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第2医薬用途特許の有効性および侵害に関する追加指針 - Warner-Lambert v Actavisの控訴法院判決
弁理士 申在植


Warner-Lambert社(Warner-Lambert Company LLC)と多数の医薬品会社と関連した一連の相次ぐ紛争において、控訴法院(Court of Appeal)は、Warner-Lambert社のプレガバリン(pregabalin)に対する第2医薬用途特許が部分的に無効であるとし、Actavis社は侵害していないとする高等法院(High Court)の判決を支持した。

  2016年10月13日付の控訴法院判決(Warner-Lambert Company LLC v Generics (UK) Ltd (t/a Mylan) & Ors [2016] EWCA Civ 1006)では、「Use of substance X in the manufacture of a medicament for treating indication Y」と表現される、いわゆるスイスタイプの第2医薬用途請求項の有効性と侵害性が検討された。判決において、特許出願は物質Xが治療効果を達成するのに効果的であるということを少なくとも妥当性をもつように(plausible)記載する必要があり、用途Yが自然に2以上の部分に分けられる場合、それぞれを考慮する必要があることを確認した。Actavis社に対する有効な特許請求項が存在せず、Warner-Lambert社の侵害主張は失敗した。そうであるにも拘らず、控訴法院は、スイスタイプ請求項の侵害判断方法に対する具体的な基準を提示し、これは今後の英国法院における判決に影響を与える可能性がある。

  Warner-Lambert社の特許は、不十分さ(insufficiency)により部分的に有効でない

  特許請求項が発明の詳細な説明により十分に裏付けられるか否かは、発明の詳細な説明により発明が妥当性をもつように(plausible)記載されているかどうかにかかっている。控訴法院は、EPOおよび英国内判例を検討して、妥当性に対する要求事項の一般原則を引き出し、それは「一般法則、臨界的テスト」とみなすべきであると強調した。控訴法院は、「発明者が発明が如何に作用するものであるかに関して合理的、かつ信頼に足る理論を提供する場合、請求項の妥当性が認められるとみることができる。詳細な説明のデータが特許内容を読んだ技術者に発明を試みるように促す場合も同様である。」とした。

  Warner-Lambert社の特許は、すべての種類の疼痛治療のためのプレガバリンの効能に対する広範囲な請求項を記載しているが、特許の制限されたデータがなぜ一般化され得るかに対する統一原理を提示することができなかった。したがって、判断の論理は、統一原理が共通の一般的な知識から現れ得るのかに対する専門家の証拠に大きく依存し、明細書にあるデータが特許内容を読んだ技術者に「発明を試みる」ことを促すか否かに依存する。

  特許権侵害訴訟過程で、請求項第1項および第3項のみがそれぞれ「疼痛」と「神経因性疼痛」と主張された。特許優先権日付で、疼痛は、炎症性疼痛(inflammatory pain)、神経因性疼痛(neuropathic pain)のような多数の異なる類型に分類されるものと認定された。また神経因性疼痛自体は、末梢神経因性疼痛 (peripheral neuropathic pain)と中枢神経因性疼痛(central neuropathic pain)に分けられる。特許のデータでは、プレガバリンが炎症性疼痛の治療に効果的である可能性があることを明確に示した。また控訴法院では、プレガバリンが末梢神経因性疼痛の治療にも効果的であることに妥当性をもたせるために、炎症性疼痛と末梢神経因性疼痛との間に十分な機械的関連性があるという最初の決定を支持した。特に、このような疼痛類型のすべてが痛覚感覚繊維に多様な有害刺激が作用して脊髄内で効果を誘発する現象である「中枢性感作(central sensitization)」と特徴づけられるということは一般的な知識であった。専門的証拠によると、特許内容を読んだ技術者が、炎症性疼痛に対するデータを通じてプレガバリンが末梢神経因性疼痛にも適合するか否かを確認する簡略なテストを行うように奨励され得ることを示した。

