ニュース&イベント

IPニュース

マーカッシュ(Markush)クレームにおける組成に関する記載が発明の説明中にない場合の審査拒絶時の対応方案
弁理士 申智慧

I. マーカッシュ(Markush)クレームの定義

マーカッシュクレームは、一部の構成要素が互いに類似する性質または機能を有する2以上の選択要素から択一的に選択されるものにより一つの請求項に記載する形式を意味し、主に化学物質分野発明の出願に活用されている。

II. マーカッシュクレームにおける選択要素に関する記載が発明の詳細な説明または実験例にない場合

マーカッシュクレームの場合、出願人が全ての選択要素を実施例として記載していない場合がある。この場合、記載不備が問題になることがあり、マーカッシュクレームの選択要素が実験例を除いた他の発明の説明に記載がない場合、および実験例がない場合に分けて考察する。

1. マーカッシュクレームにおける選択要素が実験例および他の発明の説明に記載がない場合

この場合、特許法第42条第3項第1号および第42条第4項第1号の拒絶理由通知を受けることがある。この場合、実験例および発明の説明に請求項にのみ記載された選択要素を追加したり削除する補正を行うことができる。選択要素を追加する補正は、出願書に最初に添付された明細書または図面の範囲内の補正であるところ、補正の範囲を満たす(2006フ2455判決)。

2. マーカッシュクレームにおける選択要素が実験例には記載があるが他の発明の説明には記載がない場合

この場合、上記1と同様に特許法第42条第3項第1号および第42条第4項第1号の拒絶理由通知を受けることがある。この場合、発明の説明に当該選択要素の記載を追加する補正または当該選択要素を請求項から削除する補正を行って克服することができる。

3. マーカッシュクレームにおける選択要素が発明の説明には記載があるが実験例には記載がない場合

(1) 審査基準の態度

特許審査基準では、請求項がマーカッシュ形式で記載されており、発明の説明には請求項に記載された選択要素のうちの一部の選択要素に関する実施例のみが記載されているだけであり、他の選択要素に対しては言及のみがあり、実施例が記載されておらず、平均的な技術者が容易に実施できる程度に記載されていないときには、特許法第42条第3項第1号違反であると指摘している(審査基準2309頁参照)。

(2) 出願人の対応

出願人に選択要素の全てを実験例として記載するようにすることは、出願人に過度な負担を負わせることになり得る。また、後の登録時に権利範囲の解釈において独立項の構成を実施例の範囲に限定解釈しないという判例の態度(2008フ934判決)にも符合しない。

したがって、審査過程において当該拒絶理由が指摘された場合、出願人は全ての選択要素の実験例を記載しなければならないということは不当であり、記載されていない選択要素も実施例と類似して有利な効果が現れるという点が当業者に自明であると主張して対応することができる。

ただし、再び同一の拒絶理由により拒絶決定を受けた場合には、当該構成要素を削除補正して再審査を受ける方案、または前記主張を維持しながら拒絶決定不服審判を行う方案がある。再審査と審判のうち、早期権利化のためには再審査が適切であるが、発明の範囲を考慮すれば、拒絶決定不服審判が適切であると出願人に案内して対応方案を模索することができる。

記載されていない選択要素の実験例を意見書に補充して出願明細書に記載された実験例と同一・類似の有利な効果が現れることを主張することを考慮してみることができる。しかし、追加実験例を採択するか否かは審査官の裁量であるため、採択されないこともあることを念頭に置かなければならない。

III. マーカッシュクレームの登録要件の判断基準および出願人の対応

マーカッシュクレームの場合、本稿で扱おうとする発明の詳細な説明に一部の選択構成が記載されていない場合ばかりでなく、新規性(第29条第1項各号)、進歩性(第29条第2項)、および特許の単一性(第45条)も審査過程中に指摘され得るところ、まず韓国特許庁の審査基準に基づいて当該登録要件を簡単に考察してみる。

1. 新規性および進歩性の判断基準(第29条第1項各号および第29条第2項)

韓国特許庁の審査基準によると、マーカッシュクレームの場合、その択一的構成要素のうちのいずれか一つを選択して引用発明と対比した結果、新規性または進歩性が認められなければ、その請求項の択一的構成要素の全てが新規性または進歩性がないと判断している。

2. 特許の単一性(第45条)

韓国特許庁の審査基準によると、択一的構成要素が「類似の性質または機能」を有する場合には単一性の要件を満たすとみなす。

3. 補正または訂正

マーカッシュクレームの場合、その択一的構成要素のうちのいずれか一つ以上を削除する補正、またはこれを再びそれぞれの請求項として新設する補正は、特別な事情がない限り、新規事項の追加といえず、適法な補正である(第47条第2項)。また、特許性に問題がない限り、マーカッシュクレームの択一的構成要素に対する分割出願(第52条)も可能である。

また、登録後でも訂正審判(第136条)または訂正請求(第133条の2)を通じてマーカッシュクレームの択一的構成要素のうちのいずれか一つ以上を削除することも可能である。

IV. その他の海外におけるマーカッシュクレームの論議

1. 欧州

欧州ではマーカッシュクレームに含まれるが具体的な実施例がない構成要素に対して存続期間延長登録(SPC要件Article 3(a))が認められるか否かが問題となった。判示の結果、マーカッシュ形式で請求項を作成し、具体的な選択要素を明細書や請求項に記載していないとの理由のみで存続期間延長登録の対象にならないわけではないが、出願日または優先日を基準として具体的な構成要素が技術的問題の解決に必要でないか、またはこれに基づいて当業者が製品を導き出し難い場合には、存続期間延長登録を主張することは困難であるという意見の予備判決が出された。

当該ケースの場合、登録過程でない登録後の権利範囲の問題ではあるが、欧州もマーカッシュ形式の請求項の全ての選択的要素の実験例が開示されなくてもよいという立場であると把握される。

2. 中国

中国ではマーカッシュクレームの無効審判中に選択要素の一部削除の許容可否が問題となった。これと関連して中国最高人民法院では選択要素の一部削除は、仮に保護範囲が狭くなり、社会公衆の利益を害しなくても、削除により保護範囲の判断において法的安定性を害し、社会に不測の損害を及ぼす虞があるため許容されないと判示しており、韓国とは多少異なる立場を取っている。

したがって、中国出願時にマーカッシュクレームを使用する場合、無効審判中に一部の選択要素の削除は制限的に許容されるところ、マーカッシュクレームの選択要素を分類して従属項として記載する方案などを考慮しなければならない。