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結合発明に対する欧州特許庁の進歩性判断基準(課題解決アプローチ)について
弁理士 申花瑛

結合発明とは、発明の技術的課題を達成するために先行技術に記載された技術的特徴を総合して新たな解決手段として構成した発明を意味する(韓国特許実用新案審査基準p.3324)。

結合発明の進歩性の判断において、欧州特許庁はEPC施行規則42条(1)項(c)号(欧州特許出願の発明の説明は、技術的問題とその解決手段が理解され得るように出願発明を開示しなければならない。)に基づき、課題解決アプローチ(欧州審査基準Part G, Chapter VII, 5.)により進歩性を判断する。

課題解決アプローチとは、

1) 出願発明と類似する用途を有し、出願発明に到達するために構造と機能の変更が最小限にとどまる技術である最も近接する先行技術を決定し、

2) 最も近接する先行技術と出願発明との差異点と、これから具現される技術的効果を考慮して解決すべき客観的技術課題を設定し、

3) 出願発明が最も近接する先行技術と客観的技術課題から技術者に自明であるか否かを考慮することを意味する。

自明性有無の判断は、「could-wouldアプローチ」(欧州審査基準Part G, Chapter VII, 5.3)に従い、could-wouldアプローチによると、進歩性の判断において事後的考察を防止するために、可能性でなく、当為性の観点から進歩性を判断する。具体的に技術者が最も近接する先行技術から出願発明に到達する可能性(could)の存否でなく、技術者が先行技術からこれを修正/変更して出願発明のようにしようとしたか(would)否かを考察することであり、欧州審査基準によると、客観的技術課題に当面した通常の技術者に最も近接する先行技術を修正または変更して出願発明の条件に符合することによって、その発明がなそうとすることを成就するようにする何らかの教示(teaching)があるか否かにより判断する(欧州審査基準Part G, Chapter VII, 5.3)。

欧州審査基準Part G, Chapter VII, 5.3に紹介されている課題解決アプローチが適用された代表的な事例(T 2/83、審決日:1984.3.15.)は次のとおりである。

(1) 対象出願の技術内容(対象出願:EP79105188.1)

請求項第1項:シメチコンおよび制酸剤を含有する錠剤であって、

前記シメチコンおよびシメチコン吸着物質から構成された固体担体を含有する第1体積部;

前記制酸剤を含有する第2体積部;を含み

前記第1および第2体積部のそれぞれは他の体積部から分離され、

前記シメチコンは前記錠剤の他の成分のうちの任意のものにより形成された任意のマトリックスの外部にあり、

シメチコンの消泡性と前記マトリックスの分解は関係がなく、

前記第1および第2体積部の間に前記第1体積部のシメチコンが第2体積部の制酸剤と接触しないように維持し、一つの体積部から他の体積部に成分の移動を防止するための遮断材を含む、錠剤。

(2) 先行技術の開示事項

①FR-A-2 077 913:胃腸薬がシリコンオイル(液体状態)および胃腸管で活性を有する成分を含有し、前記二つの成分は互いに異なる体積部で存在し、その間に遮断材が構成され得る(以下D1)。

②US-A-3 501 571:シメチコンを乳糖、ソルビトールまたは類似の物質に吸収させて作った粒子と制酸剤粒子とを圧縮して混合するか、層をなすようにした錠剤(以下D2)。

(3) 拒絶決定の理由

最も近接する先行技術であるD1は、胃腸薬がシリコンオイルと胃腸管で活性を有する成分とを含有し、その間に遮断材を有することができることを教示(teach)している。またD2は、シメチコンと制酸剤を含有する層を含むことができることを記載している。

シリコン物質の移動の問題は既に知られており、非互換性薬剤間の相互作用防止のために遮断材は当業界で一般に利用する構成である。すなわち、シメチコンと制酸剤の分離技術は公知のものであり、よく知られた問題を解決するために遮断材を使用することに顕著な効果があるといえない。

(4) 出願人の主張

D2に記載された重層の錠剤のように、シメチコンが吸収された充填材が制酸剤成分に隣接していると、シメチコンは充填材から制酸剤層に移動してシメチコンの放出が遅延または抑制されることから、薬剤技術分野では移動を抑制するためにシメチコンを適当な運搬体に入れる方式で対応してきた。ただし、このような場合、シリコンオイルが効果的に放出される前にマトリックスが崩壊するという問題点があった。

またD1はシリコンオイルを含むゼラチン障壁、すなわち、液体を入れる遮断材を開示しており、シリコン成分を吸収させた固体担体を含む本出願と技術思想が符合しない。

(5) EPOの判断

出願発明に関連した課題は、患者の胃で制酸剤の効果と共に膨満効果を改善させることであり、D1のように遮断材を利用して液体成分と固形の制酸剤を分離する技術は製造が難しいため回避され、シメチコンを制酸剤による移動と吸収を抑制する過度な運搬体と結合することがより選ばれていた。

本件出願により提示された層型錠剤の変更と関連して、進歩性と関連した問題は技術者が層の間に遮断材を挿入することができたか否かでなく、改善や長所を期待してそのようにしようとしたか否かにある。D2の錠剤は、商用化の観点においてシリコンオイルの移動の問題に対する満足するに値する対応であったため、遮断材の追加は不要であり、使いみちがなく、技術的効果を有さないものとみられたのであろう。結局、遮断材に実質的な効果があるという認識からみると、出願発明は進歩性がある。

上記で考察したとおり、課題解決アプローチによる欧州特許庁の進歩性の判断基準は、先行技術を先ず検討した後、最も近接する先行技術を基準として「could-wouldアプローチ」により結合の容易性を判断するという点から、結合発明の進歩性の判断において特有の課題解決原理に基づいて有機的に結合された全体としての構成の困難性、および発明が有する特有の効果などを考慮する韓国特許庁の進歩性の判断基準(審査基準p.3324)とは差異がある。