  この手続の主な争点は、1)請求項1と3が中枢神経因性疼痛を含むものと解釈されるべきか否か、及び、2)その特許が中枢神経因性疼痛の治療のためのプレガバリンの効能に妥当性をもつか否かである。控訴法院は、疼痛が「すべての類型の疼痛」を意味するとの最初の決定を支持した。中枢敏感度により特徴づけられる状態のみを含む「疼痛」のより狭い解釈は、その起源に対する一般的な知識の理解がなかった疼痛状態の特定のリストを考慮して正当化されなかった。「神経因性疼痛」という単語の使用が「末梢神経因性疼痛」を意味するものと示されたが、この特許はすべての種類の疼痛治療に対するプレガバリンの効能に対して非常に広範囲に請求しているため、文脈により狭い構成であると解釈され得ない。したがって、請求項第3項は、末梢および中枢神経因性疼痛を用途として含むものと解釈される。中枢神経因性疼痛は「請求項の重要部分」と主張されており、脳卒中(stroke)、多発性硬化症(multiple sclerosis)など重要な状態をカバーし、請求項の妥当性を検討する際は無視できない。結局、中枢神経因性疼痛に対する効能を予測できる資料がなく、特許で言及されたテストは、中枢神経因性疼痛に対するテストではなかった。したがって、請求項第1項と第3項はすべて無効と判決された。

  Warner-Lambert社は、請求項第3項を補正して末梢神経因性疼痛に制限するための条件付き申請をしたが、これは控訴法院で手続の濫用として拒絶された。控訴法院は、これによってActavis社に対する有効な請求項を主張できるWarner-Lambert社に余地を残さず、この決定を支持した。

  この決定は、特許出願が実験データが第2医薬用途特許請求項のすべての重要領域に対してその発明に妥当性をもたせる理由に対する技術的根拠を含む重要性を強調するものである。これは厳格に検証された科学的仮説である必要はなく、単に「合理的、かつ信頼に足る理論」であればよい。この決定はまた、合理的、かつ信頼に足る説明なしに用途に対するリストを列挙する場合、危険性があることを示している。

  スイスタイプ請求項の侵害に対する判断方法の具体化

  控訴法院は、既に本ケースの仮処分差止訴訟過程において、スイスタイプ請求項に対する直接侵害判断方法を確立した。製造者が医薬が特許された用途(このケースでは疼痛)に意図的に使用され得ることを知っていたり、または合理的に予測できる場合、直接侵害が成立し得る。高等法院でこの侵害判断方法を適用するにあたり、判事は特許された用途を処方するための意図的使用であるか否かは処方医と調剤薬剤師の意図と関連があると判決した。

  控訴法院は、スイスタイプ請求項に対する解釈と関連して高等法院の侵害テスト適用に対して論評した。控訴法院は、判事が医師と薬剤師の意図を個別的に考慮して意図的疼痛治療要件を判断することは誤りであるとしながら、一般的に人は自身の行動の結果を知ったり、または合理的に予測するとみなした。つまり、控訴法院は、この意図を否定するためには、製造者が発生する結果を防止するために自身の権限内で合理的なあらゆる措置を講じなければならないとした。本ケースでActavis社がプレガバリン製品であるLecaent(登録商標)が疼痛治療に使用されることを防止するために、あらゆる合理的な措置を講じたかが問題となった。

  また、控訴法院は、スイスタイプ請求項が発明の効力を発揮できる手段が他の当事者により提供されることを要求する間接侵害の対象となり得るかも考慮した。本発明は、疼痛治療用薬学組成物の製造過程にプレガバリンを使用するものである。控訴法院は、組成物を製造する過程は、製造業者により行われる包装段階と薬剤師により行われるラベリング段階を含むとみなした。

  本特許が当該観点で有効であるという最高裁判所への追加的な控訴がない限り、スイスタイプ請求項の解釈またはActavis社の行為に対する適用は、最終的に決定されないであろう。そうであるにも拘らず、多様なジェネリック製造会社が英国のプレガバリン市場で運営されている。またWarner-Lambert社は、Sandoz社との別途の訴訟にも巻き込まれている。特定類型の末梢神経因性疼痛に対するWarner-Lambert社の特許主張が有効であり、スイスタイプ請求項の解釈および侵害に対する拘束力がある法律的判断が進行中である訴訟から生じるという展望がある。このテーマに対する今般の控訴法院の判決は、極めて大きな影響力を及ぼすであろう。