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「記述的標章」と「暗示的標章」の区別および「商標の使用」について-「名誉の殿堂」事件
YOU ME 法務法人 弁護士 辛東桓・申昊埈

Ⅰ. はじめに

「名誉の殿堂(Hall of Fame)」は、本来、米国でスポーツ、芸術などの特定分野で偉大な業績を残して持続的な尊敬を受ける人々を賛えるために設立された記念館、団体、集まりを意味するが、現在は特定分野で偉大な業績を残した人々のリストそのものを意味する用途で多用され、人だけでなく、優れた品質を有する物やサービスのリストの意味としても使用されるなど、その活用の幅が広くなってきている。

このような「名誉の殿堂」という用語を特定の物またはサービスを指称する「商標」として登録することができるのか。登録可能であれば、指定商品を対象として如何なる場合にも商標権者の許諾を受けずには「名誉の殿堂」という単語を使用できなくなるのか。

Ⅱ. 事件の概要

1999年、インターネットサイトなどを運営していたS氏は、書籍、雑誌、定期刊行物、学習教材など(第16類)を指定商品とした「名誉の殿堂」標章の商標出願を行って登録を終えた後、アニメーション、コンピュータプログラム、インターネット広告代行業、オンラインゲームサービス業、ネックレス、指輪などの多数の商品とサービスを指定商品とした「名誉の殿堂」標章の商標を登録した。

一方、2007年からオンラインショッピングモールサイトを運営して女性衣類などを販売していたY社は、国内大型オープンマーケットサービス企業であるA社が2014年9月頃に作ったオープンマーケットのファッション専門館内に、上位の有名ショッピングモールを選定した 「名誉の殿堂」に入店した上で、自社製品の商品名の前に「名誉の殿堂」という表示を付けて販売していた。

M社は、2017年S氏から「名誉の殿堂」商標の専用使用権契約を締結した後、「名誉の殿堂」を使用する企業、報道機関などに使用を中止するよう主張する警告状を送り始め、Y社を相手取っても商標権侵害を主張して民事訴訟を提起した。これに対してY社が入店しているオープンマーケットA社は、Y社のために訴訟に補助参加し、当法務法人はA社を代理して本事件を進行した。

Ⅲ. 事件の争点

1. 記述的標章と暗示的標章の区別

記述的標章(descriptive mark)は、商品の特性を説明したり品質内容を記述する目的で表示された標章であり、このような記述的標章は一般的に商品識別の機能がなく、識別の機能がある場合であるとしても、商品取引において何人にも必要な表示であるため、ある特定人のみに独占的に使用させるということは公益上妥当でないため、商標法で商標登録を受けることができないように規定している(大法院99フ2549判決(2000.2.22.言渡)、大法院2002フ710判決(2004.6.25.言渡)など)。

商標法第33条

①次の各号のいずれか一つに該当する商標を除いては商標登録を受けることができる。

3. その商品の産地・品質・原材料・効能・用途・数量・形状・価格・生産方法・加工方法・使用方法、または時期を普通に使用する方法で表示した標章のみからなる商標

これとは異なり、暗示的標章(suggestive mark)は、商品の特性を直接的に記述、描写するのではなく、間接的、暗示的に表現する標章であり、原則的に識別力が認められて商標登録を受けることができる。暗示的標章として認められるためには、需要者が標章から商品の品質などに関する単なる暗示を受けるに過ぎず、具体的な観念を直感的に引き出すことができないものでなければならない。

しかし、一般的に販売者は、需要者が容易に認識することができるように、可能であれば、商品と関連性のある単語(または単語の組み合わせ)を商標として選択しようとする傾向にあるため、相当数の商標が記述的性格を一部有する状態で記述的標章か暗示的標章か極めて曖昧な形態で出願・登録されている。

大法院は、商標が有している観念、指定商品との関係、取引社会の実情などを勘案して客観的に判断しなければならないという基準を提示しているが(大法院2007フ3042判決(2007.11.29.言渡)など)、具体的な事案において、如何なる標章が記述的標章であるのか、または暗示的標章であるのかを明確に判断することは、極めて困難である。

本事件では「名誉の殿堂」が既に1970年代以前から新聞記事などで広く使用されてその意味を一般人がよく知っており、一般人も特定分野の最も優れた人物または物を選定したリストを指称するのにありふれて使用しており、インターネットショッピングモールやブランド評価サイトなどで優れた製品または企業を選定して紹介するときの名称としてよく使用されている点などを考慮すると、需要者が「名誉の殿堂」という表示から商品またはサービスの優秀性という特性を引き出す可能性は十分に認められる。しかし、需要者がこのような商品またはサービスの優秀性を「名誉の殿堂」という標章そのもののみにより直ちに直感することができるのか(記述的標章)、そうでなければ、標章により暗示を受けた後、想像力を活かしてこそようやく引き出すことができるのか(暗示的標章)に対しては、原告M社と被告Y社および被告側補助参加人A社の主張が激く対立した。

