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Halo判例以降の米国特許侵害訴訟における故意侵害判断と懲罰的損害賠償
米国弁護士 宋仁順


米国最高裁判所は昨年6月、Halo Electronics Inc. v. Pulse Electronics Inc.およびStryker Corp. v. Zimmer, Inc.判例により、従来のSeagate判例による多少厳格な特許侵害の懲罰的損害賠償の判断基準を緩和した。

  参考までに、米国では特許法35 U.S.C. §284に基づき、特許侵害訴訟で損害賠償額を定める際に算定された損害額の3倍を超えない範囲内で加重した賠償額を賦課することができ、米国裁判所は同条文に基づいて故意に特許を侵害したと判断される特許侵害者に加重した損害賠償額を賦課してきた。

  従来のSeagate判例では、特許侵害の故意性を評価する2段階テストが提示された。Seagateテストの第1段階は客観的な無謀さ(Objective Recklessness)の要件であり、特許侵害者のその行動が客観的に判断しても有効な特許を侵害する可能性が高い行為であったのにも拘わらず侵害行為を実行したことを証明しなければならず、第2段階は主観的な認識(Subjective Knowledge)の要件であり、特許侵害者が特許侵害事実を知ったり知ることができたという点を証明しなければならなかった。この2つの要件を証明する責任は、特許侵害の故意性を主張する特許権者が負担したが、特許権者は明白且つ確信を抱くに足る証拠(Clear and Convincing Evidence)をもってこのような自己の主張を証明しなければならなかった。

  しかし、このようなSeagate判例基準による場合、特許権者がSeagateテストの第1段階である客観的な無謀さの要件を証明することが容易でなく、したがってSeagateテストの第2段階である主観的な認識の立証段階まで至らないまま、特許の故意侵害が認められなかった事例が多かった。

  Halo判例は、上述したように特許権者に多少厳しい基準を要求したSeagate判例の特許侵害の故意性を評価する2段階テストの代わりに、特許を主観的に故意性をもって侵害したと判断される場合であれば、侵害行為が客観的に無謀であったか否かと関係なく、加重した賠償額を認めなければならないと説示し、加えて特許侵害者の過失有無は侵害行為当時の特許侵害者の認識を根拠に判断しなければならないため、地方裁判所は各ケースの特定状況を考慮しなければならないと判示した。さらに、35 U.S.C. §284が地方裁判所に特許侵害者に加重した損害賠償額を賦課できるように裁量権を付与しているという点を挙げ、地方裁判所が特許法の適用および解釈と関連して長期間にかけて発達してきた健全な法理により裁量権を適用することができると判示することによって、事実上、懲罰的損害賠償を判決するに当たり用いることができる地方裁判所の裁量権を広く認めた。

  また、HaloおよびStryker事件で米国最高裁判所は、Seagateテストの判断基準は、特許権者に過度に高い証明責任を付与しており、特許侵害者が故意に侵害行為をしたとしても特許権者が特許侵害者の客観的な無謀さなどを立証することができない場合、特許侵害者は懲罰的損害賠償を回避することができるという問題があると指摘し、従来の特許権者の証明責任の程度を従来の「明白且つ確信を抱くに足る証拠(Clear and Convincing Evidence)」基準から「証拠の優越(Preponderance of Evidence)」基準に下げた。

  このようにHaloおよびStryker判決で従来の多少厳格なSeagate判例の特許侵害故意性評価基準を破棄し、証明責任の水準も低め、地方裁判所の懲罰的損害賠償に対する裁量権も広く認めており、Halo判決以降の特許侵害訴訟で勝訴した特許権者が特許侵害者の故意侵害を立証することがより容易となった。一例として、Halo判決以前は特許侵害者の故意侵害が認められなかったInnovention Toys v. MGA Entertainmentのような事件で、Halo判決以降は従来の故意侵害不認定判決を無効化し、増額損害賠償に関連した内容を再び判断するために地方裁判所へ差し戻したことをみても、今後、特許侵害訴訟事件に多様な変化が起きることは自明である。

  したがって、このようなHalo判例以降の変化した特許訴訟の雰囲気によりよく備えるためには、特許侵害訴訟に係る場合、侵害行為の故意性がなかったことを示すための各種証拠をより幅広く確保することが一層重要になったといえる。特に、米国進出を念頭に置いている企業は、製品開発において徹底した特許分析および回避のために努力すべきであり、もしもの事態に備えて主観的な故意性がなかったことを示す資料として用いることができる専門家の意見書などを事前に入手するなど、後に発生し得る法的な問題に対して備える姿勢が必要であるといえる。