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新規性および進歩性判断時における第2相臨床試験計画の公開本の先行発明の適格と認定範囲-特許法院2019ホ4147判決(2020.2.7.言渡)【拒絶決定(特)】
弁理士 李惠珍

1. 事件の概要

[争点]

米国食品医薬品局(FDA)の臨床情報公開ウェブサイトに掲載された「第2相臨床試験計画の公開本」が本事件の出願発明に対する新規性および進歩性判断の基礎となる先行発明として適格を有するか否かが争点となった。また、「第2相臨床試験計画の公開本」が先行発明として認められる範囲についても争点となった。

2. 特許法院の判断

特許審判院は、本事件特許発明に対する拒絶決定不服審判に対して審理した結果、本事件特許発明が先行発明(「第2相臨床試験計画の公開本」)に記載された発明と実質的に同一であるため、新規性および進歩性が否定されることを根拠として棄却審決した。

しかし、特許法院は、本事件審決は違法であり、その取消を求める原告の請求は理由あると判決した。

イ.第2相臨床試験計画の公開本の先行発明の適格

特許法院は、次のような理由により「第2相臨床試験計画の公開本」が新規性および進歩性の判断のための対比対象になり得る先行発明に該当すると判断した。

1) 特許法第29条第1項第2号により、特許出願前(または優先権主張日前)に国内または国外で電気通信回線を通じて公衆が利用可能となった発明であれば先行発明に該当する。

2) 未完成発明であるとしても、通常の技術者が技術常識または経験則により容易に技術内容を把握することができる範囲内においては先行発明になり得る(大法院2004フ2307判決(2006.3.24.言渡)など参照)。

3) 上記1)によると、「HER2-陽性乳がん患者におけるハーセプチンおよび化学療法と併用するペルツズマブに関する研究」という名称の第2相臨床試験計画の公開本は、本事件出願発明の優先権主張日前に国外で電気通信回線を通じて公衆が利用可能となった発明であるため、特許法第29条第1項第2号により先行発明に該当する。

しかし、「第2相臨床試験計画の公開本」は、初期段階のHER2-陽性乳がん患者におけるドセタキセルおよびカルボプラチンと共に6周期のペルツズマブとハーセプチン併用療法を実施する場合の耐薬性、安全性および効能を評価するためのものであって、実施予定である臨床試験規模と投薬計画などに過ぎず、その投与結果に関して具体的に記載されていない。

しかし、薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明は、その出願前に薬理機序が明確になった場合のような特別な事情がない限り、特定の物質に薬理効果があるということを薬理データなどが示された試験例として記載したり、これに代えることができる程度に具体的に記載してこそ、完成された発明として認定され、明細書記載要件を充足したとみることができると判示した(大法院2001フ65判決(2001.11.30.言渡)参照)。

上記判示内容に基づくと、先行発明である「第2相臨床試験計画の公開本」は、初期段階のHER2-陽性乳がん患者におけるネオアジュバント治療療法という医薬用途発明として薬理効果を確認できる程度に具体的に記載されていないため、未完成発明に該当する。

しかし、上記2)によると、未完成発明であるとしても、通常の技術者が技術常識や経験則により容易に技術内容を把握することができる範囲内においては先行発明として認められ得る。

4) 通常、第1相臨床試験は、新薬の安全性の検討を目的としており、ただし、細胞毒性を示す抗がん剤の場合、最大耐薬量および有効性の可能性まで打診する。安全性および有効性を確認する第2相臨床試験は、新薬の薬理効果の確認、適正用量、用法決定を目的とする。

5) 米国食品医薬局(FDA)指針書によると、ある薬物の安全性および有効性が既に確認されたとすれば、同一のがんに対して安全性および有効性が既に確認された他の製品と併用投与されるとき、第2相臨床試験の結果のみにより併用療法に対する許可を受ける資料として十分であり得る。

上記指針書内容に基づくと、本事件出願発明の優先権主張日前に抗がん剤として広く使用されてきた「トラスツズマブ、ドセタキセル、カルボプラチン」は、安全性および有効性が既に確認された個別の抗がん剤であり、これらを組み合わせて併用療法として品目許可を受けるためには「第2相臨床試験」のみにより十分であり得る。

しかし、上記のような事実が当該技術分野で広く知られているという点を考慮すると、本事件の「第2相臨床試験計画の公開本」に接した通常の技術者は、それぞれの安全性および有効性が既に確認された4種の個別の抗がん剤(ハーセプチン、ドセタキセル、カルボプラチン、ペルツズマブ)を組み合わせてネオアジュバント療法で投与する場合、その併用療法の効果確認は、第2相臨床試験を通じてなされ、第2相臨床試験が今後進行される予定であるという点を認識することができる。

