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人工知能発明と特許
弁理士 李元日

最近、人工知能(artificial intelligence、AI)技術は、理論的かつ学問的な研究から抜け出して産業および商業的製品に適用されており、それに伴い、人工知能関連特許出願も急速に増加している。WIPO(World Intellectual Property Organization)の2019技術動向報告書によると、ディープラーニング(deep learning)分野の特許出願は2013年から2016年の間に年平均175%の成長を示し、神経網(neural network)分野の特許出願は同期間に46%増加するなど、マシンラーニング(machine learning)技術の特許出願が急成長している。また、イメージ認識(image recognition)を含むコンピュータビジョン(computer vision)や、ロボットと制御技術のための人工知能分野でも特許出願の増加が目立っている。それに伴い、KIPO(Korean Intellectual Property Office)をはじめとして、USPTO(United States Patent and Trademark Office)、EPO(European Patent Office)、JPO(Japan Patent Office)など、世界各国の特許庁でも人工知能関連の特許出願に対する審査政策を樹立するための動きが活発になってきている。

USPTOは、人工知能技術と特許政策に関する質問を含む「Request for Comments on Patenting Artificial Intelligence Inventions (Federal Register Vol. 84, No. 166, August 27, 2019)」を発刊して、これら質問に対する見解を企業、学界、他国特許関連機関などに要請したところ、このうちいくつかの機関から注目に値する見解を得た。そのうちから選別して簡略に紹介する。

人工知能発明特許に関する質問

1. 人工知能を使用する発明と人工知能により開発された発明を普通「人工知能発明」という。人工知能発明の構成要素は何か?

IBMの見解によると、人工知能という用語が広範囲な技術を含むために使用されるため、人工知能に対して単一の定義を下すことには同意せず、人工知能は学習(learn)する能力があるため、より多くのデータに露出されるほどに結果が向上することがコンピュータ科学の他の領域と差別化される点とみている。また、解決すべき問題(problem to be addressed)、人工知能が訓練され、動作するデータベースの構造、データに対するモデルに対した訓練、モデルそのもの、人工知能アルゴリズムそのもの、自動化されたプロセスを通じた人工知能発明の結果または洞察、データに適用されるものの、このような結果または洞察に影響を与える政策/加重値、およびその他広範囲な要素が人工知能発明の構成要素に該当し得るとみている。また、NSIP Lawは、人工知能の分野が広範囲であることを指摘し、USPTOが人工知能発明の「構成要素」に対してあらゆる一般化した定義を導入することは不適切であり、他の技術分野と同様の方式で構成要素の特定が行われなければならないという趣旨である。一方、JPOは、人工知能発明を「人工知能コア発明(AI core inventions)」、および「人工知能応用発明(AI-applied inventions)」に区分して当該区分に応じた構成要素を例示し、IPO(Intellectual Property Owners Association)は、人工知能発明を「コア人工知能発明(Core AI inventions)」、「応用特定人工知能発明(Application Specific AI inventions)」、および「人工知能生成発明(AI generated inventions)」に区分して当該区分に応じた構成要素を例示した。

2. 自然人が人工知能発明の着想に寄与して発明者として記載され得る他の方式があるか?

IEEE-USAは、自然人が人工知能発明の着想に寄与できる方式は、自然人がコンピュータで具現される技術または他の広範囲に適用可能な具現技術で発明の着想に寄与できる方式と同一または類似するとみており、特定の問題を人工知能ソリューションで公式化したり、人工知能データ訓練のためにフィーチャ(feature)を固有に選択する(データセットを獲得したりフィルタリングすることを含む)開発者は発明者として記載され得るが、人工知能システムを構築してテストする「人工知能技術者(AI technicians)」のように、単にアルゴリズムおよびデータが提供されるシステムでデータに対して人工知能アルゴリズムを実行し、結果を得ることに過ぎない場合には、発明の着想に寄与したとみることは難しいという見解である。

3. 自然人以外の個体(entity)が発明の着想に寄与した発明を考慮するために、発明者要件(inventorship)に関する現在の特許法および規定を改正すべきか?

