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商標法に関するシンガポール条約による出願人の権利保護の強化
弁理士 柳汀玟


2016年7月1日から韓国にもシンガポール条約(STLT:Singapore Treaty on the Law of Trademarks)の効力が発生することとなった。シンガポール条約は、2006年にシンガポールで開催された「改正商標法条約を採択するための外交会議」の結果として4年間の商標法条約の検討を経て採択されたもので、シンガポール条約の主要内容は以下のとおりである。

1. 標章の種類

シンガポール条約は、商標に関する定義を広げて非典型商標である音・味商標のように視覚的に認識することができない商標も登録対象に含めている。ただし、会員国が必ずしもこれに拘束されるわけではない。

一方、韓国は2012年改正商標法を通じてシンガポール条約の内容および非視覚的商標が市場で識別標識として使用される時代的変化を反映するために、商標法第2条第1項第1号ハ目「音・匂いなど視覚的に認識することができないもののうち、記号・文字・図形またはその他の視覚的な方法により写実的に表現したもの」を新設したところ、条約の効力発生日の前から非典型商標の保護を図っている。ただし、非典型商標の視覚的な表現が不明な場合には、商標の定義の規定に違反して登録は許されない。

2. 手続的強制性の緩和

シンガポール条約は、手続を踏む過程で行われるコミュニケーションの形式ないし方式において自律性を付与しているところ、会員国は書面、電算、その他の如何なる方法によってもコミュニケーションが可能である。さらに、会員国は電子通信と関連したシステムを運営するか否か、および運営する場合にそのシステムを如何に運営するかを自ら決定することができる。

現在韓国は、特許庁との意思伝達手段として電子通信を通じた意思交換方式と書類を通じた意思交換方式の両方を採択している。

3. 手続上の救済措置

シンガポール条約は、出願人または権利者が手続と関連して、特許庁で規定している手続を逸した場合、それに対する救済措置を設けている。これは期間不遵守による不利益から出願人および権利者を保護するためのものであり、公衆の利益を害しない範囲内で各会員国が救済手続を設けるように強制している。救済手続の例としては、期間延長、手続の継続、一定要件下における権利回復などがある。

一方、韓国は、2013年改正法を通じて、シンガポール条約の内容を反映し、出願人の便宜を向上させるために商標法第23条第4項「第2項後段(拒絶理由通知による意見書提出期間)による期間内に意見書を提出しなかった出願人は、その期間の満了日から2ヶ月以内に商標に関する手続を継続して進行することを申請し、その期間内に拒絶理由に対する意見書を提出することができる。」を新設した。つまり、韓国は救済手続として手続の継続を申請する制度を採択しており、具体的にⅰ) 拒絶理由に対する意見書提出期間(商標法第23条第4項)、ⅱ) 商品分類転換登録申請の拒絶理由に対する意見書提出期間(商標法第46条の4第3項)、ⅲ) 指定商品追加登録出願の拒絶理由に対する意見書提出期間(商標法第48条第3項)が権利救済の対象となる期間に該当する。

4. シンガポール条約の効力に伴う変化

シンガポール条約の効力の発生に伴って、商標と関連した手続の厳格性は緩和され、出願人と権利者の保護は一層強化されると期待されている。ただし、商標法上の商標の範囲が広がることによって登録商標の独占排他権をどこまで認めるかなどの商標関連紛争が増加するおそれがあるという点、手続の緩和は、第三者に不測の損害が発生しない範囲内で行わなければならないという点などを考慮すると、依然としてその限界は存在するとみられる。

[シンガポール条約の会員国]

OAPI(アフリカ知的財産機関)、アルメニア、オーストラリア、オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、BOIP(ベネルクス知的財産庁)、ベナン、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、中国、コンゴ共和国、コスタリカ、クロアチア、チェコ共和国、北朝鮮、コンゴ民主共和国、デンマーク、ドミニカ共和国、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ガーナ、ギニア、ハイチ、ハンガリー、アイスランド、イラク、アイルランド、イタリア、日本、カザフスタン、ケニア、キルギスタン、ラトビア、レバノン、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マダガスカル、マリ、モーリタニア、メキシコ、モンゴル、オランダ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ポーランド、ポルトガル、韓国、モルドバ、ルーマニア、ロシア、セネガル、セルビア、シンガポール、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、タジキスタン、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、トーゴ、トルコ、ウクライナ、英国、米国、ウルグアイ、ウズベキスタン

[参考文献]


*http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2016/06/30/0200000000AKR20160630056800063.
HTML?input=1195m

*http://www.kipo.go.kr/kpo/user.tdf;jsessionid=9863ca6b30d6e9ab8b0ce4a44f85a8d1eb
1edcefeac2.www2?a=user.news.notice.BoardApp&board_id=notice&cp=1&pg=1&npp=10
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