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特許発明の利用関係と侵害判断、および特許法第130条の過失推定の意義-大法院2019ダ222782、222799判決(2019.10.17.言渡)【特許権侵害差止など】[公2019下、2090]
弁理士 申智慧

【判示事項】

先特許発明と後発明が利用関係にある場合、後発明が先特許発明の権利範囲に属し、国内で特許発明の実施のための部品または構成の全てが生産されるか、または大部分の生産段階を終えて主要構成を全て備えた半製品が生産され、特許発明の各構成要素が有機的に組み合わされた、一体として有する作用効果を実現できる場合、属地主義下において国内実施とみなして侵害と認めることができると判示した事例

【判決の要旨および大法院の判断】

1) 利用関係と侵害の判断

i) [利用関係の意味] 先特許発明と後発明が利用関係にある場合には、後発明は先特許発明の権利範囲に属するようになり、二つの発明が利用関係にある場合とは、後発明が先特許発明の要旨を全て含んでこれをそのまま利用し、先特許発明が発明として一体性を維持する場合をいう。

ii) [権利範囲の解釈] 特許発明の保護範囲は、請求の範囲に記載されている事項により定められ、発明の説明や図面などにより保護範囲を制限したり拡張することは原則的に許容されないが、請求の範囲の解釈は、文言の一般的な意味内容に基づきながらも、発明の説明や図面などを参酌して文言により表現しようとする技術的意義を考察した後、客観的かつ合理的に行わなければならない。

iii) [属地主義の原則] 特許権の属地主義の原則上、物の特許権の独占的実施権利は登録国内でのみ効力が及ぶことが原則であるが、国内で特許発明の実施のための部品または構成の全てが生産されるか、または主要構成を全て備えた半製品が生産される場合、特許発明が一体として有する作用効果を実現できる状態に至ったとすれば、属地主義下において国内実施とみなすことができる。

2) 特許法第130条の過失推定の意味およびその反証

特許法第130条は、他人の特許権を侵害した者の過失を推定することと規定しており、これは技術実施者に当該技術分野における特許権侵害に対する注意義務を負わせるためである。

これに反し、実施者に過失がないとするためには、特許権の存在を知らなかったという正当な事情があるか、または自身が実施した技術が特許発明の権利範囲に属しないと信じた点を正当化することができる事情を主張・証明しなければならない。

【事案の概要】

1) 事実関係

原告は、名称が「医療用糸挿入装置およびこれを備えた医療用糸挿入施術キット」である特許発明を国内に所有していた。被告は、被告4の要求により日本に所在する病院に販売して使用されるようにする目的で「カテーテルとハブ」を生産した。被告が生産した「カテーテルとハブ」は、原告特許発明の構成である「挿入経路形成手段」と「医療用糸挿入装置」にそれぞれ対応し、その構成および効果が同一である。また、原告所有の特許発明は、「挿入経路形成手段」と「医療用糸挿入装置」を構成とするに過ぎず、ここに追加される医療用糸または医療用糸支持体の組み合わせ関係に対する限定はない。

2) 原審の判断

原審は、被告実施の「カテーテルとハブ」は原告特許発明の構成および効果と同一であるが、ここに縫合糸、縫合糸支持体を組み立てた製品は、追加的な加工・組み立てを必要とするため、本事件第1項発明に対する侵害とならないと判示した。

また、原審は、特許法第130条の過失推定の反証と関連して、間接侵害者である被告がカテーテルなど関連医療機器を専門とする企業であって、単に被告4の要求により本事件カテーテルを製作したとみられ、原告の特許を知っていたか、または本事件カテーテルなどを被告4以外の一般に販売したとみる資料がないとの理由により被告の過失推定が覆されると判示した。

3) 大法院の判断

大法院は、被告実施の「カテーテルとハブ」に縫合糸または縫合糸支持体を組み合わせた製品は、原告特許発明の要旨を全て含み、これを利用しながら一体性を維持して侵害が成立し、原告特許発明は、実施例の一つとして支持体の設置位置を指定することを提示してはいるが、明細書では支持体を「配置」するという表現をより多く使用しているところ、実施例により原告特許発明の権利範囲を制限することができず、被告などが本事件カテーテルとハブ、縫合糸、縫合糸支持体の個別製品を生産したことだけでも、国内において原告特許発明の各構成要素が有機的に組み合わされた、一体として有する作用効果を実現できる状態が揃えられたものであって、その侵害が認められると判示した。

同時に大法院は、特許法第130条の法理に照らし合わせて、被告などに特許権の存在を知らなかったということを正当化できる事情や本事件カテーテルが本事件特許発明の生産にのみ使用されるという点を知らなかったということを正当化できる事情が主張・証明されたとみることが難しいと判示した上で、原審判断を破棄、差戻した。

【判決の意義】

本判決は、特許発明と実施発明の利用関係の成立時、権利範囲の該当有無、および権利範囲の解釈基準を明確にし、属地主義の原則が適用される範囲を確認した判例である。

【参考条文】

[1] 特許法第98条、第126条、第128条
[2] 特許法第97条
[3] 特許法第94条、第127条第1号
[4] 特許法第130条

【参考判例】

[1] 大法院98フ522判決(2001.8.21.言渡) [公2001下、2110]
[2] 大法院2015フ161判決(2016.4.28.言渡)
[3] 大法院2007ダ45876判決(2009.10.15.言渡) [公2009下、1817]
[4] 大法院2003ダ15006判決(2006.4.27.言渡) [公2006上、879]