2. 商標の使用

登録商標と同一・類似する商標を登録商標の指定商品と同一・類似する商品に使用したとしても、それが商標の本質的な機能といえる出所表示のためのものではないため、「商標の使用」と認識され得ない場合には商標権侵害が認められない。

具体的な例を挙げると、商標が単に説明的・記述的に使用された場合(用途表示、説明など)、商標がデザイン的にのみ使用された場合、商品を分解しなければ認識できない内部基板に表記された場合には、登録商標を使用したとしても「商標の使用」ではないため、商標権侵害とならない。

このような「商標の使用」に関して、商標法では商品標章の使用についてのみ行為態様を規定しており(商標法第2条第1項第11号)、サービス標章の使用については行為態様を別途規定していない[1]

商標法第2条(定義)

11. 「商標の使用」とは、次の各目のいずれか一つに該当する行為をいう。

イ.商品または商品の包装に商標を表示する行為

ロ.商品または商品の包装に商標を表示したものを譲渡もしくは引き渡し、または譲渡もしくは引き渡す目的で展示・輸出もしくは輸入する行為

ハ.商品に関する広告・定価表・取引書類、その他手段に商標を表示して展示したり、広く知らせる行為

ただし、大法院はサービス標章の使用と関連して「サービス業に関する広告・定価表・取引書類・看板または標札にサービス標を表示し、これを展示または頒布する行為や、サービスの提供時に需要者の利用に供する物または当該サービスの提供に関する需要者の物にサービス標を表示する行為、サービスの提供時に需要者の利用に供する物にサービス標を表示したものを利用してサービスを提供する行為、またはサービスの提供に利用する物にサービス標を表示したものをサービスの提供のために展示する行為などが含まれる。」と行為態様を例示的に列挙しており(大法院2010フ3080判決(2011.7.28.言渡)参照)、「商標法上、サービス標の登録を受けて使用することができるサービス業は、他人の利益のためにサービスを提供し、その代価を受けて自分の収入にすることを業とすることをいうとみるべきである点を考慮すると、商標法上、サービス標の使用行為は、有償でサービスを提供する行為であるか、またはこれに付随する行為とみることが妥当である。」として(特許法院2012ホ2197判決(2012.8.23.言渡)、上告棄却で確定)、判例として法律の空白を補完している。

本事件でも被告Y社が「名誉の殿堂」という文言を使用したことが「商標の使用」に該当するか否かが争点となった。

これと関連して原告M社は、Y社が「インターネット広告代行業」を指定サービス業とする商標の専用使用権を侵害したことを前提として[2]、①Y社が「名誉の殿堂」をY社の衣類または衣類販売インターネットショッピングモールの出所表示として使用したとの主張や、②Y社のインターネットショッピングモール営業および広告に「名誉の殿堂」を表示したため、「インターネット広告代行業」を指定サービス業とする商標の侵害が成立するなどの主張を行った。

しかし、①Y社が「名誉の殿堂」を使用するようになったのは、Y社がA社のオープンマーケットの「名誉の殿堂」企画館に入店して製品を販売しているという趣旨で使用したものに過ぎず、ファッションブランドショッピングモール企業であるY社の出所表示の機能として使用した事実はなく、たとえ商品またはサービスの出所表示の機能として使用したとしても、「インターネット広告代行業」サービスと同一・類似の商品またはサービスの出所表示の機能として使用されたとはみることはできず、②商標法上、サービス標の使用行為は、有償で独立して商取引の対象となるサービスを他人に提供する行為であるか、またはこれに付随する行為を意味するが、自分自身のために広告する行為を「インターネット広告代行業」のサービス提供行為とみることもできないといえる。

Ⅳ. むすび

結局、本事件は、法院の和解勧告決定により円満に終結し、Y社とA社共に満足な結果を得ることができた。果たしてM社の「名誉の殿堂」登録商標は商標法上登録することができる標章に該当し、Y社はM社の専用使用権を侵害したのであろうか。判断は読者に任せる。

 

[1] 参考までに、日本商標法では具体的にサービス標章の使用行為態様を規定している。

[2] 原告M社は、当初は原告が専用使用権契約を締結した全ての登録商標(貴金属、時計(第14類)、コンピュータを利用した電子掲示板サービス業(第38類)などが指定商品)に対して侵害を主張したが、本事件の最終段階には他の商標に対する侵害主張を全て撤回し、請求の原因の主張を「インターネット広告代行業」を指定サービス業とする商標の侵害のみに整理した。