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商標権侵害に対する損害賠償
YOU ME 法務法人 弁護士 全應畯·辛東桓

 
Ⅰ. はじめに

  商標権者は、当該知的財産権を独占的に使用する権利を有すると同時に、当該権利を侵害した侵害者に対してはその侵害による損害賠償を請求することができる。原則的に商標権者が侵害者の侵害行為を理由として損害賠償を請求する場合、民法第750条の不法行為損害賠償条項の要件事実を立証しなければならないが、商標法は、損害額推定規定を置き、「商品の譲渡数量に商標権者または専用使用権者がその侵害行為がなかったとすれば販売することができた商品の単位数量当たりの利益額を乗じた金額(商標法第110条第1項)」、「権利を侵害した者がその侵害行為により利益を受けた場合には、その利益額(商標法第110条第3項)」、「登録商標の使用に対して通常受けることができる金額に相当する金額(商標法第110条第4項)」などを権利者の損害額として請求することができるようにしている。ただし、実務では上記のような推定規定にも拘わらず、損害額算定資料確保の困難さなどにより立証に困難さを経験する場合がほとんどである。これによって、多くの場合、法院は「損害が発生したことは認められるが、その損害額を証明するために必要な事実を明らかにすることが事実の性質上極めて困難な場合には、弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づいて相当な損害額を認めることができる(商標法第110条第6項)」という規定を通じて損害額を認めている。

  法院が商標法第110条第6項のいわゆる裁量損害規定を根拠として認める損害額は、他の推定規定に基づいた場合よりも少ないのが一般的である。ただし、このように法院が商標法第110条第6項に基づいて損害額を認める場合にも、原告は法院が裁量損害を認める根拠になり得る多様な算定方法により最善の立証努力をすることが重要である。これと関連して、以下では2千万ウォンの損害額のみを認めた一審判決に控訴して2億ウォンの損害賠償の認容を導いた当法務法人の勝訴事例を紹介する。

  Ⅱ. 事件の経過

  1. 事案の概要

  被告は、原告の登録商標と類似する商標を使用して製品を販売した者である。原告は、被告に警告状を発送し、以降被告と侵害差止および損害賠償に関する交渉を進行した。被告は、当時まで販売した侵害製品の売上額が10億ウォン余を遥かに上回るにも拘わらず、適正な損害賠償を拒否した。そこで、原告は、やむを得ず被告を相手取って商標権侵害差止および損害賠償を請求する訴えを提起した。一審弁論の終結直前まで請求の趣旨の変更を通じて最終的に原告が被告を相手取って請求した損害賠償額は、2億5千万ウォンであった。

  2. 一審判決

  原告の利益率が高い場合、商標法第110条第1項により原告の利益率に基づいて損害賠償額を算定するとすれば、損害額算定のための資料の確保も容易であるだけでなく、適正な損害額を算定することも容易である。ただし、大部分の企業が自社が販売する特定製品の利益率に関する情報を営業秘密として管理しているため、やむを得ず商標法第110条第3項により被告が得た利益額を原告の損害として主張する場合が多い。本事件で原告も被告が侵害行為で得た利益額を原告の損害額として主張した。原告は、損害算定のための資料を確保するために、法院に損害額算定のために必要な被告の会計資料に対する文書提出命令を申請し、法院は文書提出命令を下した。しかし、被告は、過去の交渉時に提出した売上額より縮少された売上額に関する資料を提出する以外は、損害算定のために必要な如何なる文書も提出しなかった。そこで、やむを得ず原告は、侵害品の製造、販売業に関する標準所得率(1-単純経費率)を基に被告が得た利益額を算定した。侵害者の利益率が当該分野の標準所得率より低くないという前提で被告の売上額に標準所得率を乗じて被告の利益額を算定し、これを原告の損害額として推定する方式は、従来の多数の下級審判決が認めてきた算定方式であった。

  しかし、本事件の一審法院は、標準所得率に基づいた損害額算定方式を排斥し、被告が提出した損益計算書上の利益額などを参照して単に2千万ウォンの損害額のみを認め、これに対して原告は2億3千万ウォンの敗訴部分に対して特許法院に控訴した。

  3. 二審判決

  控訴審で原告は、被告に対して再度損害額算定に必要な資料提出を促したが、被告は関連文書を提出しなかった。そこで、原告は、被告の製造原価明細書には製品の生産にかかった材料費、労務費、各種経費に基づいた製品製造原価が記載されており、同じ標準財務諸表の標準損益計算書を通じて製品売上額が分かるため、標準損益計算書の製品売上額から製造原価明細書の製品製造原価(材料費、労務費、各種経費)を控除した金額が直ちに被告の限界利益であると主張した上で、その利益率に被告の侵害品売上額を乗じた金額を被告が得た利益額として算定した。厳密にいえば、製造原価明細書や標準損益計算書の売上額は全体製品に対するものであるため、一部の製品に対する利益率もそのとおりであるとはいえないが、一部の製品の売上額が相当に大きい場合にはそのように全体売上額に対する製造原価に基づいて一部の侵害品に対する利益率を算定することができるとの判決例を引用して、かかる算定方式の妥当性を裏付けた。

  また原告は、予備的に「通常、商標権の侵害において侵害者は、商標権者と同種の営業を営む一方で、その商標に化体された商標権者の信用にフリーライドする立場であるため、上記のような信用を獲得するために商標権者が投与した資本と努力などを考慮すると、特別な事情がない限り、侵害者の上記純利益率は、商標権者の当該商標品販売における純利益率よりは小さくないと追認することができる。」という大法院の判決を引用した上で、原告の公開された財務諸表に基づく純利益率に基づいて被告が得た利益額を算定し、これを原告の損害額として主張した。

  上記のような原告の立証に対して控訴審法院は、商標法第110条第3項の立証には不足であるとしながらも、原告が使用した算定方式に基づいて商標法第110条第6項の裁量損害として損害額2億ウォンを認めた。

  Ⅲ. むすび

  最近、実務では知的財産権の権利者に適正な損害額を算定し、認定する問題に対する議論が活発である。法院の外では法院が損害額の認定に消極的であると不満を吐露するが、法院は、相当な損害額を認めたくても当事者が適正な損害額認定のための立証ができていないことに対して不満を持っている。知的財産権の訴訟で多額の損害額がほとんど認められない現在の状況は、法院が損害額の認定に厳しいことから生じる結果ではないということが法院の立場である。結局、法院が適正な損害額を認めてくれるように与えられた状況で最善の立証活動を行って根拠を設けることが代理人の役割である。