Ⅰ.序言
情報通信技術(ICT)の発展が加速化することに伴って新たな類型のICT産業が登場している。そのうち「クラウド基盤のストリーミングサービス」は、別途のダウンロードを経ずにサーバーから直接端末にコンテンツを転送するものであって、便宜性と接近性が高く、端末の紛失や交換によるデータ損失のおそれを最小化できるという長所のため、多くの企業からの関心を集めている。しかし、クラウド基盤の産業は著作物の移動を前提とするため、著作権侵害の素地があり、特に当該産業が新たなビジネスモデルに該当する場合には法院の判決前まで該当サービスの著作権侵害有無が不確実な側面がある。
最近、米国ではAereo社のクラウド基盤のストリーミングサービスである「Aereoサービス」が消費者からの大きな反響を得たが、去る2014年11月にAereo社がサービスを終了し、破産を申請する事態が発生した。このような事態の裏面には「Aereoサービス」が放送会社の公演権を侵害すると判示した米国連邦大法院の判決が存在するところ1、以下で対象判決の事実関係および主要争点に対する判決要旨を整理し、対象判決を通じて韓国ICT産業に対する示唆点を検討してみる。
Ⅱ.事件の経過
1.事案の概要
原告American Broadcasting Companies, Inc.などは、独立した地上波放送番組を製作し放映する放送局であり、被告AEREO, Inc.は、「Aereoサービス」というクラウド基盤のストリーミングサービスを提供する会社である。
被告が提供する「Aereoサービス」とは、被告が加入者に個別のアンテナとクラウド保存スペースを割り当て、その個別のアンテナが放送会社で送信する地上波放送を受信すれば、加入者は上記個別のアンテナを通じて受信された番組を自己のノートパソコン、タブレット、スマートフォンなど多様な携帯機器を通じてリアルタイムに視聴できるだけでなく、自己が所望する番組を自己に割り当てられたクラウド保存スペースに保存していつでも視聴できるようにするサービスである。原告は被告の「Aereoサービス」が自己の放送番組に対する公演権(米国の著作権法第106条第4項)を侵害したと主張しながら、本事件の訴えを提起した。
2.対象大法院判決までの経緯
1審の米国連邦ニューヨーク地方法院は「Aereoサービス」が加入者別に割り当てられたアンテナを用いて地上波番組を受信し、加入者が地上波番組を録画する場合、その加入者に割り当てられたクラウド保存スペースだけに保存して他の加入者はこれにアクセスできないようにした点を根拠に、米国著作権法上の「公演(public performance)」でなく、私的な転送に過ぎないと見なして侵害を否定した。米国連邦第2巡回抗訴法院は、Cartoon Network LP, LLLP v. CSC Holdings, Inc.事件2を引用しながら1審判決を支持し(WNET, Thirteen v. Aereo., 712 F.3d 676 (2d Cir. 2013))、原告は米国連邦大法院に上告するに至った。
一方、米国連邦カリフォルニア地方法院は、上記「Aereoサービス」と類似するBarry Driller Content Systems, PLC社のインターネットストリーミングサービスに対し、このようなサービスは著作権法第101条上、「公演(public performance)」に該当すると判示しながら、少なくとも米国連邦第9巡回抗訴法院の管轄内では権利者(Fox Television Stations, Inc)の著作権侵害停止仮処分を引用した。3
Ⅲ.対象大法院判決の要旨
1.訴訟の争点
被告の行為が著作権法第106条第4項の公演権侵害行為に該当するためには、被告の「Aereoサービス」が著作権法第101条の「public performance」に該当しなければならない。したがって、本訴訟では被告の地上波放送番組の転送行為が「perform」に該当するか否かと、その「performance」が「the public」に行われたか否かが問題になった。
2.判決の内容
イ.「perform」に該当するか否か
米国連邦大法院は、1976年の著作権法改正前の事例であるFortnightly Corp. v. United Artists Television, Inc.事件4とTeleprompter Corp. v. Columbia Broadcasting System, Inc事件5で、ケーブルTV会社のサービス提供行為は「perform」に該当しないと判示したが、ケーブルTV会社の行為は視聴者のテレビ装置に地域で互換性のよいアンテナを設置することによって、視聴者が送信者の信号を一層円滑に受信できるようにしたものに過ぎないと見なしたためである。しかし、上記判決以降、米国議会はケーブルTV会社の行為を「perform」と見なされるように著作権法を改正したところ、米国の1976年の改正著作権法によれば、著作物のある一部のイメージでも見せたり音を聞かせたりすることも「perform」に含まれる。