したがって、かかる技術範囲内においては先行発明になり得る。

ロ.通常の技術者の技術水準

薬学または医薬関連分野の修士学位所持者であって、抗がん剤関連研究分野で3年程度従事した者を基準とする(当事者間に争いがない)。

ハ.第1項の新規性判断

[先行発明との構成対比]

構成要素

本事件請求項1

(優先権主張日:2011年10月14日)

先行発明

(2009年11月16日にFDA公開ウェブサイトに掲載された第2相臨床試験計画の公開本)

1

ペルツズマブ、トラスツズマブおよびカルボプラチン-基盤の化学療法を含み、このとき、カルボプラチン-基盤の化学療法はドセタキセルおよびカルボプラチンを含む

手術前の患者に無作為にドセタキセルおよびカルボプラチンと共に6周期のペルツズマブ+ハーセプチン(トラスツズマブ)を投与

2

患者の初期HER2-陽性乳がんのネオアジュバント(neoadjuvant)療法で使用するための製薬調合物 

本研究は、初期段階のHER2-陽性乳がん患者におけるネオアジュバント治療療法の耐薬性、安全性および効能を評価するためのもの

上記表において本事件請求項第1項の「構成要素1」は、製薬調合物の有効成分を限定したものであって、4種(ペルツズマブ、トラスツズマブ、ドセタキセル、カルボプラチン)の薬物の調合物であり、先行発明でも同一の4種(ペルツズマブ、ハーセプチン、ドセタキセル、カルボプラチン)の薬物の調合物を開示しているため、両発明の対応構成要素は実質的に同一である。

また、「構成要素2」は、製薬調合物の医薬用途を限定したものであって、「初期HER2-陽性乳がんのネオアジュバント療法」である。先行発明には研究目的として「初期段階のHER2-陽性乳がん患者におけるネオアジュバント治療療法の耐薬性、安全性および効能を評価するためのもの」であると記載されている。医薬用途と関連して、かかる記載は医薬用途に効果があるのかを将来確認するということに過ぎず、通常の技術者が医薬用途と関連した薬理効果を客観的に確認することができる程度に具体的に開示しているとはいえない。

したがって、先行発明には、請求項1の医薬用途が具体的に記載されていないという点において差異が認められるため、請求項1は先行発明により新規性が否定されない。

ニ.第1項の進歩性判断

先行発明の「第2相臨床試験計画の公開本」は、4種の抗がん剤の組み合わせにより第2相臨床試験の実施を今後計画するというものに過ぎず、薬理効果に対して具体的に確認されたものではない。

通常の技術者の側面において、互いに異なる2種の薬物が同時に投与されるとき、薬理効果が上昇するか否かは容易に予測し難い。したがって、先行発明が4種の抗がん剤の組み合わせにより第2相臨床試験の実施計画を開示しているとしても、この記載のみから本事件請求項1に記載された医薬用途(構成要素2)に如何なる薬理効果があるのかは容易に予測し難い。

一方、本事件出願発明の明細書には、請求項1の発明に記載された医薬用途の薬理効果を立証するために、請求項1に記載された併用療法以外にも他の組み合わせの併用療法を実施し、これによる薬理効果を具体的に記載しており、これによって請求項1に記載された併用療法に対する薬理効果が最も優れていることを示している。したがって、本事件請求項1は、先行発明から予測できない顕著なものであって、進歩性が否定されない。

3.  本判決の意義

本判決は、「第2相臨床試験計画の公開本」が、医薬用途の観点において薬効を具体的に記載しておらず、未完成発明に該当するとしても、通常の技術者が把握できる範囲内においては新規性および進歩性の判断のための先行発明として認めた点において意味のある判決である。

しかし、先行発明である「第2相臨床試験計画の公開本」が、本事件出願発明と実質的に同一な4種の有効成分の組み合わせにより第2相臨床試験を実施する予定であることを記載したとしても、通常の技術者の技術常識や経験則を考慮すると、上記記載のみにより4種の有効成分が如何なる薬理効果を有するのか容易に予測できないとし、「第2相臨床試験計画の公開本」に対して先行発明の適格を認めながらも、その認定範囲においては「第2相の臨床試験」と区別して制限的に解釈している点から意味のある判決である。