいてはパテント・トロールのように基盤が弱い特許を所有した特許所有者により提起される訴訟が減少する効果を奏すると予想されている。また、本判決は特許の基準を厳格にすることによって、特許の品質を向上させると期待されている。
しかし、本Alice Corporation v. CLS Bank International判例も以前の判例と同様に、抽象的発想と特許性のあるソフトウェアを判断する明確な基準を提示することができなかったという評価を受けている。一部ではAlice Corporation v. CLS Bank International判例で抽象的発想の範囲を広く解釈することによって、今後の訴訟件において特許を侵害した側で紛争対象の特許を抽象的発想へと追い込むことが発生し得ると懸念している。
特定のビジネス方法またはソフトウェア発明が35 USC § 101による抽象的発想か、もしくは特許性のある発明かを判断するにおいては定形化された基準を設けるのが容易ではなく、多様に異なる解釈が可能なだけに、今後も追加的な訴訟および判決などが不可避になりそうである。しかし、本判決が抽象的発想を単にコンピュータと連結するだけでは特許を取得できないという明らかなメッセージを含んでいるため、現ソフトウェア特許において一部の不確実性を除去したことにその意義があるといえる。
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