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欧州特許出願とドイツ特許単独出願の実益について
弁理士 崔相國

1. 欧州特許出願方法

(1) 欧州特許(European Patent)制度

欧州で特許として出願および権利確保するためには多様な方法を活用することができる。まず欧州特許条約(以下、EPCという。)により協議された全ての国に特許を許与する権限を有する政府間組織である欧州特許庁(以下、EPOという。)に対する一つの出願を通じて多数の欧州国で効力を有することができる特許登録を獲得する方法がある(欧州特許制度)。

EPOにより特許が許与されると、出願人は当該許与された特許が効力を有することを望む国を選択することができる。これによって選択された国に対して独立的な国別権利の集合を獲得することができ、権利付与後の有効性および侵害などに関する事項は当該国の法律に従うようになる。

EPCに基づいて出願から審査および決定などは全てEPOを通じて行われるが、各指定国別に効力を有する個別の特許権となる。即ち、出願人は一つの出願書をEPOに提出し、統一された審査手続を経て特許決定を受けた時、加盟国に別途の翻訳文提出および手数料を納付してこそ個別国の特許権獲得が可能となる。現在EPCの加盟国は、欧州連合(EU)の加盟国とトルコ、スイスなど非加盟国を含む全38ヶ国からなっており、追加的に指定が可能なモロッコ、モルドバなどの国を含み全42ヶ国がEPCに参加している。

(2) 個別国出願(PCT国内段階移行を含む)

また、保護を受けようとする各国の特許庁に別途の特許出願書を個別的に提出することによって、欧州における特許を獲得することも可能である。EPOでは欧州特許出願を先行出願から優先権を主張する直接的な出願、またはPCT出願に基づく国内段階移行の出願として提出することができる。

殆どの国において個別国出願は、PCT出願に基づく国内段階移行として提出することができるが、一部の国(特にフランスとオランダ)ではPCT出願に基づく特許出願が不可能であり、必ずEPO経路を通じて出願しなければならない。

2. 欧州特許制度を利用した出願の実益

欧州特許制度を利用した出願はEPOに一つの出願書のみを提出すればよく、EPOで審査を通過すれば全ての加盟国で特許決定されたものと同じ効果がある。即ち、EPOで登録決定を受けた後に効力が発生することを望む個別国に翻訳文を提出した上で、年次料を納付すれば十分である。

出願書を提出して手続審査を通過すれば、特許性に対する判断を含む「サーチリポート」が発行され、特許公開となる。審査料を納付すると実体審査が行われ、ここでOAを克服すれば、特許決定および特許公告が行われる。特許決定を受けると個別国に「validation」という有効化過程を経るようになり、翻訳文を提出した上で、年次料を納付すればよい。

欧州特許出願の場合、3年次から毎年出願日に出願維持料を納付し、登録されれば、各指定国に毎年登録維持料を納付しなければならない。したがって、EPOで特許決定を受けたとしても、多数の国に対して有効化を図る場合、莫大な翻訳費と年次料を負担することとなる。

審査段階以降、特許権を行使するための登録と訴訟は個別国で行われる。特許無効や侵害に関する紛争が発生した場合、個別国の裁判所で争うこととなり、そのため、訴訟費用の増加および訴訟結果の非一貫性が問題となる。

3. 個別国(ex. ドイツ)出願の実益

欧州全体をカバーする目的でない場合、EPOを通じた出願よりは個別国出願がよりよい選択となることがある。ドイツ出願の場合、費用の面で欧州特許制度を利用した出願の約1/4に過ぎず、約7ヶ月以内に審査結果を受け取ることができる(欧州特許制度を利用した出願の場合は平均約5年所要)。

また、翻訳文の提出時点を出願後12ヶ月まで遅らせることによって所要費用の50%以上を占める翻訳料支出を登録確定時まで遅らせ、出願費用を大幅に下げることができる。欧州においてドイツが占める地位は相当なものであるため、費用に比べて最適の効果を得ることができる。

4. 欧州特許出願の戦略

欧州では欧州特許制度、および各国個別出願の2つの出願方法が存在するため、出願戦略において、目的に応じた方法を選択する必要がある。欧州特許制度の場合、各国言語への翻訳費用が必要である(13ヶ国登録時、平均翻訳費用は約14,000EUR).。欧州特許制度は各国特許庁で別途の有効化手続を踏まなければならない。特許維持料は10年次が約29,500EUR、20年間約159,000EURを要する。

一方、ドイツ単独出願の場合、出願料および特許維持料は下図のとおりである(現地代理人費用は除く。単位:EUR)。

(出:IP Guidebook(ドイツ編)-2014年)