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商標制度の国際化および保護強化によるタイの改正商標法
ニュージーランド弁護士 金叡娜


2016年7月28日付でタイの改正商標法が施行されることに伴って、世界的な商標制度の国際化にあわせて手続の簡素化·統一化を図り、知的財産権の保護強化に肯定的な影響を与えると期待される。

タイ知識財産庁は、ここ数年間マドリッド議定書(Madrid Protocol)への加入推進のために既存商標法の改正を検討してきており、16余年ぶりの2016年4月29日にタイ官報であるローヤルガゼット(Royal Gazette)に改正案承認を発表した。

商標法改正の主要内容は以下のとおりである。

(1) 多類出願 (Multiple Class Application)
既存の1商標1類1出願主義の場合、同一の商標でも商品·サービス類区分ごとに別個の商標登録出願書類を作成しなければならない不便があったが、本改正法が採択した1商標多類1出願主義は、出願人の側面からみると、出願手続が簡素化され、特許庁の立場では出願件数の減少による行政需要が減少する長所がある。
ただし、審査および登録業務の強度が進み、登録後の商標権の移転および管理がより複雑になり、一部類に対する拒絶理由など登録が遅延するおそれがあり、審査時に多類の検索が要求されるなどの短所がある。

(2) 連合商標 (Associated Marks)
旧商標法の場合、既に登録された商標の商標権者が同一または類似する商標を同一の商品群または他の商品群に多数個出願する場合、登録官(Trademark Registrar)はいつでも当該商標を連合商標として登録することを命令することができたが、2016年7月28日に施行された現行法でかかる登録官の権限が廃止される。

(3) 先出願主義
旧商標法によると、商標登録出願時にその出願商標と同一な他人の商標が先出願されている場合、後出願を拒絶することが審査主義の原則であったが、改正法は2以上の商標登録出願人が同一または類似する商標を出願した場合、後出願は拒絶されず、先出願商標審査が進行される間のみ審査が保留される。

(4) 同一または類似する商標検索の強化
登録官は、商標出願審査時にその出願商標と引用商標の指定商品が同一の特性を有する場合、一部の関連商品類のみならず、全商品類に対する商標引用に対して審査することとなった。したがって、本改正法を通じて商標権保護範囲がさらに強化され、商標共存同意制度の導入を通じて商標が類似していても実質的な関連性がなく、先登録権者が共存同意をすれば、登録が可能になるように制度が改善された。

(5) 商標登録期間の短縮
意見提出通知および異議申立提起期間の場合、既存の90日から60日に短縮して商標登録期間の平均が約3ヶ月程度短縮するとみられる。

(6) 商標登録料納付期間の延長
商標登録料納付期間が登録通知日から、既存の30日から60日に延長され、納付期間の追加延長要請時に追加延長が可能となるとみられる。

(7) 更新申請の猶予期間
改正法によると、商標登録満了日後6ヶ月以内に延滞料を納付するという前提条件下、更新登録申請ができるようになった。

(8) 商標の移転および相続
既存の商標法では同規定の不在により商標権を移転または相続する時に毎度新たな商標使用契約をし、これを登録簿に記録しなければならない不便があったが、改正法施行によりこのような不便が解消されると期待される。改正法は、商標権の移転または相続の前に成立した有効な商標使用契約の効力が譲受や相続により消滅しないという点を明示している。

(9) 音商標 (Sound Mark)
今般の改正法でよく知られた新規条項の1つとして音商標の保護が挙げられる。商品とサービス業が発音/称呼により識別可能であることによって多様な国家管轄権で保護を受けることとなった音商標は、商標法上、商標種類の1つとして位置づけられるようになった。したがって、改正法は、商品/サービス業に直接的な連関がない音の場合、識別力があるとみなし、音商標出願登録が可能になった。

(10) 再出願の禁止
 改正法は、商品の包装および包装紙を利用して消費者を誤認させるべく偽造する行為を禁じており、これに違反する時には禁錮4年またはTHB400,000以下の罰金刑に処される。今般新たに導入されたタイの改正商標法の承認および施行を通じてタイ内閣はマドリッド議定書(Madrid Protocol)加入推進に拍車をかけた。タイがマドリッド議定書加入国となる場合、タイの商標権者が1つの出願書をもって複数国の出願が可能になり、海外への直接出願より費用および時間を節減できるなど、多様な利点を享受できるとみられる。

 

改正事項 改正前 改正後
異議申立および意見提出通
知に対する答弁提出
90日 60日
登録料納付期限 90日 60日
分割譲渡 不可 可能
連合商標 同一な商標の多数登録の場合、連合商標として登録しなければならない 連合商標制度の廃止
商標使用契約 商標使用契約書上の条項により終結可否が相異 商標の移転または相続後にも商標使用契約は依然として有効
音商標登録 登録不可 指定商品またはサービスと直接的な関連性がない音の場合、音商標として登録可能
固有の識別力
(inherent distinctiveness)
- 特徴や商品/サービスの質と直接的な関連性がない造語、文字や図形の場合、固有の識別力があるとみなす
使用による識別力
(acquired distinctiveness)
- 固有の識別力がないとしてもタイにおける公衆の高い知名度により使用による識別力を獲得した場合、商標登録可能
多類出願 不可 可能
更新申請の猶予期間 不可 商標登録満了日後6ヶ月以内に20%の延滞料を納付する場合、更新登録申請可能
再出願 - 自己の商品包装時、公衆を糊塗するその包装材料に他人の商標を再使用または再出願できない
官納料 新規出願:THB500 (個当たり)
登録料:THB300 (個当たり)
更新料:THB1,000 (個当たり)
新規出願:
-THB1,000/個/類 (最大5個)
-THB9,000/類 (5個超過)
登録料:
-THB600/個/類 (最大5個)
-THB5,400/類 (5個超過)
更新料:
-THB2,000/個/類 (最大5個)
-THB18,000/類 (5個超過)

 

http://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=bde92a69-9690-4eb2-9cf1-e10ddabb2d6c
http://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=4abccb52-77f5-41d7-8fa5-19a48dc7f694
http://documents.lexology.com/c6d64ced-1a41-4236-ae7a-ab4192dc01de.pdf