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「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律」第2条第1号ヌ目に対する事例研究
YOU ME 法務法人 弁護士 辛東桓・柳藝眞

Ⅰ.はじめに

「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」という)」は、『その他に他人の相当な投資や努力により作られた成果などを公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することによって他人の経済的利益を侵害する行為』を不正競争行為の一つの類型とする規定を新設し、上記不正競争防止法第2条第1号ヌ目は、2014年1月31日に施行された。施行日から丸1年が過ぎた現在、不正競争防止法第2条第1号ヌ目の認否を判断した下級審判決が一つずつ紹介されており、大部分の事案は知的財産権法における保護要件や侵害要件を満たさないことにより、該当知的財産権法では非侵害行為と規定される可能性が大きかった事案であることが確認できる。

しかし、大法院は、上記規定が新設される前、知的財産権法の非侵害行為の救済手段として民法第750条による一般不法行為の法理を認めていたところ、以下で改正不正競争防止法施行以降の第2条第1号ヌ目の認否を判断した下級審判決の事実関係および判決の要旨を整理する一方、このような不正競争防止法第2条第1号ヌ目が知的財産権の非侵害行為の救済手段として機能するかについて検討してみる。

Ⅱ.不正競争防止法第2条第1号ヌ目に関する下級審判決

1.ソウル中央地方法院2014カ合80015決定(2014.4.16.言渡)

イ.事実関係

債権者は、法務法人であって、その代表弁護士は離婚など家族法関連事件を主に担当していた者であり、債務者は、交通事故を主に処理する法務法人であって、家族法関連訴訟に関するウェブサイトを運営する者である。債務者の広告代行社は、ポータルサイトに開設されたオンラインコミュニティに「債権者の代表弁護士」または「債権者」が含まれているタイトルの掲示文を掲示し、その掲示文の文言をクリックすると、債務者が運営するウェブサイトにアクセスされるようにした。これに対して債権者は、債務者が上記掲示文を掲示して債権者または債権者の代表弁護士を使用した行為が不正競争防止法第2条第1号ヌ目に該当するとして不正競争行為差止仮処分を申請した。

ロ.決定の要旨

上記事件の裁判部は「債権者」および「債権者の代表弁護士」という標章が周知・著名の程度に至らず、不正競争防止法第2条第1号ロ目またはハ目に該当しなくても、債権者の相当な努力と投資により債権者の営業を表す標章として国内の一部消費者が認識できるようになっており、債務者が広告代行社を通じて債務者の営業とは直接関連のない債権者の営業標識を本事件掲示文に含めることで、消費者がインターネットポータルサイトを通じて債権者の営業標識を検索すると本事件掲示文が検索されるようにし、本事件掲示文に債務者が運営するウェブサイトをリンクして消費者が上記サイトにアクセスするように債務者の営業を広告することは、公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用する行為に該当すると判示した。

同時に、債務者の上記のような広告行為により、債権者としては、債権者の営業標識である「債権者」および「債権者の代表弁護士」をインターネットポータルサイトで検索する消費者が、債務者が運営するウェブサイトにアクセスすることによって、債権者の潜在的な顧客を失うようになるなど、債権者の経済的利益が侵害される蓋然性が十分にあるため、『債務者が広告代行社を通じて本事件掲示文を掲示することによって債務者の営業を広告する行為は、不正競争防止法第2条第1号ヌ目で定める不正競争行為に該当する』と判示した。

2. ソウル高等法院2014ナ2011480判決(2014.12.4.言渡)

イ.事実関係

原告は、ギャラリーを運営する者であって、三陟(サムチョク)市に所在する島を撮影して以来、有名になり始めた英国出身の写真作家の代理人であり、被告は、2011年頃、外注の広告製作社が公募展写真を使用して製作した広告映像をTVおよびインターネットを通じて放送した者である。原告は、被告が商業広告に使用した写真が英国出身の写真作家の写真著作物を模倣したと主張しつつ、被告の商業広告行為は複製権または2次的著作物作成権を侵害する行為に該当し、不正競争防止法第2条第1号ヌ目が定めた不正競争行為に該当すると主張した。

ロ.判決の要旨

上記事件の裁判部は、英国出身の写真作家の写真著作物と、被告が商業広告に使用した写真との間に実質的な類似性が認められないという理由で原告の著作権侵害主張を認容せず、被告の写真使用行為が、原告または英国出身の写真作家に関する関係において公正な商取引慣行や競争秩序に反するとみなす程度の事情も見当たらないとして、不正競争防止法第2条第1号ヌ目が定める不正競争行為に該当しないと判示した。