EPOは、自然人のみが発明者になり得るという原則を検討するためには、社会に利益を与える独創的な貢献を補償するために、自然人に特許権が付与されるという特許システムの役割に対して政策討論が必要な問題とみている。IBMは、現在人間の助けなしに思考することができる人工知能マシンまではほど遠く、現在の人工知能マシンは人間の努力を支援し、改善するためのツールに過ぎないという立場である。つまり、最も知能的な機械であるとしても、数多くのパラメータ間の関係を見出すことはできるが、このような関係の価値を独立的に認識することは難しいため、知能的機械は独立的に発明するよりは人間を補助するツールとして残っているとした上で、人工知能による発明を否定している。また、このように真の自律性が欠如した機械が法的に発明者として認められるようになれば、多くの実用的かつ倫理的な問題が発生し、このような問題は軽く扱えない問題であるという見解である。したがって、発明者要件に関する現在の特許法および規定の改正は至急ではないとみている。

4. 自然人以外の個体が人工知能発明に対する特許権を所有できるか?

IBMは、機械は人間により所有される財産であるため、機械が発明することができるという観点であるとしても、これら発明およびこれに対する特許は、機械を所有する人間が所有するものとみている。一方、人工知能が発明した発明に対してはプログラマーまたは訓練者(trainer)が所有権を有することができるという一部の見解に対して、これら当事者間の問題は、雇用状態や契約内容により決定されるという見解である。したがって、自然人以外の個体が人工知能発明に対する特許権を所有することができないという立場である。

5. 人工知能発明に固有の特許適格(patent eligibility)に対する考慮事項があるか?

NSIP Lawは、人工知能発明も、技術的問題を解決したり技術的向上または恩恵を提供する技術的改善と関連して、特許適格が他の技術に適用される方式と類似するように考慮されなければならないという見解であり、人工知能マシンの訓練または訓練方法は、訓練を可能にする固有の訓練データを選択したり生成することが発明的側面(inventive aspect)に該当し得るため、具現される人工知能マシンまたは方法に対する「製造方法(method of manufacture)」としてみなされ得るとみている。IBMも、大部分の人工知能発明はコンピュータで具現された発明の範疇に属するため、コンピュータで具現された発明に対する特許適格に対する内容が全ての人工知能発明に適用され得るという見解である。

6. 人工知能発明に固有の開示関連(disclosure-related)の考慮事項があるか?

IBMは、人工知能発明は入力と出力が発明者により開示され得るとしても、これらの間のロジック(logic)は一部の側面で知られていないため、完全な開示が難しいこともあるという点を指摘した。実際に、同一のマシンに同一のデータセットを入力するとしても、常時同一のソリューションが出力されるわけではない。これは人工知能アルゴリズムの固有の無作為性(randomness)と関連する。したがって、このようなブラックボックス(black box)で発明が作られ、動作する場合には、発明者が人工知能が最終結果を如何に達成するのかに対して正確に理解することが難しいこともあり得、結局、特許保護を確保するのに十分な開示を提供することが難しいこともあり得る。これと関連してJPOは、人工知能関連発明に対する詳細な説明の記載要件(written description requirement)が満たされたか否かを判断するために必要な審査指針を提供しているが、これによると、(1)一般的な技術的知識の観点で多くのデータ類型間の相関関係(correlation)、(2)多くのデータ類型間の相関関係を支持する説明または統計情報、および(3)多くのデータ類型間の相関関係を支持する、人工知能モデルを用いた性能評価などが記載された場合、詳細な説明の記載要件が満たされたとみることができるとしている。

7. 人工知能発明に対する特許出願が、特に特定のAIシステムの予測不可能性(degree of unpredictability)を考慮するとき、実施可能記載要件(enablement requirement)を最もよく遵守できる方法は何か?

EPOは、発明が人工知能構造(AI structure)に関するものであれば、当該構造は、当該技術分野における通常の知識を有する者が当該構造を構築し、発明で言及した結果(出力)を当該構造で再現することができれば、十分に開示されたと判断することができ、このような再現性が認められるためには、特許出願が入力と出力との間の相関関係を詳細に説明しなければならず、このような説明が技術的効果が達成される理由を説明するという見解である。JPOは、発明が推定プロセッシング(estimation processing)のために生成された学習モデルを使用する人工知能の応用発明に該当する場合、実施可能記載要件を満たすためには、当該発明が推定プロセッシングにおいてある程度の正確度を達成することができる、つまり、当該発明はある程度の正確度を有する学習モデルを生成することができるという説明が明細書に記載される必要があり、当該モデルを生成するために使用される訓練データにおいて入力と出力との間に関係が存在する場合、人工知能アルゴリズムは、入力と出力データの関係を基盤として正確な推定プロセッシングを遂行する学習モデルを生成できるとみることができるという見解である。そして、このようなデータ関係を説明するためには、統計的証拠(statistical proofs)を提示したり、実験を通じて生成された学習モデルの正確性を検証する方式などがあり得るとみている。

