【判示事項】
旧特許法第133条第1項柱書で定めた「利害関係人」の意味、および当該特許発明と同じ種類の物品を製造・販売したり、製造・販売する者もこれに含まれ、特許権の実施権者が特許権者から権利の対抗を受けるか、または受ける虞がないとの理由により無効審判を請求できる利害関係が消滅したとみることができないことを判示した事例
【判決の要旨および大法院の判断】
(1) 旧特許法(2013.3.22.法律第11654号で改正される前のもの)第133条第1項柱書は、「利害関係人または審査官は、特許が次の各号のいずれか一つに該当する場合は、無効審判を請求することができる。」と規定している。ここでいう利害関係人とは、当該特許発明の権利存続により法律上如何なる不利益を被るか、または被る虞があるため、その消滅に関して直接的かつ現実的な利害関係を有する者をいい、これには当該特許発明と同じ種類の物品を製造・販売したり、製造・販売する者も含まれる。このような法理によると、特別な事情がない限り、特許権の実施権者が特許権者から権利の対抗を受けるか、または受ける虞がないとの理由のみにより無効審判を請求できる利害関係が消滅したとみることができない。
(2) その理由は次のとおりである。
i) 特許権の実施権者には実施料支給や実施範囲など多様な制限事項が付加されることが一般的であるため、実施権者は無効審判を通じて特許に対する無効審決を受けることによって、このような制約から抜け出すことができる。
ii) そして、特許に無効事由が存在しても、それに対する無効審決が確定するまでは、特許権は有効に存続し、むやみにその存在を否定することができず、無効審判を請求しても無効審決が確定するまでは相当な時間と費用がかかる。このような理由により、特許権に対する実施権の設定を受けずに実施したい者でも、まず特許権者から実施権の設定を受けて特許発明を実施し、無効の当否に対する争いを先送りにすることができるため、実施権の設定を受けたとの理由により特許無効の当否を争わないという意思を表明したと断定することもできない。
(3) これとは異なり、実施権者という理由のみにより無効審判を請求できる利害関係人に該当しないとの趣旨で判示した大法院76フ7判決(1977.3.22.言渡)、大法院82フ58判決(1983.12.27.言渡)をはじめとする同じ趣旨の判決は、この判決の見解に背馳する範囲内でこれを全て変更することとする。
【事案の概要】
被告は、原告を相手取って原告の本事件の第1、3、4、5、6、7項発明に対して無効審判を請求し、特許審判院では被告が本事件無効審判請求の利害関係人に該当するとみなした上で、本事件の第1、3、4、5、6、7項発明が拡大された先出願の規定に違背して登録されたとの理由により被告の無効審判請求を認容する審決を下した。これに対して原告が審決取消訴訟を提起したが、原審は特許審判院の審決を維持する審決を下した。
原告は、名称を「AMVPモードにおける映像符号化方法」とする本事件特許発明(特許登録番号省略)の特許権者であって、動画に関連する標準特許プールであるMPEG LA(www.mpegla.com)の「HEVC Patent Portfolio License」プログラム(以下、「HEVCライセンスプログラム」という。)に本事件特許権を登載してライセンサー(Licensor)として登録されている。
被告は、HEVCライセンスプログラムに自己の特許権を登載したライセンサー(Licensor)であると同時に、上記特許プールリストにある特許発明を実施する権利を有するライセンシー(Licensee)として登録された者であって、本事件特許発明と同じ種類の動画圧縮技術を用いた映像関連物品を製造・販売する者である。
本事件特許発明に対する無効審決が確定する場合には、i) HEVCライセンス(license)契約第6.1条により原告とMPEG LAとの間の契約は失効となり、ii) 本事件特許発明はHEVCライセンスプログラムから除外されるため、被告としては何等制約なしに本事件特許発明を実施できることとなる。
このような事実関係を上述の法理に照らし合わせてみると、被告は本事件特許発明の実施権者であって、特許発明の権利存続により法律上に不利益を被って、その消滅に関して直接的かつ現実的な利害関係を有する者に該当する。
したがって、被告が本事件特許発明に対する無効審判を請求できる利害関係人に該当すると判断した原審判決は正当であり、そこに上告理由の主張のように無効審判を請求できる利害関係人に関する法理を誤解するなどの誤りがない。
【判決の意義】
本判決は、特許権者から特許発明を実施できる権利の許諾を受けた実施権者が無効審判を請求できる利害関係人に該当するか否かと関連して、実施権者という理由のみにより利害関係が消滅したとみることができないと判示したものである。
【参照条文】
[1] 旧特許法(2013.3.22.法律第11654号で改正される前のもの)第133条第1項
[2] 行政訴訟法第8条第2項、第27条、民事訴訟法第142条
[3] 旧特許法(2013.3.22.法律第11654号で改正される前のもの)第29条第3項(現行法第29条第3項、第4項参照)
【参照判例】
[1] 大法院76フ7判決(1977.3.22.言渡)(変更)
大法院82フ58判決(1983.12.27.言渡)[公1984、264](変更)
[2] 大法院2012フ436判決(2013.4.11.言渡)[公2013上、885]
大法院2016ドゥ45783判決(2018.7.26.言渡)[公2018下、1862]
[3] 大法院98フ1013判決(2001.6.1.言渡)[公2001下、1537]
大法院2006フ1452判決(2008.3.13.言渡)
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