Ⅲ.知的財産権非侵害行為に対する救済手段

一方、上記ソウル高等法院2014ナ2011480判決(2014.12.4.言渡)は、『実質的な類似性が認められない形態の「模倣」行為は、著作権法により許容されるものであり、不正競争防止法第2条第1号ヌ目は、限定的に列挙された不正競争防止法第2条第1号イ目乃至リ目所定の不正競争行為に対する補充的規定に過ぎず、著作権法により原則的に許容される行為までも規律するための規定ではないとみなければならない』と判示した。したがって、このような判示内容によれば、著作権非侵害行為に該当する限り、不正競争防止法第2条第1号ヌ目が適用されないと理解される素地がある。

しかし、大法院は、不正競争防止法第2条第1号ヌ目の新設前、原告が放映したドラマ「冬のソナタ」、「チャングムの誓い」、「朱蒙」などが人気を博した後、被告が上記ドラマを連想させるに十分な衣裳と小物、背景などで装飾したハローキティのキャラクター商品を製造・販売した事件において、被告の行為が商標権侵害行為、不正競争防止法第2条第1号イ目の商品主体の混同行為、不正競争防止法第2条第1号リ目の商品形態の模倣行為、および著作権侵害行為に該当するとみなすことができないという原審(ソウル高等法院2009ナ4116判決(2010.1.14.言渡))の判断を維持しながら、上記ドラマは、原告が相当な努力と投資により構築した成果物であって、これらの放送社は該当ドラマの名声と顧客吸引力を利用してそれに関する商品化事業を遂行できる権限を他人に付与して代価を得る方式などで営業してきているところ、このような営業を通じて原告が得る利益は、「法律上保護する価値がある利益」に該当するとし、ひいては、競争者が相当な努力と投資により構築した成果物を商道徳や公正な競争秩序に反して自身の営業のために無断で利用することによって、競争者の努力と投資に便乗して不当に利益を得て、競争者の法律上保護する価値がある利益を侵害する行為は、不正な競争行為であり、「民法上」不法行為に該当すると判示している(大法院2010ダ20044判決(2012.3.29.言渡))。このように、大法院は、著作物性がないかまたは著作権侵害の要件を満たさず、著作権法による保護が与えられない場合に民法第750条の一般不法行為の法理を適用して損害賠償を認める立場であり、ひいては差止請求までも認めている(大法院2008マ1541決定(2010.8.25.言渡))。

上記のような大法院の判示は、個別の知的財産権法における保護要件や侵害要件を満たさないことによって、該当知的財産権法では非侵害行為と規定せざるを得ない行為に対しても、「法律上保護する価値がある利益」に該当する限り、その利益を保護するという趣旨に起因する。ところが、不正競争防止法第2条第1号ヌ目規定は、大法院が知的財産権非侵害行為に対して一般不法行為の法理を適用するための要件として説示している「競争者が相当な努力と投資により構築した成果物を商道徳や公正な競争秩序に反して自身の営業のために無断で利用することによって競争者の努力と投資に便乗して不当に利益を得て、競争者の法律上保護する価値がある利益を侵害する行為」をそのまま立法化し、その改正理由でも『技術の変化などから現れる新規且つ多様な類型の不正競争行為に適切に対応するために新設されたもの』と説明しているに過ぎない。

つまり、①大法院が「競争者が相当な努力と投資により構築した成果物を商道徳や公正な競争秩序に反して自身の営業のために無断で利用することによって競争者の努力と投資に便乗して不当に利益を得て、競争者の法律上保護する価値がある利益を侵害する行為」を不正な競争行為とみなしていたという点、②不正競争防止法第2条第1号ヌ目は、不正競争行為に対する補充的規定として立法化されたという点、③立法過程でも知的財産権非侵害行為に不正競争防止法第2条第1号ヌ目を適用しないとする立法者の意図を見出せないという点に照らしてみると、知的財産権侵害行為に該当しないとして、必ずしも不正競争防止法第2条第1号ヌ目の不正競争行為に該当しないとみなすことはできないといえる。

Ⅳ. 結び

最近、新たなコンテンツ開発が多様化しており、そのうち十分な保護価値が認められるにも拘わらず、既存の法律では保護が難しいものも存在する。この場合、商業的に大きな成功を収めた対象に対する第三者の模倣行為が猛威を振るうはずである。不正競争防止法第2条第1号ヌ目は、その保護範囲が広く規定されており、上記のような権利者を保護するための根拠規定として用いられ得る。ただし、上記のようにまだ不正競争防止法第2条第1号ヌ目と関連した法理が定立されているとは認められず、法院の判断も一貫していないようにみえるのが実情である。したがって、権利者を代理する法律家は、不正競争防止法第2条第1号ヌ目が権利者の権利救済手段として機能することができるように積極的に法理を研究しなければならず、上記規定が具体的事案に適用される場合、最大限権利者の利益に符合するように講じなければならないだろう。