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USPTO v. Booking.com B.V 事件(米国最高裁判決)の示唆点
ニュージーランド弁護士 金叡娜

USPTO v. Booking.com B.V1事件(米国最高裁判決)の示唆点

一般用語(generic term)標章が商標登録を受けることができないことはあまりにも当然なことである。なぜなら、商標の主要機能の一つは出所表示であって、一般用語は出所識別が不可能であり、識別力を獲得することができないためである。したがって、何人も使用できるようにすべき一般用語、業界で通常的に使用される慣用的表現などに対して特定人に独占を許容することは不適切であるため、一般用語は商標となり得ない。そうであるならば、一般用語がドメイン名の一部であれば、登録を受けることができるのかに対する疑問点を解消する米国最高裁判決を紹介する。

最近、普通名詞「booking(予約)」と一般最上位ドメインである「.com」を組み合わせた標章の場合、使用による識別力(secondary meaning)を獲得したため、記述的標章(descriptive mark)であり、商標として保護を受けることができるという融通性を付与した米国最高裁判決が下されて話題となっている。

オンライン旅行サービスウェブサイトであるBooking.com社は、2006年に「Booking.com」を含む商標4件を出願したが、米国特許商標庁(以下、「USPTO」という。)は、「Booking.com」が登録を受けようとするサービスに対して、普通名称に該当し、Goodyear’s India Rubber Glove Mfg. Co. v. Goodyear Rubber Co.2判決を引用して、「Co.」 や「Inc.」など法人を示す接尾辞を追加したものでは保護を受けることができる商標の範囲内に属しないため、「Booking.com」は一般用語である「booking」と差がないと判断して、これを登録拒絶した。米国商標審判部(以下、「TTAB」という。)も「Booking.com」が記述的標章であるとしても使用による識別力(secondary meaning)が不足するため、登録を受けることができないとした。

これに対してBooking.com側は連邦地方裁判所に提訴し、地方裁判所は消費者が「Booking.com」を一般用語ではないとみなした証拠3を引用し、識別力獲得による商標登録が可能な記述的標章であると判断し、第4巡回抗訴裁判所はこれを認容し4、これに対してUSPTOは連邦最高裁に上告した。

連邦最高裁は、Booking.comが普通名称か否かを判断できる3つの基準を次のとおり提示した。

第一に、普通名称は商品/サービスの種類(class)を意味し、その種類の特徴(feature)や例示(exemplification)を意味しない5

第二に、複合語(compound term)の場合、商標の識別力を判断するためには当該用語の一部分のみを孤立的にみるのではなく、全体として考慮しなければならない。

第三に、関連した用語の意味は消費者が認識する(consumer conception)意味である。

連邦最高裁は、消費者がBooking.comという複合語を全体的にみるとき、その指定サービス「オンラインホテル予約サービス(online hotel-reservation services)」の属(genus)6名称と認識しないため、絶対的に識別力がない一般用語ではないと判断し、使用により識別力を獲得する場合、商標登録を受けることができる記述的標章であると認めた。

種-属テストに対する例示をより詳細に考察すると、連邦巡回裁判所がスペイン語でステーキ(steak)を意味する「Churrascos」という単語をステーキ専門チェーンレストランの商標として登録を受けることができないと判示したIn re Cordua Rests., Inc., 823 F. 3d 594 (Fed. Cir. 2016)事件が挙げられる。「Churrascos」は、ステーキを販売するレストラン(restaurants)の属(genus)として認識されるためであるという理由からだ。

また、普通名詞「Booking」に「.com」を追加したものは、普通名詞の組み合わせであるというUSPTOの主張を受け入れず、Goodyear Rubber判決と本事件とは次のような理由で異なると判断した。

「generic.com(普通名詞.com)」ウェブサイトの場合、実際に商品の出所表示機能を遂行する役割を果たす。つまり、「.com」の使用が特定のビジネスおよび独占オンラインアドレスを指称することができるのに対し、「Company」または「Inc.」はそうでないということである。つまり、USPTOの「.com」は「company」のような一般用語であり、一般用語に「.com」を追加すると、商標として保護を受けることができないとの主張を受け入れず、「generic.com」が登録を受けることができるか否かは、消費者がこれを普通名称として認識するのか、或いは特定会社の商標またはサービス標として認識するのかにより異なるとした。言い換えれば、普通名称商標の判断時の主な基準は、消費者の認識(consumer conception)であり、消費者が普通名詞.comを普通名称として認識しない場合には、普通名称商標に該当しないということである。

