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将来実施予定の発明に対する消極的権利範囲確認審判の許容可否に関する判決-大法院2014フ2849判決(2016.9.30.言渡)【権利範囲確認(特)】
弁理士 金智玄


 消極的権利範囲確認審判において、将来実施予定のものも審判対象とすることができるが、当事者間に審判請求人が将来実施する予定であると主張しながら審判対象として特定した確認対象発明が特許権の権利範囲に属しないことに争いがない場合、かかる確認対象発明を審判対象とする消極的権利範囲確認審判は審判請求の利益がないため許容されないことを判示した事例

  【判決の要旨】

  [1] 消極的権利範囲確認審判では、現在実施するものだけでなく、将来実施予定であるものも審判対象とすることができる。

  [2] しかし、当事者間に審判請求人が現在実施している技術が特許権の権利範囲に属するか否かのみに関する争いがあるに過ぎず、審判請求人が将来実施する予定であると主張しながら審判対象として特定した確認対象発明が特許権の権利範囲に属しないという点に関しては何ら争いがない場合であれば、かかる確認対象発明を審判対象とする消極的権利範囲確認審判は審判請求の利益がないため許容されない。

  【事案の概要】

  [イ] 原告の本事件特許発明は「ヨモギを利用した女性用燻煙剤およびその製造方法」に関するものであり、被告の確認対象発明は「ヨモギおよび樫炭を使用せず、浮遊物が付着しない燻煙剤およびその製造方法」に関するものであって、被告は、原告を相手取って消極的権利範囲確認審判を請求した。これに対して特許審判院は、確認対象発明が本事件特許発明と構成が異なり、均等関係でもないため、保護範囲に属しないとし、被告の審判請求を認容する審決を下した。

  [ロ] これに対して原告は、被告製品がヨモギおよび樫炭を使用しており、浮遊物が付着した構成が含まれているため、確認対象発明を実際に実施しておらず、将来実施の可能性がないことを理由として特許審判院の審決取消を求める審決取消訴訟を特許法院に請求した。

  [ハ] 特許法院は『(1)被告により特定された確認対象発明は、ヨモギおよび樫炭を使用せず、浮遊物が付着しない燻煙剤であって、原告が主張する被告の製品とは構成が異なり、(2)被告は、将来確認対象発明の実施製品を中国の取引先に販売する計画であると主張するが、これを認めることができる証拠資料が提出されておらず、(3)原告は、本事件審判請求の前に被告が現在製造・販売する燻煙剤が原告の特許権を侵害する製品であるという理由で被告に警告状を送り、原告の特許権侵害を理由として被告と被告の代表を刑事告訴したが、確認対象発明に対しては、被告と被告の代表に特許権侵害を理由として警告状を送ったり刑事告訴をしたことはなく、第2次弁論期日に「被告が特定した確認対象発明に対しては特許権侵害を主張せず、将来これを主張する意志もない」とも述べている。したがって、被告が確認対象発明を実施するとしても特許権者である原告から権利の対抗を受けるなどの法的不安があると認められないとの理由により、本事件審判請求は審判請求の利益がなく、不適法であるため、却下されるべきである。』と判示し、原告の請求が認容され、これに対して被告が大法院に上告した。

  【大法院の判断】

  [イ] 確認対象発明と実施製品の同一性判断に関する上告理由に対して
  原審が、本事件確認対象発明は、被告が現在実施してもおらず、原告が主張する被告の実施製品とも構成上の差があると認めた後、本事件確認対象発明を判断対象とした措置は妥当であると判断し、そこに上告理由の主張のとおり、論理と経験法則に反して自由心証主義の限界を逸脱したり必要な審理を尽くさない誤りはないと判示した。

  [ロ] 審判請求の利益に関する法理誤解の誤りがあるのか
  消極的権利範囲確認審判では、現在実施するものだけでなく、将来実施予定であるものも審判対象とすることができると判断した。しかし、当事者間に審判請求人が現在実施している技術が特許権の権利範囲に属するか否かのみに関する争いがあるに過ぎず、審判請求人が将来実施する予定であると主張しながら審判対象として特定した確認対象発明が特許権の権利範囲に属しないという点に関しては何ら争いがない場合であれば、かかる確認対象発明を審判対象とする消極的権利範囲確認審判は審判請求の利益がないため許容されないと判示した。

  原審判決の理由と原審が適法に採択した証拠によると、①被告が特定した本事件確認対象発明はヨモギおよび樫炭を使用せず、浮遊物が付着しない燻煙剤であって、原告が主張する被告実施製品とは構成上の差がある点、②被告は、現在、本事件確認対象発明を実施してはいないが、将来、本事件確認対象発明を実施する計画であると主張する点、③原告は、原告が主張する被告実施製品に対しては被告に警告状を送り、刑事告訴をするなど、本事件特許発明(特許登録番号省略)の特許権侵害を主張しながら争っている反面、本事件確認対象発明に対しては特許権侵害を主張しておらず、将来もこれを主張する意思がないと述べた点、などが分かると判断した。

  そこで、本事件確認対象発明を審判対象とする本事件消極的権利範囲確認審判は、審判請求の利益があるとはいえず、同趣旨の原審判断は正当なものと首肯でき、そこに上告理由の主張のとおり審判請求の利益に関する法理を誤解して判決に影響を与えた誤りはないと判示した。

  【判決の意義】

  消極的権利範囲確認審判において、将来実施予定であるものを審判対象とすることはできるが、このような将来実施予定であるものであって、特許権の権利範囲に属しないという点が当事者間に争いがない確認対象発明を審判対象とするものまで審判請求の利益があるわけではないということを明らかにした。

  【参照条文】

  旧特許法(2014.6.11.法律第12753号で改正される前のもの)第135条第1項