8. 人工知能が当該技術分野における通常の知識を有する者(a person of ordinary skill in the art)の水準に影響を与えるか?そうであればどのような影響か?

JPOは、ある技術分野に人工知能が広く使用される場合、同一の技術分野で通常の知識を有する者は人工知能を使用することができるため、当該技術分野における進歩性は、当該技術分野における通常の知識を有する者が人工知能の能力を使用することができるという前提に基づいて決定され得るとみている。

9. 人工知能発明に固有の先行技術に対する考慮事項があるか?

AIPPI(International Association for the Protection of Intellectual Property)は、基本的に人工知能発明固有の先行技術に対する考慮事項がないとみながらも、先行技術に開示された人工知能、例えば、神経網が特許出願で請求された人工知能と機能的または構造的に同一か否かを、実験または他の深層的な分析なしには判断することが不可能か、もしくは容易でなく、このような実験または分析結果は、登録以降の手続または訴訟段階になってこそ可能となり得るという問題を提起したりもした。NSIP Lawは、特許庁に化学、自然および材料科学をはじめとする全ての審査グループにかけて、人工知能技術に一般的な理解が必要であり、このような一般的な理解は、審査官がより正確かつ迅速に検索を行い、参照文献の開示が適用可能か、または適するか否かを迅速に明確化することに役立つとみている。

10. データ保護のような、人工知能発明に必要な新しい知的財産権保護の形態があるか?

IBMは、訓練されたモデルの出力およびこれに連関した係数(coefficient)は単純にみえるが、訓練されたモデルおよびこれに連関した係数を開発することは決して些細なことではないため、このような努力は一種の保護を必要とするが、既存のIP保護は、このような保護には不十分であるとの見解と共に、訓練されたモデル、データセット、訓練されたモデルから得られた係数、人工知能マシンを通じて入力データを実行するために使用されるアルゴリズム式などを適切に保護するための方案が必要であることを主張している。

11. 人工知能発明の特許に関して検討しなければならない他のイシューがあるか?

IEEE-USAは、人工知能技術において可能な特許保護の範囲に対する問題を言及しているが、最近、人工知能は決定論的(deterministic)な接近方式よりは確率論的(stochastic)な接近方式に発展しているため、中間および最終結果の尤度(likelihood)を評価することが次第に重要になってきており、このような決定論的技法から確率論的分析の計算的/統計的な接近方式への動きは、人工知能がより計算集約的(compute-intensive)であることを意味するため、人工知能発明が特許適格に対する拒絶を受ける可能性がより高くなり得るとみている。JPOは、人工知能により物理的特性が予測される物質(化合物、組成物、製薬など)に対する請求項がある場合、特許性を認められるために必要な内容(つまり、計算結果のみで十分であるか、または化学実験が追加的に必要であるか否か)が明細書に説明されていれば役に立つという意見を提案している。

12. 人工知能発明の特許に関するUSPTOの政策および慣行に情報を提供できる他の主要特許機関の関連政策または慣行があるか?

IBM、NSIP Lawなどは、人工知能技術の保護および投資を加速化するために、人工知能特許出願の審査期間を6ヶ月以内に短縮するシンガポールの「Accelerated Initiative for Artificial Intelligence、AI2」のような制度の導入が必要であるという意見を提案している。

小結

https://www.uspto.gov/initiatives/artificial-intelligence/notices-artificial-intelligenceではUSPTOの人工知能発明特許に関する質問に対する多数の個人および機関の応答を確認することができる。このような論議により、特許庁の人工知能分野に対する審査政策方向および審査基準を樹立して、人工知能産業の競争的な活性化および発展を図り、海外進出および事業化予定企業に人工知能分野の特許明細書作成、および海外特許獲得のための戦略に役立つ多様な特許イシューに対する洞察が可能となるとみられる。