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大法院2014フ768全員合議体判決(2015.5.21.言渡)【権利範囲確認(特)】
弁理士 金蓮姫

医薬という物の発明において対象疾病または薬効と共に投与用法と投与容量を付加する場合、投与用法と投与容量が発明の構成要素であるか否か(積極)、および投与用法と投与容量という新たな医薬用途が付加されて新規性と進歩性などの特許要件を備えた医薬に対して新たに特許権が付与され得るか否か(積極)/この法理が権利範囲確認審判において審判請求人が審判の対象とした確認対象発明が公知の技術から容易に実施できるかを判断する時にも同様に適用されるか否か(積極)

[判決要旨]

[1] 医薬が副作用を最小化しつつ効能を完全に発揮するためには、薬効を発揮できる疾病を対象として使用しなければならないだけでなく、投与周期、投与部位や投与経路などのような投与用法と患者に投与される容量を適切に設定する必要があるが、このような投与用法と投与容量は、医薬用途となる対象疾病または薬効と共に医薬が効能を完全に発揮するようにする要素として意味を有する。このような投与用法と投与容量は、医薬物質が有する特定の薬理効果という未知の属性の発見に基づいて新たな使い道を提供するという点において対象疾病または薬効に関する医薬用途と本質が同一である。

[2] そして、同一の医薬でも投与用法と投与容量の変更により薬効の向上や副作用の減少または服薬の便宜性の増進などのように、疾病の治療や予防などに予想しない効果を発揮することがあるが、このような特定の投与用法と投与容量を開発するにも医薬の対象疾病または薬効自体の開発に劣らない程度に相当な費用などを要する。したがって、このような投資の結果として完成し、公共の利益に寄与する技術に対して、新規性や進歩性などの審査を経て特許付与の要否を決定する前に、特許としての保護を源泉的に否定することは、発明を保護、奨励し、その利用を図ることによって技術の発展を促進して産業の発展に寄与するという特許法の目的に符合しない。

[3] 医薬という物の発明において、対象疾病または薬効と共に投与用法と投与容量を付加する場合に、このような投与用法と投与容量は医療行為自体でなく、医薬という物が効能を完全に発揮するようにする属性を表現することによって、医薬という物に新たな意味を付与する構成要素になり得、このような投与用法と投与容量という新たな医薬用途が付加されて新規性と進歩性などの特許要件を備えた医薬に対しては新たに特許権が付与され得る。

このような法理は、権利範囲確認審判において審判請求人が審判の対象とした確認対象発明が公知の技術から容易に実施できるかを判断する時にも同様に適用される。

[事案の概要]

イ)特許発明

担体基質の表面に付着された0.5~1.0mgのエンテカビル(entecavir)を含む、B型肝炎ウイルス感染を治療するための1日1回投与に効果的な製薬組成物。

ロ)確認対象発明

エンテカビル1.0mgを1日1回投与可能なB型肝炎ウイルス感染治療用錠剤。

ハ)進行経過

特許審判院は、特許発明の「1日1回投与」という部分を構成要素とみなさず、確認対象発明は比較対象発明により容易に実施できる自由実施技術に該当するという理由により被告の消極的権利範囲確認審判を認容する審決を下し、これに対し、特許権者である原告が特許法院に審決取消訴訟を提起した。原告は、特許発明の優先日以前に通常の技術者に1kg当たり1~50mg(成人60kg基準60~3000mg)のエンテカビルを1日数回投与してこそ効果があるという認識があったことから、エンテカビル1mgを1日1回投与することが効果があり得ると予測できないため、確認対象発明は、自由実施技術ではないと主張した。特許法院は、次のような理由により確認対象発明は、自由実施技術とみなして原告の請求を棄却した。つまり、「確認対象発明は、B型肝炎治療剤として効果があると知られたエンテカビルの投与容量を1mg、投与周期を1日1回に限定したものであり、①本事件特許発明の優先日以前に通常の技術者に1kg当たり1~50mg(成人60kg基準60~3000mg)のエンテカビルを1日数回投与しなければならないことに対して一般に認識されていたとみることができない点、②エンテカビル1mgを投与することは安全であると知られており、他にエンテカビルが1mgから効果が現れることを予測するのに妨害要因がない点、③エンテカビル5mgがHBVに対するEC50値を超える血漿薬品濃度を示すとみられる事情などを通じて、エンテカビルが5mg以下において効果が現れると予測できる点、④平均消失半減期55時間の内容を通じて1日1回投与することを予測できる点、⑤比較対象発明2の表2に記載された内容からもエンテカビル0.5~2.5mgを1日1回投与することを予測できる点などに基づき、エンテカビル1mgを1日1回投与することは通常の技術者が比較対象発明から予測できる程度に過ぎない」と判示した。

 [判決の意義]

大法院は、「医薬という物の発明において対象疾病または薬効と共に投与用法と投与容量を付加する場合に、このような投与用法と投与容量は医療行為自体でなく、医薬という物が効能を完全に発揮するようにする属性を表現することによって、医薬という物に新たな意味を付与する構成要素になり得るとみなされるべきであり、このような投与用法と投与容量という新たな医薬用途が付加されて新規性と進歩性などの特許要件を備えた医薬に対しては、新たに特許権が付与されてもよい」と判示し、投与周期と単位投与量は組成物である医薬物質の構成要素とみなすことができないという趣旨の従来の大法院判決を変更した。

米国では、公知となった医薬組成物において投与方法を限定した発明は、方法発明であり、医療方法特許(medical method patent)として保護されており[米国特許法第100条(b)]、日本では公知となった医薬組成物において投与方法を限定した発明は、物の発明であり、医薬用途特許(medical use patent)として保護されている[2009年11月改訂医薬発明審査基準VII部第3章]。このような世界的な傾向により医薬組成物において投与用法と投与容量を構成要素とみなした大法院2014フ768全員合議体判決は、その意味が大きいといえ、ひいては、公知となった医薬組成物において投与用法と投与容量を限定することは、医療行為自体であり、産業上利用できない発明に該当するとみなして特許を付与しないことには大きな説得力はなくなった。

[参照条文]

旧特許法(1986年12月31日付法律第3891号で改正される前のもの)第4条第3号(現行削除)、第5号(現行削除)、特許法第2条第3号、第96条第2項、医療法第12条第1項

[参照判例]

大法院2003ダ47218判決(2004.1.16.言渡)