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均等侵害の判断方法-大法院2019ダ237302判決(2021.3.11.言渡)
弁理士 金スラ

[事件の概要]

特許権者(原告)は、特許権侵害訴訟の相手方(被告)の実施製品が本事件特許発明を侵害したと主張する特許権侵害訴訟を提起し、原審で被告が敗訴して大法院に上告した事件であって、均等侵害であるか否かが問題となった事件である。

本事件では被告の実施製品が本事件特許発明を侵害するか否かについて、次のような法理に基づいて判断する。

[侵害であるか否かの判断方法]

(1)  均等侵害の要件、およびその要件のうち、課題解決原理が同一であるか否か判断する方法

特許権侵害訴訟の相手方が製造する製品または使用する方法など(以下、「侵害製品など」という。)が特許権を侵害するとするためには、特許発明の請求の範囲に記載された各構成要素と、その構成要素間の有機的結合関係が侵害製品などにそのまま含まれていなければならない。侵害製品などに特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち、変更された部分がある場合にも特許発明と課題解決原理が同一であり、特許発明と実質的に同一の作用効果を示しそのように変更することがその発明が属する技術分野で通常の知識を有する者の誰もが容易に考え出すことができる程度であれば、特別な事情がない限り、侵害製品などは特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものであって、依然として特許権を侵害するとみなさなければならない。

ここで、侵害製品などと特許発明の課題解決原理が同一であるか否かを判断する際には、請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのでなく、特許発明に特有の解決手段が基礎としている技術思想の核心が何であるかを実質的に探求して判断しなければならない(大法院2017フ424判決(2019.1.31.言渡)、大法院2016フ2546判決(2020.4.29.言渡)など参照)。

(2) 特許発明の技術思想の核心が特許発明の出願当時に既に公知となっていたり、公知となっていたに他ならないものに過ぎない場合、作用効果が実質的に同一であるか否か判断する方法

作用効果が実質的に同一であるか否かは、先行技術において解決されなかった技術課題であって、特許発明が解決した課題を侵害製品なども解決するか否かを中心に判断しなければならない。したがって、発明の説明の記載と出願当時の公知技術などを参酌して把握される特許発明に特有の解決手段が基礎としている技術思想の核心が、侵害製品などにおいても具現されていれば、作用効果が実質的に同一であるとみなすことが原則である。しかし、上記のような技術思想の核心が特許発明の出願当時に既に公知となっていたり、公知となっていたに他ならないものに過ぎない場合には、このような技術思想の核心が特許発明に特有であるとみなすことができず、特許発明が先行技術において解決されなかった技術課題を解決したともいえない。このような時には、特許発明の技術思想の核心が侵害製品などにおいて具現されているか否かをもって作用効果が実質的に同一であるか否かを判断することはできず、均等か否かが問題となる構成要素の個別的機能や役割などを比較して判断しなければならない(大法院2018ダ267252判決(2019.1.31.言渡)、大法院2015フ2327判決(2019.2.14.言渡)など参照)。

[事実関係の整理および法理適用]

(1) 事実関係の整理

本事件特許発明(特許番号省略)は「調理容器用着脱式取っ手」という名称の発明であり、簡単な操作により各種調理容器に分離、結合を可能にした取っ手に関するものである。

  本事件特許発明 侵害判断の可能性
構成1 ロータリー式作動部を操作してスライディング板を前・後方に移動させる技術思想

X

(本事件特許発明の出願当時に公開されていた構成であって、技術思想の核心が本事件特許発明に特有であるといえない。)

構成2  上面に形成されたボタンを通じて押圧部材またはピン部材を上下流動させてスライディング板の前・後方移動を制御し、ミスによるボタン加圧を防止する技術思想

構成3

(差異点1) 

支持片が縦方向案内穴に挿入されて円弧型ホールに沿って回転しつつスライディング板の前・後方移動を可能にする構成 O

構成4

(差異点2)

上・下部部材およびスライディング板を貫通して設置されたピン部材が上・下相対位置によりスライディング板の前・後方移動を制御し、第2弾性スプリングがピン部材の上・下流動を弾性的に支持する構成 O

本事件特許発明は、構成1、2、3、および4を含む。

構成1および2は、本事件特許発明の出願当時に公開されていた構成であって、上記技術思想が本事件特許発明に特有であるとみなすことができず、先行技術において解決されなかった技術課題を解決したということもできないため、作用効果が実質的に同一であるか否かは、上記技術思想を具現するか否かを基準とすることはできず、構成3(差異点1)および構成4(差異点2)の各対応構成要素の個別的な機能や役割などを比較して決定しなければならない。すなわち、構成1および2は、侵害判断の基準にはなり得ない。

したがって、以下で構成3(差異点1)および構成4(差異点2)により侵害が成立するか否かについて判断する。

(2) 法理適用-均等侵害の成否

まず、差異点2をみると、本事件第1項発明は「上・下部部材およびスライディング板を貫通して設置されたピン部材」によりロータリー式作動部を回転させても、ピン部材が解除されない限り、取っ手が調理容器から分離されない反面、第2被告実施製品は、係止片がスライディング片から上部に傾斜して折り曲げられて一体に形成されているため、取っ手を付着するときの反対方向にレバーを回転させるだけでもレバーと弧形牽引ロッドで連結されているスライド片が前進して、係止片が上部部材内面に形成されたストッパーに係止されることによって取っ手と調理用具が若干分離されてから、この状態でレバー中央に設置されたボタンを押して直接係止片を押すと、係止片がストッパーから解除されて完全分離状態に至るという点において作用効果に差異がある

また、本事件第1項発明のピン部材が別途の弾性部材である第2弾性スプリングにより支持されて上・下流動する反面、第2被告実施製品の係止片はそれ自体が弾性を有するが、ピン部材を係止片に変更する場合、本事件第1項発明のボタンとスライド片の相対的な移動関係のみならず、連結構成の配列関係を大幅に変更しなければならず、本事件第1項発明にはピン部材を係止片に変更する暗示と動機が提示されてもいない。このような点から本事件第1項発明の「ピン部材と第2弾性スプリング」の構成を第2被告実施製品の「係止片」に容易に変更できるとみなし難い。

したがって、第2被告実施製品は、本事件第1項発明の「ピン部材」および「第2弾性スプリング」と均等な要素を含んでいないため、本事件第1項発明を侵害するといえない。

[判決の意義]

本事件特許発明の構成のうち、出願当時に公知となっていた構成は、侵害判断の基準になる特有の構成となり得ず、均等であるか否かが問題となる構成要素の個別的機能と効果などを比較して侵害の成否を判断しなければならない。