本事件の場合、消費者がBooking.comを普通名称として認識せず、ブランドとして認識するという点を強調するために、Booking.com側はマーケティング投資、高い売上高、広範囲の使用、および全世界的によく知られたこれらの周知著名性を反映する膨大な量の証拠資料を集めて提出し、これによって連邦最高裁は、これらの使用による識別力(acquired distinctiveness)の獲得を認めた。Booking.comが提出した証拠資料のうち、特に消費者認知に対するテフロン(Teflon)アンケート調査7の結果がBooking.comをオンラインホテル予約サービスに対する商標として登録を受けることに多大に寄与した。連邦最高裁は、テフロン(Teflon)アンケート調査を通じて74.8%の参加者がBooking.comをブランド名として認識した結果を大幅に反映して、ブランドとして認識されていると判断した。

同時に、本事件において過去にUSPTOが登録決定したART.COM、DATING.COMなどと一貫性のない原則を適用するとしたら、前述の既存の登録商標は取消されるべきリスクがあると言及した。

「Booking.com」の商標登録の許容が一般的な用語を特定人にのみ独占許容することとなって、同種の競争者が「booking.com」を含むドメイン名を使用することを阻害する影響を招き得るため不適切であるというUSPTOの主張に対しては、これは本事件に限定されずに全ての記述的標章にも伴われる事項であり、消費者に混同を招かない以上、商標権侵害に該当しないため、問題とならないと判断した。

この判例は、一般用語と.comの組み合わせが必ずしも一般用語標章に帰結されるのではなく、全体としてみるとき、消費者がこれを一般用語として認識せず、出所表示として認識するという十分な証拠が裏付けられれば、 「generic.com」も登録の余地があることを示唆しつつ、Booking.comのように普通名詞が組み合わされたブランドのオーナーにそのブランドおよび商標保護に肯定的な方向を提示している。

ただし、上記で言及したように、「generic.com」の商標登録の可能性を高めるためには、使用による識別力(acquired distinctiveness)、または二次的な意味の識別力(secondary meaning)を獲得した点を裏付ける証拠がカギとなり、忍耐強く持続的に、直接証拠(direct evidence)としてはサーベイ証拠、消費者の直接証言などを、状況証拠(circumstantial evidence)としてはgeneric.comをウェブサイトではなく、商標として使用した証拠、TMマーク表示使用、商標使用を通じて得た売上、広告支出費などに対する証拠データベースを構築することが相当な助けとなるだろう。

 


[1] United States PTO v. Booking.com B.V., 2020 WL 3518365 (2020).

[2] Goodyear’s India Rubber Glove Mfg. Co. v. Goodyear Rubber Co., 128 U.S. 598 (1888).

[3] Booking.comが提出した市場調査結果として、後述するテフロンフォームのアンケート調査結果によると、参加者の10人中約7人は「Booking.com」を一般用語ではなく、商標として認識した。

[4] Booking.com B.V. v. United States Patent and Trademark Office, 915 F.3d 171, 184 (4th Cir., 2019).

[5] Princeton Vanguard, LLC v. Frito-Lay North America, Inc., 786 F.3d 960 (Fed. Cir. 2015). 普通名称であるか否かを判断するためには、「2段階テスト」を行わなければならず、第一に、商標登録を受けようとする商品の属(genus)が何であるか、第二に、登録を受けようとする単語を消費者が1次的にその商品の属として認識するか否かである。

[6] 米国最高裁は、Park ‘N Fly, Inc. v. Dollar Park and Fly, Inc., 469 U.S. 189, 194 (1985)事件において特定の商品が種(species)であるとき、当該商標が属(genus)を指せば一般用語であるとした。

[7] テフロンアンケート調査は、1975マーケットサーベイの名前から名付けた調査類型の一つであり、米国の多国籍化学企業であるデュポン(DuPont de Numours)社が法的紛争においてマーケットサーベイを通じてTeflonがブランドであることを成功的に立証した。Booking.comは同じ方法に従った。