被告は「Aereoサービス」が「個人割当アンテナ方式」に基づいたものであって、自己は加入者に割り当てられる個人アンテナを代わりに管理し、DVRなどクラウド基盤の付加機能を貸与するサービスを提供するに過ぎないため、一つのアンテナで放送を受信して個別加入者に送出するケーブルTV会社の地上波再転送とは異なると主張した。
しかし、米国連邦大法院は、対象判決で、改正著作権法上の「perform」に該当するケーブルTV会社のサービスと被告の「Aereoサービス」は圧倒的に類似しているとしながら、前者は常時加入者に転送されている状態である反面、後者は加入者が特定の番組を視聴すると指定するまで不活性状態で残っているという差異点だけが存在すると判断した。したがって、米国連邦大法院はこのような技術的な差異点だけでは改正著作権法上の「perform」に該当するケーブルTV会社のサービスと被告の「Aereoサービス」とを異なると見なすことができず、結局、被告の行為も「perform」に該当すると判示した。
ロ.「the public」に行われたか否か
被告は「Aereoサービス」が個人に割り当てられたアンテナを通じて個別的に行われており、加入者は視聴しようとする番組を自己に割り当てられたクラウドスペースに保存してこれを実行するものであるため、「privately performance」に該当すると主張した。
このような被告の主張はCartoon Network LP, LLLP v. CSC Holdings, Inc.事件に起因したものであり、上記事件で米国連邦第2巡回抗訴法院は、被告Cablevision Systemsのサービスが、加入者が録画を希望する場合、その加入者だけのための録画版を作り、その録画版を該当加入者だけに転送するため、「公衆に」転送されるのでなく、米国著作権法上の「公演(public performance)」に該当しないと判示したためである。このような論理によれば、同一の内容を有する著作物写本が同時または異時に複数の加入者に転送されても、その転送形態が一つの複製版がたった一人の加入者に転送される場合は「公衆に対する」転送でないため、著作権侵害でなくなる。
しかし、米国連邦大法院は「the public」の意味が、「performance」を受ける対象がそれに対して特定の関係を有するか否かによっても決定されるとしながら、被告は「Aereoサービス」を通じて不特定多数の加入者が同時に認知できる同じ種類のイメージと音を送信し、この時の不特定多数人は互いに知らず、何ら関係もないため、被告の「Aereoサービス」提供行為は「the public」に対する転送、つまり、米国著作権法上の「公演(public performance)」に該当すると判示した。
Ⅳ.対象判決の示唆点
米国のケーブルTV会社は、地上波放送番組を受信して加入者に送出するために放送会社に再転送料を支払っており、加入者からは約20ドルの利用料が入る。反面、Aereo社は既存のケーブルTV会社が有する著作権法的問題を技術的に解決して放送会社に再転送料を支払わない代わりに、加入者から受ける利用料を8~12ドルに引き下げた新たなビジネスモデルを構築しようとした。実際に2012年に始まった「Aereoサービス」は、消費者からの大きな反響を得たが、地上波放送を製作し放映する放送会社としては、全体収益の約10%に達する再転送料を支払わないAereo社を目の上の瘤のように感じざるを得ず、2年余りに及んだ法的攻防の末に「Aereoサービス」が放送会社の公演権を侵害するという対象判決を得た。
結局、「Aereoサービス」の中止に至ったAereo社は、2014年11月に破産申請を行ったが、対象判決は単に新生企業であるAereo社の成敗からさらに進んで、ICT産業に基づく新たなビジネスモデルの創出を目指す他の企業にも大きな影響があると見られる。対象判決はこの判決がクラウド基盤のコンテンツ保存サービスに関するものでないとして、他の産業に対する影響力を制限しようとしたが、事業初期から著作権法の問題に悩んできたAereo社の場合にも、対象判決により著作権法の抵触有無を決定せざるを得ないという点を考慮してみると、企業の新たなビジネスモデルの創出が萎縮する可能性を排除することはできないだろう。
反面、企業が提示する新たなビジネスモデルが著作権法の問題を回避しようとする真似事に過ぎない可能性も無視できない。「Aereoサービス」の場合、一つのアンテナで受信して加入者に送出するのでなく、個別のアンテナを利用することを主要抗弁として挙げたが、このようなサービス形態が極めて非効率的であるという側面から、著作権法の抵触回避に過ぎないのではないかという専門家の意見も存在し、原審判決の反対意見でもこのようなAereoの技術抗弁に対して「sham(にせ物、虚飾)」に過ぎないと指摘している。このような側面では、対象判決は著作権者の保護に対して一層充実した判決に該当すると見ることができるだろう。
