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均等侵害の構成変更の容易性の判断時における出願以降の公知資料の参酌、および意識的除外の判断方法-大法院2022フ10210判決(2023.2.2.言渡)[権利範囲確認(特)][公2023上、549]
弁理士 趙慜耿

[事件の概要]

相手方(被告)は、特許審判院に特許権者(原告)を相手取って、実施製品が本事件特許発明の権利範囲に属しないとの消極的権利範囲確認審判を請求し、特許審判院は、被告の審判請求を認容する審決を下した。これに対して原告が特許法院に審決取消訴訟を提起して認容審決を受け、これに対して被告が大法院に上告した事件である。

[文言侵害および均等侵害の判断方法]

特許発明と対比される確認対象発明が特許発明の権利範囲に属するとするためには、特許発明の請求の範囲に記載された各構成要素と、その構成要素間の有機的結合関係が確認対象発明にそのまま含まれていなければならない。確認対象発明に特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち、変更された部分がある場合にも、特許発明と課題解決の原理が同一であり、特許発明と実質的に同一の作用効果を有し、そのように変更することがその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「通常の技術者」という。)であれば誰でも簡単に想到することができる程度であれば、特別な事情がない限り、確認対象発明は特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものであって、依然として特許発明の保護範囲に属するとみなければならない(大法院2012フ1132判決(2014.7.24.言渡)、大法院2017フ424判決(2019.1.31.言渡)など参照)。

[事実関係の整理]

本判決では以下のような2つが争点となった。

1. 名称を「C-アリールグルコシドSGLT2抑制剤」とする第1項は、下記のような化学式Iの構造を有する化合物、またはその製薬上許容される塩、または立体異性体である。

[化学式I]

下記の化学式で表される「ダパグリフロジン」は、前記化学式Iに含まれ、本事件審決時にこのような事実がよく知られていた。

これに対し、以下のような構造を有し、「ダパグリフロジンホルメート」という名称で通称される化合物である確認対象発明が第1項の権利範囲に属するか否かが問題となった。

2. 出願過程で第1項の「プロドラグエステル」を削除したことが意識的除外に該当するか否かが問題となった。

[法理の適用]

1. 「ダパグリフロジンを確認対象発明のダパグリフロジンホルメート形態に変更することが容易であるか否かは、

基本活性化合物のヒドロキシ基を対象として選んで化学的変形を通じてエステル形態のプロドラグを作ることはよく知られているプロドラグ設計方式であり、

確認対象発明でホルメートエステル構造が導入された位置であるグルコースの6番炭素原子に結合されたヒドロキシ基(1次アルコール)は、2乃至4番の炭素原子に結合されたヒドロキシ基(2次アルコール)より立体障害が少なく、プロモイエティ(promoiety)結合を通じた化学的変形が容易に行われ、エステラーゼ酵素の作用を受けて加水分解されることによって再び基本活性化合物であるダパグリフロジンに変換されるにもよい位置であるため、通常の技術者がこの位置をエステル化位置に選定してプロドラグ化することを容易に想到することができると認められる。

また、基本活性化合物の変形可能な作用基がヒドロキシ基である場合、カルボン酸をプロモイエティとして使用することもよく知られているプロドラグ設計方式であるが、確認対象発明でプロモイエティとして使用したギ酸は、カルボン酸の中でも最も簡単な化学構造を有し、体内安定性も、ある程度証明されているため、通常の技術者がヒドロキシ基を作用基として有する基本活性化合物であるダパグリフロジンをプロドラグとして開発するにあたって、プロモイエティとしてギ酸を選択することにも困難がないと認められる。

このような点を考慮すると、本事件審決時を基準に通常の技術者であれば、誰でも本事件第1項発明の「ダパグリフロジン」を医薬品として開発する過程で確認対象発明の「ダパグリフロジンホルメート」を主成分の探索対象に容易に含めてその物理化学的性質などを確認するとみられるため、通常の技術者が本事件第1項発明のダパグリフロジンを確認対象発明のダパグリフロジンホルメートに変更することは、公知技術から容易に想到することができる程度と認められる

2. 特許発明の出願過程で、ある構成が請求の範囲から意識的に除外されたものであるかは、明細書のみならず、出願から特許される時まで特許庁審査官が提示した見解および出願人が出願過程で提出した補正書および意見書などに示された出願人の意図、補正理由などを参酌して判断しなければならない。したがって、出願過程で請求の範囲の減縮が行われたという事情のみにより減縮前の構成と減縮後の構成を比較してその間に存在する全ての構成が請求の範囲から意識的に除外されたと断定するのではなく、拒絶理由通知に提示された先行技術を回避するための意図によりその先行技術に示された構成を排除する減縮をした場合などのように、補正理由を含んで出願過程に現れた多様な事情を総合してみると、出願人がある構成を権利範囲から除外しようとする意思が存在するとみることができる際にこれを認めることができる(大法院2001フ171判決(2002.9.6.言渡)、大法院2014フ638判決(2017.4.26.言渡)など参照)。

本事件特許発明の出願過程で出願人である原告が本事件第1項発明の請求の範囲の後部に記載されていた「プロドラグエステル」を削除する補正をしたとしても、本事件第1項発明の請求の範囲から確認対象発明のダパグリフロジンホルメートが意識的に除外されたとみることは難しい。

結局、確認対象発明は、本事件第1項発明とその従属項発明である本事件第3項乃至第8項および第14項発明と均等であり、その権利範囲に属すると判断した。

[判決の意義]

本判決は、均等侵害の該当有無の判断時、構成変更の容易性の判断時点に対して特許出願以降侵害時まで公知の資料を参酌することができることを表明した点と、意識的除外の判断時、補正理由を含んで出願過程で現れた多様な事情を総合して考慮する点を改めて確認することができたという点から意義がある。