Ⅴ.韓国の類似事例
1.ENTAL社の「インターネットVCRサービス」事件
韓国にも著作権侵害(複製)行為の主体をサービス提供者と見なすのか、あるいは個別加入者と見なすか否かに係る判決が存在するが、ENTAL社の「インターネットVCRサービス」事件がそれに該当する。被告のENTAL社は、地上波放送事業者の放送番組をDivxコーデックで圧縮されたファイルによって加入者に転送するサービスを提供し、加入者はこのサービスを通じて所望の地上波番組を予約録画することができ、上記番組に対する録画はENTAL社が設置・管理するENTAL録画システムを通じて行われた。地上波放送事業者はENTAL社が自己の複製権、公衆送信権などを侵害していると主張し、ENTAL社は該当サービスは加入者の私的複製行為のほう助に過ぎないと抗弁した。
ソウル中央地方法院は、録画システムの管理、点検、装備補修がすべてENTAL社により行われており、ENTAL社が自己のサーバーに地上波番組を保存する方式で複製行為を管理しているため、複製権侵害の主体をENTAL社と見なして私的複製に該当しないと判示し、ひいては、ENTAL社が管理するサーバーに保存された放送番組を加入者の要請に応じて転送したことは公衆送信権侵害行為に該当するとした(ソウル中央地方法院2008ガ合25126判決(2008.7.10.言渡))。ENTAL社はこのような1審判決に対して抗訴したが、ソウル高等法院は1審を維持し(ソウル高等法院2008ナ86722判決(2009.4.30.言渡))、大法院の審理不続行による棄却で確定した(大法院2009ダ39738判決(2009.9.24.言渡))。
2.総合有線放送会社の「同時再送信サービス」事件
一方、地上波放送信号を受信した後、加入者にリアルタイムにその放送信号を直接再送信したり、デジタル有線放送用のセットトップボックスを経て再送信する総合有線放送会社(株式会社CJ Hello Visionなど)の「同時再送信サービス」が問題になった事件がある。地上波放送事業者は総合有線放送会社が自己の著作隣接権である同時中継放送権を侵害すると主張し、総合有線放送会社は放送法第78条第1項および第3項が総合有線放送会社にとって「受信補助行為」に該当する同時再送信を許容しており、自己のサービスは「受信補助行為」に過ぎないため、地上波放送事業者の著作隣接権を侵害しないと抗弁した。
ソウル高等法院は①総合有線放送会社が地上波放送信号のうち、聴覚障害者のための字幕放送信号と視覚障害者のための画面解説放送信号を排除したまま再送信しており、加入者からサービス利用料を支給されており、受信設備の設置および管理方法を決定しているため、受信者に共視聴施設を利用した場合と同一または類似する水準の負担で地上波放送を受信する機会を提供したと見なし難く、②総合有線放送会社が同時再送信サービスを通じて得る経済的利益の程度が、同時再送信サービスを受信者の受信を補助することを越えると評価する程度に達すると判断しながら、総合有線放送会社の同時再送信は「受信補助行為」に該当しないものであって、地上波放送事業者の著作隣接権を侵害すると判示した(ソウル高等法院2010ナ97688判決(2011.7.20.言渡、上告取下で2013年4月11日確定))。
Ⅵ.結び
去る2015年1月14日に衛星放送事業者であるKTスカイライフは、別途の保存スペースなしでも50余りのチャンネルで放映される放送を録画・再生でき、多様な端末を通じて移動中にも利用できる「クラウドPVR録画方式」を中断し、汎用の直列バス(USB)録画方式とハードディスクドライブ(HDD)方式だけを運営すると明らかにしたところ、このような決定の背景に対象判決が存在することを否認できない。
このように、対象判決は既に韓国ICT産業にも大きなインパクトをもたらしており、現在進行中の類似サービスだけでなく、ICT産業の新たなビジネスモデルを創出しようとする企業にも少なからず影響を与えるようになった。特に、Aereo社が著作権法的な論議を避けるために米国連邦第2巡回抗訴法院のCartoon Network LP, LLLP v. CSC Holdings, Inc.事件を参考にして細心に「Aereoサービス」を構築しようとしたにも拘わらず、結局、米国連邦大法院の判決をもって著作権侵害が認められたという事実を見過ごしてはならないだろう。したがって、企業は事業初期段階から念入りな法律諮問を通じて著作権法の抵触有無に対して検討しなければならないのはもちろん、法律家は既存の判決例に局限された形式的な法律諮問でなく、技術の進歩と法の保守性との間の緊張関係を注意深く観察してクライアントのリスクを最小化できるように対策を講じなければならないだろう。
|